16、幸せの障害
お互いに地面に座り込みながら、さっき振りの再会を果たすことになる。
とりあえずは、気まずさなどは見せないように明るく務めようと、軽い口調で声を出す。
「よっ、プライド!元気になったか?」
「な、なにを……?なにをしたのよ、あんた?」
目を見開いては、キョロキョロと辺りに首を回して現状維持をしているようだ。
こういう仕草が、本物の騎士に見えてくる。
「あれ?混乱の状態異常になってる?」
当然、ヒーラーチャートが既にカンストしているので混乱程度軽く治す魔法くらいは片手で出来る。
「なってないわよ!混乱の状態異常にはなってないだけで、混乱してるけどねっ!」
「混乱していて偉そうな人、はじめて見たよ」
そんなプライドが高いプライドが推しなんだけどね。
ちょっと可愛いくて笑いそうになるのを、ぐっと堪えた。
「あんた……、強いわね……。エリィィィトなんて井の中の蛙って感じ……」
「いや、プライドはエリィィィトだよ。俺は、プライドっていう目標がなければ強くなりたいなんてなかったし」
「っ!?」
「楽しい戦いだったよ」
いつもカスミとロック鳥で死にかけたり、ゴブリンの集団で死にかけたり、怪しい宗教団体集団で死にかけたり……。
常に死と隣合わせなバイオレンスなレベリングよりは遥かに楽しいものだった。
なにより、プライドと剣を交えたということも楽しさの要因であった。
「レインも、あんたの部下も引いた。あんたが生きてることも彼らは知らないだろうね」
「そうか。なぁ、ユキ……」
「どうかした?」
「あぁ……。ちょっと……」
「……?」
近いプライドの顔にドキドキしているが、真面目そうな彼女の態度を前にポーカーフェイスで観察をしている。
彼女はこちらに目を向けず下を向き、俺の肩に手を伸ばしてきた。
「プライド……?」
「ほれた……」
「え……?」
げ、幻聴なのか?
あまりにも都合が良い彼女からの言葉を聞いて聞き返す。
『惚れた』と聞こえた気がしたが、いやいやまさかという信じられない気持ちの方が強すぎた。
「…………だから、惚れた」
「っ!?」
そう言うと、彼女の唇が俺の唇と触れた。
こ、これ……。
き、キスっ…………!?
頭にキスを思い浮かべて、プライドと肌と口と触れあっているのを意識すると、頬の体温が一気に沸騰するくらいに熱くなるのを感じて赤くなっている自覚がある。
目の前にあるプライドの顔も、闇夜にあるのにうっすらと赤くなっているのがわかる。
真っ昼間なら多分両方が茹でダコみたいに直紅になっている確信がある。
レインとモブ騎士さんたちが居なくて心底安心する。
これ、恥ずかしい……。
「お前、可愛い顔してるぞ。ただでさえ女顔なのだから乙女にしか見えないぞ」
「っぅ……」
キスをしてから顔を遠ざけると、からかうように鼻の真ん中をツンと優しく触ってくる。
照れスイッチのオンになったかのように視界がクラクラしてくる。
「プラッ……、プライド!?」
「思えば、わたしにストレートな告白をして愛を叫ぶ者なんかお前しかいなかったな。ははは……、まったく……、こんなサディストなエリィィィトで6歳も年上女のどこが良いのか」
「全部が好きなんだから仕方ないだろ」
「その生意気な口、また塞いでやる」
「んっ……」
「こーら。お前から好きって言ったんだ。逃げるな。抱き付いてやる」
「っ……。プライド……」
背中から激しく抱擁をされながら、再び口と口が触れあう。
プライドの甘くてとろけるような匂いと、彼女の唾液の匂いが俺を狂わせていく。
毒でも注入されたかのように、力が入らなくなり、よりプライドの力が増した気がする。
「はぁ……はぁ……」
「どうした?ユキ?いきなり弱くなったぞ?」
彼女の抱擁が終わると、少し距離が開く。
「プライドに対するドキドキと、フェロモン……。ヤバい……。好き……」
「わたしもだ。お前に対して胸がドキドキしている」
プライドの制服から主張の強い胸に目が行く。
あの胸が、俺に対してドキドキしていると思うと誇らしかった。
「胸を見ているな。胸を見ているのなら、一緒にときめきを感じようじゃないか」
