18、プライドの呪い

「とりあえず、色々話しておかなくてはいけないことがあるな……」


プライドはそうやって話を切り出すと、バフッと音をたててソファーに座り込んだ。


「…………」

「どうした?棒立ちしてないで座って良いぞユキ」


しかし、プライドにあてがわれたのは1人部屋。

座る椅子は彼女が使っているソファー1つしかない。

ソファーとテーブルから離れているが、ベッドにでも座ろうと動くと「どこへ行く」と、プライドに制止されて、ピシャッと背筋が伸びる。


「なにをしている。他のソファーなんか無いんだ。一緒にわたしの隣に座れ」

「い、いいのか?」

「何回もキスしたのに、ソファーの隣に座るのに恥ずかしがることなんかないじゃないか」

「っっっ……!?わかった!座る!座ります!」


ちょこんとソファーの端に座ると、「遠いじゃないか」といって彼女から距離を詰めてくる。

プライドの女の匂いがまた鼻に届き、下を向いてしまう。


「忘れてしまいそうになるが、光がある場所だとお前はとことん子供だと思い出させてくれる」

「どうせ俺は子供ですよ」

「ふふっ。見た目は可愛くて、めちゃくちゃ強いなんて格好良いヒーローみたいじゃないか」

「もう……。なんですぐに照れさせてくれるのプライド……」


というか、俺とプライドの関係ってどうなっているのだろうか?

恋人……なのか?

いまいちそれを聞き出すのは怖くて、躊躇してしまっていた。


「話したいことは山ほどあるが……。時間も時間だな……。とりあえずアーク村のことについてお前に話しておく」

「は、はい」


真面目な話に刷り代わり、姿勢を正す。


「この村にお前のエメラルド家が管理をしている『エメラルドの証』がある限り王はインフェルノの騎士を導入しまくってくるだろう」

「っ!?」

「十柱騎士とはいえ、わたしなんか捨て駒扱いさ……。ふっ……」


自重気味に笑うが、本当に捨て駒扱いされている未来を知っているから、俺からしたらそれはそれは笑えない冗談であった……。


「お前は村を滅ぼされたくないんだろう?」

「あぁ。そりゃあな。家族や友達が住んでいる村だからな……。殺されるのはごめんだな」

「…………そうか。なら、アーク村に危害を加えないような展開にさせないとな」

「出来るのか?」

「わたしはエリィィィトだぞ。大船に乗ったつもりでいろ」

「…………」


大船だろうけど、その船は泥船とかだったりしません?

と、思わなくもない。

プライドのやることなすこと全てが死亡フラグにしか見えないからなんか心配なんだよなー……。


「しかしなぁ……。わたしが戦死扱いとは……。もう、わたしは騎士でもなんでもないのか……。エリィィィトなのにっ!エリィィィトなのにっ……!」

「めちゃくちゃ悔しそうね……」

「もしかしてレインさんに十柱騎士の座を奪われるのか……?」

「さぁ?」


少なくとも『ハートソウル』ではレインが十柱騎士と呼ばれるような展開にはならなかったのは確かである。

眼帯狂犬女が十柱騎士にはならないんじゃないだろうか……?


「ふぁぁ……。眠くなってきたな……。シャワー浴びたら寝るかな……。すまんなユキ……。お前に言いたいこと100個は…………、3つくらいあるけどそろそろ限界だ……」

「ちょっと待て。97個はどこに消えたんだよ!?」

「誤差だな」

「誤差にしては差が酷くないか……。まぁ、いいや。俺もそろそろ眠いから帰るよ……」


気分はブラック社員の終電帰りのサラリーマンである。

カスミの兄ちゃんに挨拶して宿屋を出ようと決める。


「じゃあおやすみプライド」

「待てお前。そんな血まみれで家に帰るのか?」

「…………」

「家族がお前の今の姿見たら人殺しにしか見えんぞ。……あ、実際人殺しだったわけだが」

「殺したこと、根に持ってるなー」


でも、確かにプライドの血で身体が汚れている。

この血を落とすのももったいないと思わなくもない。


「エリィィィトなのに無職になったからな。そりゃあ、お前に一生責任取ってもらうさ」

「えっ!?」


しれっと凄いことを言ったプライドだが、照れる様子も変だと思っている様子もない。

俺から一生責任取ってもらうって……、どういうこと?

どういうこと?

俺がプライドを養っていって良いという許可なのか?

