12、十柱騎士

【プライドSIDE】





プライドは王からの命令により、王の間への道を歩いていた。

つい先日、彼女は大きな功績を残していた。

その功績が認められていることに薄々感じていて、口元のにやつきが収まらなかった。


(こないだのわたし単独での巨大鵺の撃破……。これ出世来てるでしょ。流れが来てるでしょ。エリィィィトの勘がそう告げているわ)


ユキとの邂逅から約1年。

プライドは着実に任務をこなしては、王や騎士仲間である同僚たちの信頼を得ていった。

──正確には、よくプライドに突っかかる眼帯の先輩騎士であるレイン以外であるが……。


(ふっふっふ……。それにぃ、今の十柱騎士の中で第5騎士フュンフが空席になっている。そこで今日、わたしにその席の座を明け渡してくれるだろう)


自己顕示欲とプライドの塊であるエリィィィトなプライドは、今日の王からの呼び出しについて大体の推理は終わっていた。

多分、そんな性格だから死亡フラグに愛されている女幹部だと気付かないプライドであった。


(と、とりあえず演技をしなくては……。出世を言い渡されて、『そんなの恐れ多い』みたいな謙虚な人になりきらなくては……)


落ち着きなく露出の多い胸辺りより少し高めの襟を直しながら、王の間の扉の前にプライドは立つ。

いつものようにノックをして、自分がプライドであることを名乗る。

すると3秒ほど置いてから「入れ」という指示をもらう。


「王様、失礼します」


王の間に入ると、王は椅子に座りながらプライドを出迎える。

緊迫した空気が張りつめているのを、彼女は肌でよく感じるのであった。

(王の気迫だけでダメージを受けそうだ……)と、プライドは緊張から額に汗をかいていた。


「よく来たなプライド」

「はっ!」


堅苦しく返事をすると、左手を胸の前に持っていき騎士のポーズをする。

それを眺めていた王は満足そうに目で笑った。


「そなたの近頃の活躍はよく耳にしているよ」とお褒めの言葉を投げ掛ける。

「恐縮です……」と、あくまで謙虚にと言い聞かせながら嬉しさを顔に出さないように我慢する。


「プライド・サーシャ。お主を十柱騎士の第5騎士フュンフに任命する」

「あ!……ありがたき幸せ!」


十柱騎士とは、王が直々に使命した騎士にのみ与えられる称号である。

王を支える10本の人柱。

それは、彼の元に仕える騎士たち全員が憧れる最高地位である。

当然、憧れていた騎士たちの中にはプライド自身も含まれている。

『エリィィィト』を自称するプライドだが、実際に騎士の同僚たちからすれば彼女はエリートに間違いなかった。


12歳の最年少で王の騎士に任命された。

既にその時にはレベル5であり、育成チャートを組めるようになっていた。

ユキと出会った16歳には難易度の高い単独での任務に赴くようになっていた。

現在17歳のプライドは既にレベル40を突破していた。


努力だけでレベル40になるのは不可能だし、才能だけでレベル40になるのも不可能だ。

その両方を両立出来るものこそが出せる結果がプライドの実力なのである。


「おめでとうプライド。そして、第5騎士フュンフである君に補佐騎士を付けることになる。補佐には同性が良いだろうと判断し、レイン・フレータに任せることにしたよ。彼女にも追って連絡が行くだろう」