「い、一緒に?ときめきを感じるとは?」
「こうすれば良いだろ?ほら」
「んんんんっ」
プライドに抱き付かれ、彼女の大きい胸と俺のまな板のような胸が重なる。
彼女の鼓動の振動がある。
さっきまで無機質だった屍が、きちんと脈を打っている。
「なんだ、ユキもドキドキしているじゃないか」
「ど、ドキドキするなってのが……無理……。ムリィ……」
「同意見だ。それは無理ってものだな……」
「お、俺も抱き付きたい!」
「ちょ!?不意打ちやめろっ!」
俺もプライドに力いっぱい抱き付いた。
死亡フラグに愛され、毎回酷い死に方をするこの少女がずっとずっと好きだった。
あるはずのないプライドとこんな関係になれることが、とてもとても幸福であった。
「プライド……。結婚したい……。君と幸せになりたい。もっともっと幸せになりたい……」
「わたしもユキと幸せになりたいさ。……でも、無理だ……」
「無理?」
いきなり崖から突き落とされた感覚になる。
お互いに殺し愛をして、抱擁とキスをして、それなのにまだ彼女との間には障害の壁がある。
「わたしには呪いがある」
「呪い……?」
「お前は先ほどわたしを殺したことによりインフェルノと敵対したことになる」
インフェルノ。
それは、プライドが仕えていて『ハートソウル』でも敵組織として出てくる名前である。
「これからお前はレインさんたちの報告により、インフェルノから命を狙われていくだろう。しかし、わたしは王を裏切ると殺される呪いがある」
「まさか……?」
「あぁ。敵対したユキと一緒にいるだけで、呪いによりわたしは殺される……。お前とは、一緒にいれない」
「なんだよ、そのふざけた話は……!」
運命とは、こんなにもユキとプライドを離したいのかと怒りに満ちる。
好きな人と両思いなのに、それはなんて酷い結末だ。
それに怒り狂っていると、彼女が黙り込みながらなにか行動している。
その行動になんとなく視線を映す。
「…………」
「………………んん!?なにやってんのプライド!?」
「服を脱いでいるだけだが?」
制服を脱ぎ捨てながら、黒くてフリフリなブラを露出している。
いきなり誘いもなく、服を脱いでいるのを理解してして、反射的に必死で彼女に対して叫んでしまっていた。
「うわわわっ!?風呂!ヤルなら風呂入ってからやろ!?俺、理性を必死に我慢しているんだよ!?」
「は?何を言っている?これを見ろ?」
「え?」
ブラも外され、彼女の大きい胸が露出していた。
ビーチクエロいですね、という感想が真っ先に出てきた。
「見ろ?胸に紋章が刻まれているだろ?これは呪いの紋章で、裏切りを察知した瞬間にわたしを殺すのだ」
「…………?あ、あぁ!これか!暗くてよくわかりづらいな……」
正直、ビーチクの方に眼が引き寄せられる。
俺の眼球がN極で、彼女の胸の真ん中がS極のマグネットのようである。
「なら、その呪いも解いてやる」
「…………は?」
「俺はヒーラーカンストしたんだよ。死者蘇生が出来るのに、呪いが解けないなんてことあるわけないだろ」
──『
中級クラスの魔法を頭に浮かべながら、紋章に手をかざす。
呪いを俺の癒しの力で上書きして消滅させていき、ヒーラーの力がプライドの身体を覆っていく。
「うっ……。うっ、これは……!?」
「どうしたプライド!?まさか、俺の魔法が効かないのか!?」
紋章が消えていっているのに、突然プライドは大声を出して苦しそうに喚いた。
俺のヒーラーの魔法が、王の呪いに負けたのかと不安になりながら彼女の肩に触れて問い詰めていった。
「いや……。効いている」
「じゃあ、どうした!?」
完全に紋章が消えたのを確認する。
しかし、彼女の異変がわからずにいるとプライドはボソボソと呟いた。
「……ユキの魔力がわたしの身体を駆け巡って……。ユキのすべてがわたしに入ってきたみたいでテレる……」
「…………」
可愛いかよ!
プライドが!
プライドが可愛いすぎて辛い……。
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