27、行き当たりばったりのトラブル
「なぁ、プライド?俺たちの旅の目的って何になるんだ?」
「そうだな……。とりあえずは『エメラルドの証』を持ちながら色々な都市を転々としてインフェルノの攻撃をかわしていこうじゃないか。あとは、他の証も探せるなら探したいな」
「なるほどな」
リュックに入った『エメラルドの証』。
ゲームではプロローグでプライドに盗まれた貴重品が、まだ手元にあるというだけで大分黒幕の牽制にはなっている……と信じたいところである。
とりあえずは、ゲーム本編の通りに進むのが無難だろうか……。
「アークの森を抜けると、サラグスという都市がある。まずはそこへ向かおう。今のわたしもユキも無職みたいなものだし、そこで冒険者登録をしよう」
「冒険者登録!おぉ!すげぇ!」
本編でもユキとカスミが冒険者登録をすることになるのがサラグスである。
そこで、自分オリジナルのファミリーやパーティーが組めるというゲームシステムを楽しめるのだ。
「あとはこれを機に装備の見直しだな……。このインフェルノの制服を着ていたら死んでいるはずのわたしが目立ってしまうし違う防具が欲しいものだな……」
「くっ……。インフェルノの制服姿のプライドが大好きなのにまさか脱がせなきゃいけないとはっ!」
露出が多くて、目のやり場に困るような黒をメインにしたインフェルノの印が刻まれた制服はプライドのデフォルトの姿なのでこれを脱ぐことになるのが非常に惜しい。
「ゆ、ユキの好きなものは好きだとハッキリ伝えるところ大好きだ。…………ただ、あんまり照れさせないでくれ……」
口元を左手で抑えながら俺から目を反らすプライド。
頬辺りが真っ赤だが、ここは見えない振りをしておく。
そんなやり取りをしながらアークの森を抜け出した。
ロック鳥とはエンカウントせずに、ガルガルの群れが2つと遭遇しただけに留まり平和なアークの森縦断であった。
おかけでレベルが1も上がっていないのも、そろそろ経験値が貯まりにくい境地に入ったのかもしれない。
「サラグスはこっちだ。ユキはサラグスに行ったことあるか?」
「ないんだよねー」
「意外だな。アークの森に入り浸っているんじゃないのか?」
「アークの森を出たことはあるんだけど、サラグスではなく逆方向に行ってたよ」
「あの辺なにもないが……?」
「ゴブリンとかのモンスターを倒すのが目的だったからな」
明確なゲームスタートになるプライドやレインによるインフェルノの襲来が起こるまではサラグスには近寄らないのを意識していたのだ。
変にサラグスへ遊びに行き、ゲームの進行フラグをへし折るようなことになったら目も当てられないのでわざわざモンスターが出るだけでイベントが一切発生しないゲームの容量が無駄な場所で延々とレベリングをしまくっていた。
「はぁ……。ワープ魔方陣が恋しい……」
プライドが少ししんどそうにしていた。
確かにワープの移動に慣れているエリィィィト騎士がバカ真面目に歩いて王都からめちゃくちゃ遠いアーク村まで来るわけがない。
確か、王都には都市にワープできる王族や騎士などの選ばれし者しか使えないワープ魔方陣が存在する。
ちょうどサラグスと王都は魔方陣で繋がっているので数分で長距離の移動を可能にしている。
「レインさんたちがわたしを置いてサラグスのワープ魔方陣を使って王都に撤退という名の逃亡をしたと思うとイラっとするな」
「まあまあ。こうして2人肩を並べてずっと歩き続けるなんて新婚旅行みたいじゃないですか」
「お前のそのポジティブさはなんなんだ?」
「プライドが隣にいれば、どこでも新婚旅行気分ですよ!」
「わたし、愛されてる……。こんな乙女な自分の面があるのかと、自分のことながらちょっと引くぞ」
「誇ってくださいよ」
ここで朝日が昇るキレイな海が近くにあったら沖縄へ新婚旅行をした気分になれそうだ。
しかし、周りは草原だらけ。
草や地面を踏みながら歩いて行くと、活発に人が移動している都市であるサラグスが見えてきた。
「…………ところで、プライド?サラグスのような大きな都市って確か冒険者登録をしたライセンスや、交通許可証が必要だよな」
「そうだな。じゃないと門番はサラグスに入れてくれないだろうね。わたしだって昨日、交通許可証を提示している」
「……因みに、プライドの交通許可証は使えるのか?」
「履歴が残るし無理だろう。もし、死んでいる人間の交通許可証が使われたらインフェルノにわたしが生きていることが知られる原因になるだろうな」
「じゃあ、俺らサラグスに入れなくない?」
「…………」
ゲーム本編では、カスミが門番をリアルファイトで下したことにより、気絶させてサラグスに潜入出来ていた。
だが、残念ながら頼りのカスミは不在。
もう1つのアテとして、俺の父親のロス・エメラルドと、母親のマキ・エメラルドのどちらも元・冒険者の肩書きがある。
だから、間違いなく冒険者ライセンスは両親が持っていると考えて良い。
しかし、両親のライセンスを手に入れようとするなら、また村へと引き返さないといけないことにより頭を悩ませる。
せっかく『しばらくのお別れ』の挨拶を進めた数時間にアーク村に戻るのは相当な勇気と度胸が必要だ。
そんなことに無駄な時間ロスは割きたくない。
カスミのように、俺とプライドで門番相手に強行突破を仕掛けるのもやむ無しかと思うと、「良き案がある」と隣の彼女が自信満々に言い放つ。
「これぐらいのトラブル、エリィィィトには付き物だわ」
「そ、そうなの……?」
若干不安なんだけど、大丈夫なのだろうか?
プライドが自信満々なほどに不穏さがある。
「もしかして強行突破する?」
「そんな野蛮なことはしませんわ。エリィィィトならもっとスマァァァトにいきますわよ」
「スマァァァト?」
悪役らしい悪い顔をしながら、プライドはサラグス突入の案を提案してくるのであった。
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