26、思い出の地
俺とプライドは夕日を背中にして、2人にとって特別な場所に来ていた。
すべてはここから始まったんだ。
「ほらほら!見てくれよプライド!懐かしいなぁー。ここで俺とプライドが偶然出会った思い出の地だぜ!」
「わかった……。わかったから大声で言わないでくれ……。恥ずかしい……」
アーク村からすぐ近くにあるダンジョン。
アークの森の入り口。
ここは、1年前に偶然アーク村への秘匿な偵察としてプライドが派遣されていた場所である。
懐かしい……。
あれからプライドと釣り合う男になるための強い決心があった。
それから月1でカスミと冒険者ごっこと称してレベリング作業。
たくさんたくさん辛いこともあったが、楽しいこともあったな。
ここにカスミがいてくれれば鬼に金棒だし、俺の戦闘をよく支えてくれた相棒だし、心の支えだし……。
いないのがちょっと寂しい……。
「初対面時にプライドが言った言葉覚えてる?」
「な、な、な、なにか言ってたかなぁ?」
彼女のつり目がちょっと泳ぎながら、なにか変なことを言ってないかと不安なのか動揺していた。
「か、『可愛い坊やがいる』とか言ってたかもな……」
「『──あっらぁ?なに、この子供ぉ?』って初対面から煽ってたよ」
「やめて……。ユキから弄られるの恥ずかしい……。わ、わたしそんな態度悪くて物騒なこと発言してたんだっけ……?」
「『わたし、優しいから剣じゃなくて鞭で殺してあげる』とか態度は悪かったよ」
「こ、殺す気はなかったんだよ!?ただ、ちょっとズタズタにしてわたしを目撃した記憶を飛ばしてやろうくらいの感覚だったの!」
「充分物騒だよ」
いつもよりも1トーンほど高い声で変な言い訳をしてくる。
身体が動くとぬるっと動く胸が気になってしまい、目のやり場に困る。
「で、でもユキは本当にドMよ」
「ん?」
「そんなにボロクソ言われて『プライド!俺と結婚してください!』って告白する?普通?」
「それだけプライドが魅力的だったんだよ」
「っ…………!?」
「あ、顔赤いよプライド。照れてるプライド可愛くてギャップあって大好き」
「んんんんん!年下の癖にムカつく!ムカつく!」
いつ見てもプライドを弄るのが好き過ぎる……。
俺はなんて幸せ者なのだろうか。
「お、お前はな……。もうちょっとしおらしくなれないのか!?」
「ご、ごめんねプライド……。君が不快な思いをするならやめるね……」
「んんんんんん!しょぼーんとするな!捨てられた子猫みたいで守ってあげたくなるじゃないか!わたしが悪い気分になるじゃないか!」
「ご、ごめん……」
ガクーンと肩を下ろしたが、それがプライドの罪悪感を増強させたらしい。
拳を作り、足踏みをして叱るプライドの足がエロくて良いなと思う。
スラッとした身体のラインのメリハリがあって、もはや芸術品である。
「ちょ、ちょっとキュートなお前に抱き付いて良いか?」
「う、うん……」
「じゃあ……。うん……」
プライドが少しかがみながら、俺の身体をぎゅーと抱き付く。
全身からプライドの甘い香りが包んでいく。
「可愛いなぁ……。虐めたいくらい可愛い……」
「虐められたいくらい気高い……」
「はぁ……。エリィィィトなのにドンドン堕ちていく様を自覚してしまうな」
そう言うものも、その声は穏やかで後悔のようなものは無さそうだ。
それから10秒くらい抱き付いていると、「よし!」と掛け声を上げて立ち上がる。
「行くぞユキ。少しでもアーク村から離れるぞ。今日中には違う村には向かいたいところだな……」
「うん。そうだね……」
きちんとした旅の目的はあるが、プライドとイチャイチャしたい気持ちはまだまだあるジレンマが残る。
あぁ……、モヤモヤする……。
彼女の温もりが離れただけで、心が痛い……。
「そんなあからさまにガッカリしたような顔をするな……。宿に着いたらもっと色々していこうじゃないか」
