24、別れ

「わぁ!まさかユキの誕生日に我が家の当主がユキに継承されるなんて思ってなかった。おめでとうユキ」

「ありがとう、お姉ちゃん」


エメラルド家にいた全員がパチパチパチと拍手を送っていた。

当然、プライドもヤレヤレといった感じで手を叩いている。


「いや、おめでたいけど待ってぇぇ!?私、いきなりユキとサヨナラなんて嫌ぁ!」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん……。ちょくちょく帰る予定だから……」


『ハートソウル』も冒険が進むと、過去に1度来たことがある村や街にワープする魔法が使えるようになる。

それさえあれば、いつでもアーク村に行けるはず。

入手が出来れば良いのだが……。


「その……、サキ……。お前はそろそろ弟離れをしなくてはならない時期だとお父さん思うぞ……」

「あん?」

「お前、もう18なんだぞ……?」

「だってぇ!ユキと結婚は無理だとしても、お互い未婚のまま一生ユキと暮らすつもりだったのに!お父さんは弟としてユキの子種をお母さんに与えた罰を受けて欲しいわ」

「っ!?」


理不尽な罰を言い渡されたお父さんは衝撃を受けていた。

なんか、男の立場が低いなぁ……。

現代も、ゲーム社会も悲しい場面である。


「ところであなた。ユキの学校はどうするの?」

「中退だな」

「俺の最終学歴小等部中退か……」

「エリィィィトとはほど遠い学歴ね」


プライドもこれには苦笑いである。

が、よくよく考えたら原作のユキもカスミも最終学歴は小等部中退なので今更である。

なるべくしてなった感がある。


「ロス・エメラルド」

「はい」

「インフェルノの陰謀にユキを巻き込んだこと。エリィィィトとして申し訳ないと思っている」

「エリィィィト?」


今更そこに突っ込むんだ。

お父さんの当たり前の反応にちょっと笑いそうになる。


「私はユキの将来を奪ってしまった。だからこれは少ないがもらって欲しい」

「は……?」

「1000万ゴールドある。わたしが騎士として稼いできたほとんどです」

「あ、あの……。受け取れませんよこんなに!?」


俺の誕生日プレゼントを入れていたバッグから100万ゴールドを詰め込んだ袋を10個ドサドサとテーブルに置いていく。

俺の価値が1000万ゴールドの大金ぶんもあるのかはわからないが、これは流石にやり過ぎではないだろうか。

庶民なお父さんもお母さんもうろうろして目が泳いでいる。


「大丈夫です。悪いことをして稼いだものではありません。このお金にはエリィィィトの誇りをすべて詰め込みました」

「そういう話ではなくてですね……。ユキ、お前からも言ってくれ……」

「プライド……。仕舞ってくれ……」


お父さんの泣きそうな目に乞われて、俺もプライドに仕舞うことを促す。

しかし、フルフルと首を振るだけである。


「どうせ屍になった時点で消えていたわたしの財産だ。ユキの家族の支えになってくれたら嬉しい」

「屍になった……?」

「気にするな。とりあえずお金を貯める理由もない。受け取ってくれ」

「……では、預かっておきます。プライドさんやユキに何かあったら使わせていただきます」

「サキさんも王都に行きたいと思ったら使ってくださいね」

「ゆ、ユキを奪った人からの施しなんて!施しなんて……」


お父さんがごり押しに負けた瞬間だった。

小市民だから多分よほどな理由がないとお金を使わないんだろうな……、と家族の性格から推理する。

ただ、サキについてはわからない。

プライドの本人の許可もあるのだし、王都で暮らす進路とか決まったらその資金にでも使って欲しいと思う。


「ぅぅ……。ユキが旅立つなんて……」

「寂しくなるわね……」

「お父さんを一生恨む……」

「恨むなら王を恨んでくれ……」


サキとお母さんが悲しむ中、お父さんは不敬発言をしていた。

でも、この日にプライドと旅立つという雰囲気になっていた。


「お姉ちゃん、いつでもユキの帰り待ってるならね……」

「うん。お姉ちゃんにお土産いっぱい買ってくるから」

「しばらく会えないからユキエネルギー補充のハグ!」

「は、恥ずかしいよ……。お姉ちゃん……」

「……………………」


無言でじーっと見つめてくる2つの目と、泣き黒子の圧が強くて後ろを振り返れなかった。

そんなこんなで旅立ちの準備をしていた時だった。


「私は、反対だよ!ユキとお別れなんて絶対嫌だからっ!」

「カスミ……」


