22、プライドVSサキ&カスミ

──デデンッ、デデンッ、デデンッ!



そんな『ハートソウル』のシリアスなBGMが突然脳内に流れだしそうなくらいに、エメラルド家の空気は重かった。


『も、もしかしてカスミちゃんの家の宿に来た旅人ってあの人かなお父さん……?』

『さぁ?…………てか、なんであんな騎士レベルに強い子がウチに……?』


お母さんとお父さんは、空気が重いとばかりに部屋の外へ逃げ出してこそこそ実況をしていた。

因みにさっきまで5人で談笑していたテーブルは俺、サキ、カスミ、プライドの4人で集まり緊迫していた。


「とりあえず今日、ユキの誕生日なんだろ?急いで作っていたからラッピングもしてないし、クオリティは高くないが是非これをもらって欲しい」

「こ、これは……?」


フワフワとした肌触りのものが手のひらに乗せられる。

第一印象は白いぬいぐるみ?であった。


「わ、わたしなりにユキをぬいぐるみで作ってみた!10分の1サイズくらいのクオリティにはなっていると思うぞ」

「あ、ありがとう……」


何故ユキにユキの形をしたぬいぐるみのプレゼント……?

チョイスは意味不明だが、このズレた感じがちょっと残念なプライドなのである。

プライド節全開で笑いたいくらいに可愛い……!