「ぷ、プライド……!」
「一緒に生き抜こうな、未来の旦那様」
「み、未来のっ!?」
「クスクスクス……。きゃははははは!動揺しちゃってたんじゅーん!」
「お、男心を弄るな!」
「仕返しよ、このショタ!」
意地悪にキリッとした顔を見せる。
特に左目の下にある黒子がまた悪女って雰囲気をプンプンに匂わせている。
「アークの森に踏み込むぞ」と彼女から背中を押され、森の中に入っていく。
アークの森はこれまで10回以上は探索したこともあり、見慣れた光景であった。
いつものようにガルガルの群れを見付けていた。
『キャンキャンキャンキャンキャンキャン!?』
『ガルガルガルガルガルガルガル!?』
「ドンドン行くぞぉ!」
「……いや、なんだそのガルガル狩りは。滅茶苦茶じゃないか!?」
これまで仲間を多分1000匹以上は狩ったのを覚えられているのか、ガルガルは俺を目撃すると簡単に背中を向ける。
だが、簡単に背中を向ける獲物こそ格好の的なのは間違いないだろう。
木刀を振り回しながら、ガルガルを捌いていく。
「まったく……、しかも何匹か打ち漏らしているじゃないか」
ピシッと大きな音が鳴る。
プライドが鞭をしならせて、俺が倒しきれなかったガルガルを2匹同時に始末していた。
「というか、ユキ……?お前、ガルガルのような弱いモンスターもいちいち狩っているのか?アイテムの『聖なる灰』でもばら蒔けば良いだろうに……」
『聖なる灰』とは、いわゆるモンスター避けのアイテムである。
RTAでは必須アイテムとして、100個単位で買う光景が定石である。
「いやぁ……。少しでもレベル上げたい癖が抜けなくて……」
因みに、俺のRPGの進め方はしっかりしたレベリング、やり直しが効かないイベント攻略、ダンジョンを引き返しながらの宝箱収集とやり込みたいスタイルが完全に抜けていない。
「だからこそ1年でわたしを殺せるほどにストイックに強くなったと褒めるべき点もある。あと、お前ほど強くてなんでそんな護衛用の棒きれ木刀なんか愛用している?」
プライドが、ボロボロな自分を殺した武器を指を差して、素朴な疑問を投げ掛けてくる。
「これか」と木刀を自分の目の前に持ってくる。
「実はレベリングって弱い武器を使ってモンスターを倒していく方が、強い武器を使って倒すよりも経験値が貯まるのが早いんだよ」
「な、なに?」
「騎士の人とかはレベルが低くても分厚いけど動きやすい鎧や制服、切れ味が鋭くて軽くて長持ちみたいな剣とかを質の良い武器が配布されるでしょ。あれ、レベリング成長の妨げになるんだよ」
『ハートソウル』の仕様として、『モンスターやボスに対して弱い装備で戦った方が経験値がより多く入る』というものがある。
ゲームが発売されてから8年経ってから海外勢による解析によって見付かった裏技である。
だから、カスミも武器なしの拳だけで戦ってきたので、俺とカスミのレベルが普通の人よりも高く成長していたのである。
本編でも、カスミは色んな意味で武器が必要のないユニットとして評価が高いのだ。
「初心者こそ強い武器に頼る傾向があるからな……。これはかなり盲点だったな……」
ゲームシステム的に、主人公が弱い時は弱い武器しか買えないし、入手できないRPGのお約束がある。
ゲームを盛り上げるためにはそんなの当たり前だ。
しかし、この世界の住人はプライドの言う通り武器依存な冒険者や衛兵、騎士が多いのも事実である。
「ふっ……。お前も騎士に入っていたらわたしと同等のエリィィィトだったかもな……」
「あ、ありがとう……」
プライドに同等のエリィィィトという褒め言葉は俺を殺せるほどの殺し文句である。
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