14、殺し愛

1年間。

10代の子供には長く、30代のおっさんには短すぎる時間である。

正確には1年以上あるのだが、面倒なのでその辺りは切り捨てていこう。


この期間、俺とカスミは月1度のレベリングという頻度ながら効率的に鍛えたこともありモブ騎士なんかよりは遥かに強いと自負する程度には成長していた。


プライドに振り向かせたいからこそ、プライドよりも強くなることを目指してこの騎士の村襲撃の対策をしてきたのであった。

そして、プライド率いる騎士連中が村を攻撃してくる時間に合わせて俺もこの場に姿を現した。


「おい、なんだこのガキっ!退けっ!騎士様のお通りだぞっ!」

「あんたみたいな眼帯女なんか眼中にないんだよ。俺はプライドに用事があるんだ」


確かあの狂犬眼帯女はレインだったか。

ゲームのメインキャラクターの1人でもあるのだが、名前を知らないていで今この場にいるので眼帯女としか呼びようがなかった。


「んだと!?ガキが、舐めやがってよぉ!」

「下がってくださいレインさん」

「おい!?んだよ!?」

「これはわたしが買われたケンカだ。皆のものは彼に手を出すな」


プライドがレインと部下に呼び掛けるとざわざわとどよめきが起こる。

『あの子供は何者だ?』『プライドさんとはどんな関係なのだ?』『なんだぁ?プライドのストーカーか!きっしょっ!』など、色々な思惑が飛び出ているがそんなの俺にとっては雑音である(因みに最後のストーカー発言はレイン)。


「今日は、ユキ。お前の誕生日だったか」

「あぁ。だから誕生日プレゼントくれよ。プライド、お前が欲しい」

「たかだか1年も前に会っただけのわたしに何を言うか……」

「気持ちだけは15年想い続けてます!」

「いや、知るかぁ!お前、生まれてないだろ!?当時のわたし多分3歳だぞ!?」


実際15歳の時にやったゲームなので、ガチで15年間ずっとプライドを推して想い続けていたことになるのだが、ややこしいのでその下りは省略する。


「言っておくが、答えはノーだ。帰れ、ユキ。わたしにお前はふさわしくない」

「よし、なら決闘しようぜ決闘!騎士様に倣って決闘だプライド」

「なに!?ユキ、お前がわたしと決闘するのか!?」

「あぁ。タイマンの決闘といこうぜ」


決闘。

その単語を出した瞬間、騎士のざわめきはもっと大きくなる。

『あんな子供がプライドさんと!?』『あの子供、実力差がわかっているのか?』『あんな木刀で勝てるけないだろ』『はははははっ!どうせならプライドがズタボロにやられるのを所望するぜぇ』とみんな好き勝手に口を開いている(因みに最後のズタボロ発言はレイン)。


