21、激しい火花

「あー!カスミちゃんだぁ!」

「おはようございます!サキさん!」

「いつもユキの遊び相手になってくれてありがとっ!ユキの誕生日も祝ってくれるなんて嬉しいわ!」

「はい!相棒の誕生日は祝いに来ますよ!」


サキとカスミは仲良く女子トークに華を咲かせている。


「はは……。ははっ……。今の子は強いな……」

「どの辺りが?」


そんな仲良しな2人を眺めながらお父さんはカスミの強さを感じ取ったようだが、残念ながらお母さんは気付いていないようだ。

瓦破壊の力は、元冒険者のお父さんから見てもシャレにならない強さなんだな……、と父の姿を見ながら心で同意していた。

カスミは家族から認知されており、信頼されていた。

元々村の人同士の繋がりも強い土地なので、カスミもナチュラルにエメラルド家の家庭に混ざり、他愛ない雑談をしていた。

『最近のユキの学校の様子はどうか?』とか、『ユキの素振りの成果がどうか?』とか、『最近道具屋で新しいポーションが発売した』とか村人の情報交換である。

近所付き合いがほぼ皆無な都会ではまず無かった光景なので、こういう人と人の距離感が近いところはまだ慣れなかった。


「ねぇねぇ。ところでさー、朝にお兄ちゃんに聞いたんだけどー」

「うんうん。どうしたのカスミちゃん?」

「深夜にね、旅人のお姉さんが来たんだって!しかも、ウチの村に住んでいるらしい女の子みたいな顔付きでゴブリンに襲われていそうなショタ顔の子供が夜にわざわざその旅人を連れて来たんだってー」

「わぁ、なんかのミステリーみたい」


カスミの兄貴が体験した昨夜の話を、お母さんが興味津々にしていた。

お父さんも「アーク村に旅人は珍しいな……」と感想を述べている。


「女の子みたいな顔付きでゴブリンに襲われていそうなショタ顔の子供なんてそんなユキみたいな子、他にいたかしら?」

「なんでその酷いふんわりとした文章から俺のイメージが出るの……?」

「そうですよ、サキさん!ユキはゴブリンなんかより強いんですから!」

「そ、そんなに強いかなぁ……?(おい、勝手にモンスター狩ってるのは秘密だろ!?)」

「いつかそれくらいは強くなったユキが見たいな!(ごっめーん!まだセーフでしょ!セーフ!)」


カスミから秘密にしていたレベリング作業をしれっと暴露されそうだったので、2人で戦闘している際に覚えた阿吽の呼吸システムでテレパシー的な会話をする。

本来はモンスターの弱点を見付けた時に、相棒へ指示するゲームシステムであるがこの世界では脳内に語りかけるものになっていた。

阿吽の呼吸は、好感度が高いパーティー同士で使えるコマンドだがいつの間にかカスミとの間でのみ使用可能になっていた。

いつ、そんな好感度が溜まったのかはよくわからないが友情が深まったからだと認識している。


「それにしても穏やかな1日だわ。大好きな弟の誕生日をこうして祝えて幸せ」

「お、お姉ちゃん……。恥ずかしいよ……」


サキから抱き付かれて、頭をくしゃくしゃっと撫でられる。

一向にサキとの身長差が追い付くどころか、どんどん突き放されているので本当に情けないと思う。


「私もユキ好きだよぉ!いつも私と遊んでくれるからぁ!」

「でも、ユキが1番好きなのはお姉ちゃんだもんねー?」

「でも、私は親友兼相棒だもん!ね、ユキ?」

「好き、好き!お姉ちゃんもカスミも好き!どっちも1番!」

「あらあら?ユキったら女の子を喜ばせる言葉を覚えちゃってー!悪い男めっ!」


ぷにぷにと頬をつつかれる。

ずっと2人からは子供扱いばかりで納得いかないことばかりである。

両親はオモチャにされる俺を止めもせずにニコニコと笑ってお茶を飲んでいるのであった。


…………というか、いつプライドが来るんだ?

そんな疑問を心で呟いた時であった。




──カンカン。





無機質なノック音がエメラルド家に鳴り響く。

ようやく来たのかな?と期待した目で玄関へ目を向ける。


「今日はカスミちゃんといい来客の多い日だねー」

「あの人もユキの誕生日を祝いに来たんじゃない!?」

「カスミじゃないんだから、そんなわけないだろ……」


プライドがエメラルド家に尋ねて、インフェルノの騎士がアーク村を襲うことを知らせにきたのだ。

そういったシリアスな情報を持ち込んだに過ぎない。


「えー?ユキの誕生日なら台風が来ててもこの家に来るよー」

「台風の日は外出るなよ……」


電車も止まるんだから……、と突っ込みそうになるがアーク村にそんなものないのであった……。

そもそも、ユキは電車なんか見たことないのを思い出した。


『ごめんくださーい』

「はーい、今開けまーす」


やはりと言うべきか。

外から漏れた声はプライド・サーシャのものである。

もう何万回と聞いた彼女の声を忘れるわけがないので、強く扉の向こうにいるのがプライドだと確信した。


「はい。どちら様でしょうか?」


お母さんが、近所の人に対する態度と同じようなトーンで扉を開けた。

居間から玄関が見える造りの家だから首を伸ばすように来客者の姿を見ると、美しい黒髪を伸ばしモデル体型で露出の多いインフェルノの制服を着込んだプライドが立っていた。

彼女の貴族のような気高い立ち姿と、庶民的な家のエメラルド家とのギャップが激しい。


「わ、わたし……。コホン。わたくし、ユキへ誕生日プレゼントを届けに来た。彼に会わせてはくれないだろうか?」

「え?なんでユキ……?」


え?

俺に誕生日プレゼントって何?

カスミの呑気な推理がまさにに的中して、居間から玄関をぎょっとした目で見る。


「ねぇ、ユキ!誰あれ!?誰あれ!?」

「ちょっとユキ!?あのお姉さん誰!?友達!?ユキの1番の友達は私だよね!?ちょっとユキ!?」


サキとカスミが大声を出しながら俺の服をぐいぐい引っ張ってくる。

その2人の声に気付いたのか、玄関にいるプライドと完全に目が合った。


「…………おい、ユキ。なんでお前、わたしが居ない間に女に囲まれている?」

「ユキ!?お姉ちゃんが知らない間にお母さんとカスミちゃん以外の女性といつ知り合ったの!?」

「ユキの友達なのあの人!?」

「頼むから一気に質問を投げ掛けないでくれっ!」


聖徳太子じゃないんだから!

と、この世界の住人には通じるわけのない突っ込みが脳内で響いていた。


「あっと……。あがりますか?」

「失礼する。お邪魔します」


状況がまったくわからない母親が、とりあえずプライドを中に招き入れる。


「これが修羅場か……」と言いながら、父親はお茶を飲みながらこちらを視界に入れないようにしていた。


騎士が攻めてきた深夜よりも、激しい火花がチリチリと鳴った──気がしたのである。

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