大人なサキでも、渋々理解した旅立ちもカスミだけは猛反対であった。

本当なら、カスミとの2人旅になるはずだったのを思い返すと、可哀想ではある。


「ユキが居ないなら村が無くなるの?なら、村なんか無くなれば良い!」

「カスミ……」

「ユキと離れたくないよぉぉ!」


サキに助けを求めるようにアイコンタクトをするが、『無理無理!』と首と手を振ってジェスチャーをする。

すると、カスミにお父さんが優しく声をかけた。


「なら、カスミちゃん?お父さんとお母さんにユキと一緒に村を出て旅をしたいと言ってみたらどうだい?ね、ユキ?」

「あぁ!カスミも強いんだし、味方になってくれるなら俺嬉しいなー」

「本当に!?」

「うん。カスミなら大歓迎だ!」

「よーし!お父さんとお母さんのところに行くよ!」

「おじさんも事情説明に付いて行ってあげるから」


カスミの申し出。

確かに、彼女の力がパーティーに入るならとても心強い。

プライドとの2人旅も魅力はあるが、これからのゲーム本編を進めるためにもカスミの戦力は欲しい。

あの脳筋が味方だとすれば、俺も安心して背中を任せられる。

いつも、カスミとレベリングしている際に持っていく無限に入るリュックや木刀などの準備を済ませた。


「また帰ってきてねーユキ!死なないでねー!」

「お母さん、いつでもあなたの大好きな豚汁作って待ってるから!」


サキとお母さんと別れを告げ、エメラルド家を発つ。

近所であるカスミの自宅へ行き、彼女の両親に対してお父さんとカスミが説得にかかる。





──30分後。






「絶対にダメですカスミ!アーク村の外なんて危険がいっぱいなんだからね!学校もあるのに……。まだあなた12歳なのよ!?」

「いーやーだー!ユキと一緒に行くんだもん!」

「大体、あなたが騎士様に勝てるわけないでしょ!」

「勝てるもん!勝てるもん!私、強いもん!瓦破壊出来るもんっ!」

「まあまあ。お前もカスミも落ち着けって……」

「…………」

「…………」

「…………」


あ、無理だわ……。

娘と妻を仲裁するおじさんがただただ不憫だった。

俺、プライド、お父さんは手応えが無さすぎることを察していた。

『あら、息子のユキさん村を護るために冒険するなんて凄いですね!』と、ビックリしていたが、カスミも連れて行きたい旨を話した瞬間におばさんの眉が鋭くなったのを見逃さなかった。

プロローグでレベル1のカスミがドロップキックでモブ騎士をぶっ飛ばすシーンがある辺り、確かに騎士にも勝てるには勝てるだろうが、それをおばさんらが知るわけがない。


「お宅のユキ君もあまり危険なことに巻き込むのはよくないですわ。本来なら大人なロスさんたちがやるべきことでしょ」

「それは……、はい。面目ない……」


怒りの矛先は、カスミから俺たちエメラルド家の方へ刷り変わる。

『偉いですねー、素晴らしいですねー』という反応から一転、『それはおかしいんじゃない?』というアンチに鞍替えった瞬間であった。


「ウチも困っているのよ!お宅の息子さん、カスミと仲良くしてくれるのはありがたいのですが、ユキ君がいると勉強しないんですよこの子!女の子なんか身体を動かせる必要なんかないんですからっ!」

「む……」


事情は知らないとはいえ、元騎士であるプライドを侮辱したような発言に彼女も反応したが、握り拳を作っただけで殴ったりはしなかった。

だが、苦虫を潰したような顔と、カスミの母親を軽蔑する眼差しにはなっていた。

まぁ、俺も気分が良い話ではない。


「すみません、パレライフさん……。では、こちらも失礼します」

「待って、おじさん!ユキ、行かないでぇぇぇ!」

「ご、ごめんなカスミ……」


泣きながらカスミは懇願するが、おばさんは人前にも関わらず叱り付けるだけであった。

おじさんも仲裁はしているが、おばさんの意見には否定しない辺り同じ意見なのだろう。

まだ12歳の子供だ。

こうなることはわかっていた。


だが、俺ははじめてカスミを見捨てる形になったのが後ろ髪を引っ張られる気持ちになった。


お父さんから仕方ないと諭され、俺たち3人はカスミに背中を向ける。


「ユキたちだけで……、行ったらゆるざないがらぁ!ぜっだいに、許さないがらぁぁぁぁ!」


カスミの悲壮な声が響いたが、おばさんは俺と彼女を会わせたくないとばかりに扉を閉めたのだった。

なんとも、無情な終わりであった……。

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