「わかった。皆殺しの命令だ。ユキ、お互いのどちらかが死ぬまでこの決闘は終わらない。見届け人はこの騎士全員だ」

「おー、殺し愛ってわけだ。愛してるって気持ちをエリィィィトの誇りに突き刺してやる」


好きな人を殺せる。

好きな人にはなんでもしてあげたい。

どんな結末になろうとも、俺はプライドから逃げない気持ちであった。


「わたしが勝ったら──、王の命令通りにお前の後ろの村すべてを滅ぼす」

「なら……、俺が勝ったら村を見逃してもらう。これが決闘に賭けるものってことだぜ」

「良いだろう。レインさん、わたしが死んだら村に攻撃しないで引き返してくれ」

「そ、そりゃあ良いけど……」

「なら成立だ」


騎士は決闘のルールに遵守するのを誇りにしている。

それは『ハートソウル』のゲーム内でもそういった説明があった。

言動はアレだが、レインも一応は信頼出来る者なので、プライドが負ければ騎士を引き連れて引き返してくれる確信があった。


「なんだユキ?求めるのはわたしとの結婚ではないのか?」

「意外だったか?そのプライドの口振りだと『まるで求婚して欲しかった』と俺には聞こえるぜ?」

「む?」


プライドは不機嫌そうに眉を潜めた。

そんな彼女の顔も、美しく、どんなプライドでも好きになりたいと強く誓う。


「俺は決闘の報酬じゃなくて、俺の勇姿や活躍からプライドに惚れられたいんだよ。決闘の商品ではなく、心の底からプライドと愛し合いたい」

「きゃはははははは!格好良いなボクぅ。その真っ直ぐに見つめる顔を屈服したくなるな」

「俺の純愛、プライドに見せ付けてやるよ」


最弱の武器である木刀を抜きながら、プライドの前に立ちはだかる。


「きゃは!ボクちゃんがエリィィィトなわたしに勝てるわけないじゃない。今回は鞭ではなく、剣を抜いてあげようじゃない」

「…………」


人をいたぶるサディストなプライドではなく、今回は真面目に人を殺す気の本気バージョンで戦うらしく背中にある鞘から剣を抜き、俺に切っ先を向けてくる。


「あらぁ?あらあらぁ?木刀相手に本物の剣を抜かれて怖くなっちゃったぁ?言葉を失っちゃったかなぁ?」

「剣を抜くプライドが凛々しい!あぁ!この場面だけで24時間ずっと見てられるっ!写真が!写真が欲しいっ!」

「は、はぁ!?バカじゃないの!バカじゃないの!今からあんたを殺す相手に何赤くなってんのよ!?」

「う……。心はとっくにプライドに殺されてます……」

「知らん、知らーんっ!」


プライドにはどんな愛でも直接伝えたい病気が発症してしまう。

たとえ負ける可能性がある戦いだったとしても、プライドには誰よりも異性を感じ取ってしまうのであった。


「プライド。心が乱れ過ぎじゃないのか?」

「わ、わかってますよ。立ち会いはレインさん、お願いします」

「というか、お前ショタコン?」

「ちがっ……、違います!」


不仲なプライドとレインがやり取りをしていた。

あと、童顔低身長な子供とはいえショタ扱いなのはさすがに複雑な心境である。


「因みに俺はプラコンです!プライドコンプレックスですっ!」

「クソガキ!てめぇには質問してねぇよ!そろそろ、決闘はじめっからな。プライドもガキもこっち来い」


レインの半ギレを喰らう。

もう、彼女からすごく嫌われているのを察してしまう。

そんな彼女に従いながら、プライドと俺が対峙する格好になり、真ん中にレインが立つ。


「立ち会いをするレイン・フレータだ。十柱騎士の第5騎士フュンフプライド・サーシャ。アーク村の少年のガキ。構え」

「ガキじゃない!ユキだ!」

「あぁ?ガキのクセに生意気だぞてめぇ!」


1文字違いとはいえ、ユキとガキは間違えないで欲しい。


「彼はユキ・エメラルドだ、レインさん」

「あっ!?こ、こいつ『エメラルドの証』のある家の子供じゃねぇかよ!」

「ぷ、プライドが俺の本名を覚えてる!き、気があるのかなっ!?」

「気があるって勘違いしちゃったぁ?かわいいーっ!」

「悪役ムーブするプライドもかわいいーっ!」

「イチャイチャすんのやめてくんねーかな?ほら、アーク村の少年ユキ・エメラルド。構え」


カチャッと金属音を鳴らしながらプライドは剣を構える。

俺も普段カスミとレベリングをしている時のように慣れた格好の構えをしてみせる。


「賭けるものは、村の侵略!はじめっ!」


レインの勇ましいスタートの合図と共に、決闘が始まった。


「いくよぉ、坊や!メタメタに切り刻んであげるぅ!殺し愛だっけ?乗ってあげる!」

「来い、プライド」

「月の剣『ディアナ』。まさか、ユキ相手にわたしの本気の剣を向けることになるなんてね……」


闇が包む夜の中でも、美しい白い輝きを放つ剣『ディアナ』。

彼女の強い想いに呼応して、剣は輝く。


「この剣はね、輝けば輝くほどに強く、鋭くなっていく。エリィィィトに相応しい武器なの……」

「っ!?」

「さよなら、ユキ……。木刀程度、小枝のようにへし折ってあげる」


『ディアナ』が木刀を弾き返すなんて生易しいものではなく、ぶっ壊す勢いで横から飛んでくる。


──短期決着。


彼女が求めていることを理解した瞬間、木刀に吸い込まれるように彼女の剣が叩き付けられた。

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