「畏まりました」


王を前にして、謙虚に徹していたプライドだが、補佐騎士の名前にレインが出てきて複雑な心境になる。

(よりにもよってレインさんか……。あの人、絶対納得しないだろうなぁ……)と、後輩の自分に対抗心を隠さない彼女に今後はどうやって接していなうものか……。


「…………」


早くもプライドにとって頭痛の種がばら蒔かれたようだ。

顔を合わせたレインから舌打ちが飛んできそうで、出来るだけ避けたい欲が生まれていた。

だが、そんなことを王にお願いできるはずもなく頷くことしか出来なかった。


「さて、第5騎士フュンフプライド・サーシャよ。本題はこれからだ」

「はっ、なんなりと!」

「十柱騎士としての最初の任務を言い渡す。こちらの資料に目を通せ」

「失礼します……」


王は椅子に座りながら、20枚程度はある資料の束をプライドに押し付けるように出してくる。

出世と同時に仕事が振られることも、予想は付いていたので淡々とプライドはこなしていく。


「…………これは、アーク村の資料ですか?」

「そうだ。よく目を通せ」

「…………わ、わかりました」


(また偵察の仕事だろうか?)と、プライドは王の意図がわからないまま資料を捲る。

その中でも、王が興味を引く『エメラルドの証』についてまとめられたページに行き着く。

プライドが1年前にその有りかを突き止めたものである。


「…………」


『エメラルドの証』を護るエメラルド家。

その名前を聞いて思い浮かべるのは、エメラルド家の当主…………、ではなかった。


(ユキの家か……。懐かしいな……。今、あいつは何をしているのだろうか……?)


『ユキ・エメラルド』の名前を聞いて、彼女はすぐに調査対象にしていた『エメラルドの証』を護る当主の家の者だと察していた。

偵察の任務中は、ユキは子供なのもあり眼中になかったのであの出会いが初対面なのは間違いない。

エメラルド家ではなく、あくまで『エメラルドの証』が調査対象だったこともある。

因みにプライドさん、自分の見た目を変えることが出来る変身魔法を扱えるエリィィィトなので、こういった調査やスパイ任務などと相性抜群である。


(まったく……。ユキの奴、わたしが休暇とかを使ってはアークの森に出向いたりしてやったのに、一切姿を現さないじゃないか……。まぁ、1年も経っているのだし、子供にとって恋する相手が変わっていてもおかしくないか……。それもそれで結婚を申し込んでおいてズルくないか?)


あれからプライベートで、アーク村からちょっと離れたアークの森近辺を月1でユキを探していたが、1回も見かけたことはなかった。

そりゃあ、お互い月1でしかアークの森に近付かなかったらマッチングしないよ。


あと、こないだたまたま出会った行商人がアーク村に住んでいるという人だったのでユキの知り合いであることをカミングアウトすると、『最近のユキ君はカスミちゃんって子と仲良しみたいだね』という嫌な近況報告も受け取っていた。


(な、なんでわたしがこんなにユキなんかを気にかけなければいけないのだ!知らん、知らん!あんな奴知らん!)


名前しか知らないカスミという6歳年下の女の子に対抗心と嫉妬の炎を燃え上がらせていたのであった。


「それで……。わたしへの任務とは?」


10分ほどパラパラと資料に目を通したプライドは、その本題となる任務の内容を王に訊ねることになる。


「プライド・サーシャよ。そなたへ命令を下す。『エメラルドの証』の奪取、及びアーク村の住民全員の殺害を命ずる」

「はっ!…………は?」


命令されたことにそのまま頷く癖が付いてしまい返事をしてしまったが、よくよく考えると耳を疑うような命令が2つ続いてしれっと下されたことに気付く。


「だ、奪取とはなんでしょうか……?交渉かなにかの間違いないではないでしょうか?」

「奪取とは言葉通り、盗んでこい。交渉の余地なし。村人は皆殺しだ」

「っ!いや、しかし!村人は別に犯罪者でもなんでもありません!それなのになぜっ!?」


十柱騎士としての最初の命令が、騎士どころか人間としてでも誇れるものではないものが下されて大きな反抗をプライドは見せた。

明らかに、今までこなしてきた任務とは毛色が違いすぎていた。

それに何より、その命令では求婚してきた真っ直ぐな少年も含まれてしまっていた。


「……プライド」

「っ!?」


王の口から彼女の名前が呼ばれた瞬間だった。

彼女の視界に鮮血が飛び散る。


──一体誰の血だ?


そんな疑問が沸き上がる前に、プライドは何も考えられなくなる。

何かの棒が跳びはねながら、転がっていくのがわかった。

その動く棒に意識が持っていかれた。

壁にぶつかり、その棒が止まったことにより、何かの判断が付いた瞬間だった。


「がああああああああ!?」


それは棒ではなく、血にまみれた腕だった。

誰かの腕が10メートルほど西の方向に転がっていた。

誰かではない。

プライドの左腕に死にそうになるくらいに走る激痛と共に、彼女の王の間の中で悲鳴が木霊した。


「…………」


王は椅子にふんぞり返りながら、ただつまらなそうに座っているだけだった。

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