「とても嬉しいよ。時間がないのにこんなクオリティのものを作ってくれるなんて……!プライドは天才だね!」

「天才じゃないわ!エリィィィトなのっ!」


というか一晩で前世のア●メイトなどのアニメショップで売っていそうなキャラクターぬいぐるみを作れることが凄いのよ。

個人的にはユキじゃなくて、プライド型のぬいぐるみが欲しかったのだが、これはこれでプライドの性格と愛のような……テレる感情があり恥ずかしい……。

俺の形をしたぬいぐるみを作れるほどに俺の姿を目に焼き付けられているのを自覚すると、頭が沸騰しそうになる。


『あ、あれはユキの恋人かしらお父さん!?』

『あ、愛されているじゃないか息子よ!』


実況している両親は、完全に恋人と思い込んでいる様子。

その勘違いは嬉しいものである。


「か、かわいい!なにこれ!?ユキのぬいぐるみ!?」

「ユキそっくり!ど、どこで売ってますか!?」

「わ、わたしの手作りだ……」


サキとカスミはそのぬいぐるみを見ると黄色い声を上げた。

緊迫した空気は和らいだが、プライドが2人に圧倒されたようだ。


「おっと!……って、待ちなさい!あんた誰よ!?ウチの可愛い弟のユキを誑かすなんて!」


しかし、ぬいぐるみの可愛さよりも俺と親しい感じに嫉妬したサキが、テーブルをバンっと叩いてプライドを威嚇する。


「そうですよ!あなたはユキのなんですか!?」

「ちょっと待て!カスミはテーブルをバンっ!って叩くなよ!?」

「なんでぇー?」

「瓦破壊する奴がテーブル叩いたら木っ端微塵になるんだよ」


サキのようにテーブルを叩くくらいに頭に血が上っていそうな脳筋幼馴染に釘を刺しておく。

不満がありそうながらも、渋々退いてくれたようだ。


「えーっと?」

「あ、プライドと年が近くて(プライドの方が微妙に年下)俺と同じ白い髪の人が姉のサキで、ピンク髪な方が俺と同じクラスのカスミです」

「姉じゃないもん!お姉ちゃん!」

「訂正します。お姉ちゃんのサキと幼馴染のカスミです」

「サキさん、カスミさん。はじめまして、プライド・サーシャです。お父さんとお母さんもよろしくお願いします」

『あ、どうもー』


プライドは、2人にペコリ、隣の部屋で実況している両親にもペコリと頭を下げた。


「お父さんんんん?お母さんんんん?おかしいなぁー、私にそんな妹は居ないはずだけど?」


サキは目が笑っていないまま、プライドを威圧している。

しかし、レインや他の騎士たちの威圧に慣れているのかプライドに怯む様子はない。

そりゃあ、強いよな……。


「サキさん」

「なんですか?」

「あなた、先ほど『ウチの可愛い弟のユキを誑かすなんて!』と言いましたな?」

「そうよ。言ったわよ」

「逆です。ユキがわたしを誑かしました」

「…………は?」

「わたしはユキに求められた側です。だからどちらかが誑かした側と定義するならむしろ弟さんからですよ」

「…………」

「サキさん!?」


お姉ちゃんは石化魔法でも喰らったかのように白くなり、気絶しそうになったのをカスミに支えられた。


「わたしはユキに求婚されました」

「プライドさん!?何言ってんの!?」

「大丈夫です。まだユキは結婚出来る年齢ではありません。……ただ、ゆくゆくはそういう関係になるかもしれません」

「する!絶対結婚するから!」


真顔で『結婚するかもしれません』なんて言われたら、肯定するしかない。

絶対にプライドを他の男に渡すのなんか考えたくなかった。


「ユキぃぃぃ……、お姉ちゃんを捨てる?」

「捨てないよ」

「ユキぃぃぃ……、相棒を捨てる?」

「捨てないよ」


サキとカスミはなにか酷い被害妄想を見ているようであった。

目に見えて悲しんでいる。


「大丈夫。俺もお姉ちゃんやカスミが結婚するなら悲しいけど泣いて見送るから」

「ダメダメぇぇぇ!ユキ、5歳の頃『お姉ちゃんと結婚する』って言ってたじゃん!」

「6歳の時『カスミと恋人になってあげる』って言ったじゃん!」

「言ったけどさ……。あれ、おままごとの設定……」

「え?なんだって?」

「なんで急に難聴になるんだよ」


都合の悪い部分だけ聞き取れないラブコメ主人公になりきったようにサキが惚ける。

それに、俺が前世を思い出す前の純粋なユキにサキとカスミが無理矢理言わせただけである。


「さて、前置きは終わったので本題に入りたい」

「前置き終わったのこれ?」

「お父さん、お母さん。話があります」

『こ、これユキをください的なやつかな……?』

『俺にもさっぱりわからない……』


突然実況していた2人も呼ぶプライド。

突然呼ばれた両親は、プライドの堂々とした立ち振舞いにすっかり腰が低くなっていた。

しかし、プライドの本題の事情を知っているからか、彼女の手が少し震えているのを感じ取る。


「…………」

「ユキ……。ありがとう」


その震えている手を握る。

それに気付くと、目をキョトンとさせたのも一瞬、目を細めて微笑まれた。

その笑顔にときめいて、今さら手汗が気になったがプライドからも手を握られ離せなくなった。


「サキさん!ユキがプライドさんと手を繋いでますよ!」

「これは夢……。これは夢……」


カスミもサキも混乱状態になっている。

混乱回復魔法を使うか迷ったが、プライドが手を離してくれないので残念ながら2人を癒すことは出来なかった。


「それで俺……、私たちに話とは?」


お父さんが一人称を変えて真面目に問いかけると、その本題を切り出した。


「わたしはインフェルノの元騎士のプライド・サーシャです」

「インフェルノ!?王都を守護する騎士団か!?」

「な、なんで騎士様がユキと?……いや、それよりなんでアーク村なんかに?」


元冒険者夫婦の2人にとって、インフェルノの名前は重く、先ほどまでとは違うベクトルの緊迫した空気が張り詰める。


「インフェルノ……?」と、サキとカスミはその名に関してはあまりピンと来ていない様子であった。


「アーク村へは事情があってきました。それは、エメラルド家の象徴である『エメラルドの証』を王が狙っております」

「なっ!?」

「そして、インフェルノに対してアーク村を攻撃しろという命令が下されています。単刀直入に言います。アーク村を護るために……、『エメラルドの証』をわたしに渡してください。お願いします……」


プライドはお父さんとお母さんに対して深く深く頭を下げた。

プライドをかなぐり捨てたように土下座の形を取ったのだ。


『エメラルドの証』。

この証を巡って、『ハートソウル』はたくさんの騒動に巻き込まれていく。

違う形ではあるが、ゲーム本編が始まってきていたのであった。

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