モヤモヤする気持ちと、口に出して確認する勇気もなく、ムッツリと口を閉ざすことしか出来ないのであった。


「感謝しろよ。わたしの認識妨害魔法が無ければあの宿屋の男、卒倒するか人呼ばれてただろうな」

「……ありがとう」


社会的に死んでた可能性があったようだ。

因みにプライドも刺された胸周辺の制服が血まみれである。

彼女も自身で認識妨害魔法を使っているようだが、俺はそのことを知っているからか俺自身は彼女に対する認識は全然変わっていない。


「とりあえず血を流すぞ」

「そうだね。じゃあシャワー借りて良い?」

「は?わたしだって早くシャワーを浴びたい。一緒に入った方が早いぞ」

「…………え?」


プライドの発言に目が点になる。

なんか言った、この女?


「ほら、脱衣所行くぞ」

「???」


身長の高いプライドに手を握られて、引きずられていった。

5分後には、シャワールームで裸になる俺とプライドの姿があった。


「うっわぁ!可愛いなぁユキ!身体も小さい!わたしが8歳くらいの時もこんなに小さかったよ」

「も、もう俺12歳なのに……」


プライドの身体を見ないように見せないようにを心がけた結果、息子をタオルを巻いて隠すようにしていた。


「でも意外と腹筋とかに筋肉あるんだなユキ。へぇ、へぇ」

「は、恥ずかしいってプライド……」

「人の嫌がっている顔……。大好物だ」

「もうやめて……」


夢に見たプライドの裸だが、目を瞑り手で顔を隠し見猿になりきる。

もうなんか幸せと恥ずかしいと照れがカオスになってぐちゃぐちゃだ。


「恥ずかしがりやだなユキ」

「だって!だってぇ!……というか、プライドは恥ずかしくないの!?」

「わたしは女なんか捨ててるからな。誰もわたしなんか女として見ないさ……。だから恥ずかしさなんてないさ」

「それを告白してきた男に言うかね!?少なくとも俺はプライドを女として見ているし、恥ずかしいよ!」

「見てみろよ、わたしの身体」

「み、見れませんーっ!」

「お前……。手で隠している指の隙間開いてるのバレバレだからな。目も開いてるだろ」

「っ!?」


バレていたので、手を離す。

美しい黒髪。

妖艶な左目下の泣き黒子。

メロン並みと評するくらいの胸。

そんな女らしい身体で異様なところがある。


「…………傷?」

「幻滅したか?わたしの身体は傷まみれだ。一生治らない火傷の跡まである」

「…………」

「だから女を捨てて騎士になった」


姉であるサキと同い年くらいの彼女が、今までどんな目に合ってきたのか。

その傷からは色々な辛いものをイメージしてしまう。


「ユキ、お前わたしと結婚してなにがしたい?」

「なにがしたいって……。イチャイチャとか、遊んだりとか……。ゆくゆくは子作りとかして家庭とか作りたいかな……」


そんなプライドとやりたいことの光景が当たり前のように写し出される。


「そうか、残念だな。わたしの腹に傷があるだろ。ここ」

「?」


腹に指をさされたところを注視する。

意図もわからないまま、視線を腹へと移す。


「これ、子供が産めない身体だぞ。女として価値がないんだよ、わたしは……」

「価値ね……。なるほど。騎士になったルーツとかありそうね」

「幻滅したか?わたしは、結局呪われているんだよ……」

「…………」


傷が古いし、明らかに騎士の特訓で付きそうにない火傷の跡とかを見て心が痛い。

どれだけ、この傷に彼女の心がやられたのか……。

エリィィィトにこだわるわけも、ここにある気がしてきた。


「なら、その呪いも俺が解放してやる」

「お前、なにを……?」


背伸びをしながら、俺はヒール最上級の魔法を使用する。


「『パーフェクトヒール』」

「っ!?」

「俺がお前を女にしてやる」


彼女が俺に認識妨害魔法の『ジャミング』を使った時のように、彼女に口付けをする。

ギリギリ背伸びをすると届く位置にあった彼女の唇を奪う。

プライドに魔力を出来る限り送り込むと、彼女の『女を捨てた呪い』がみるみる内に消えていく。


「っっっ……。この、バカ男……」

「俺がお前のもの、すべて癒し尽くしてやるから」

「…………っ」


彼女は泣き崩れてしまう。

シャワーのお湯と涙が混ざり合い、彼女の過去が洗い流されていく。


──そして、俺は産まれたままの姿で小さくなった彼女を強く包容をした。

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