11、ユキ&カスミVSロック鳥

「もう戦うしかないぞカスミ!」

「酷いよぉぉ!さっきレベル2になったばかりなのにぃ!」

「死にたくないなら戦うしかないぞ」

「ぅぅ……」


地面から立ち上がると、木刀の俺と丸腰のカスミがロック鳥と対峙する。

しかし、これはどうしたものかと上を見上げる。

5メートル先にいる敵にどうやって攻撃を当てるべきだろうか。


「コラーっ!あんただけ飛んでてズルいでしょ!こっちに降りてきなさい!焼き鳥にしてやるからっ!」

『キュオォォォォ!』

「うわぁ!?」


カスミが羽根ミサイルからジャンプして避ける。

相変わらず運動神経が高いので避けることは得意そうで安心する。


「くっ、焼き鳥に怒ってる!照り焼きチキンなら怒らないかな?」

「知らねぇよ」


多分、俺たちの言葉なんか一切通じてないだろう。


「ねぇ、ユキ?あの鳥さん、下に来たらガルガル並みに弱いかな?」

「いや、ガルガル30匹より強いんじゃねぇかな」

「し、死んだ振りしてやりすごそう!」

「意味ないって……」


熊じゃないんだから……。

なお、熊の前で死んだ振りをしても意味はないらしく襲われるらしい。


「ん?ガルガルって言った?」

「どうしたの?」

「…………なんだ。ダメージを与える方法あるじゃねぇか」


ゲームのお約束を完全に忘れていた。

プレイヤーが戦闘画面で使えるのが攻撃、防御、魔法、スキル、逃走以外にもう1つあったじゃないか。


──道具!

リュックの中から、たくさん回収していたガルガルの牙をカスミに投げ渡す。


「な、な、何これユキ……?」

「今からカスミに魔法を使うぞ。『アッパー』」

「ユキっ!?な、なにこれ……!力が沸いてくるっ!」

「更に『アッパー』、『アッパー』、『アッパー』」


4回ぶんのバフ魔法をカスミに使用する。

そして、カスミに投げ渡したガルガルの牙には換金の他にも、実は地味に効果がある。

【モンスターに投げつけると噛み付きダメージを与える。】


バフと道具の組み合わせだ。

忘れていたが、これがRPGの醍醐味である。


「ガルガルの牙をおもいっきり投げ付けてやれカスミっ!」

「OK!カスミ選手気合いのフォーム!」


キャッチボールで俺に対して時速140キロのデッドボールを頭にお見舞いした女である。

そんな当時レベル1のカスミが、今や2倍のレベル2。

それに4倍のバフが掛かっている。

そのカスミがボールのようにして振りかぶって投げるガルガルの牙の今のスピードは時速200キロをオーバーしていた。


『キュオォッ!?』


大谷よりすげぇ!と、カスミのキレイな投球フォームに感心していた時にはロック鳥は地面に落ちてきた。


「ボッコボコにするぞカスミ!」

「ヤケクソだぁぁぁぁ!」

『キュッ!?』


バフ4回使用で16倍の攻撃力になったカスミがロック鳥の顔面を蹴り上げた。

3メートルある体長の鳥でも、首が凄い方向に曲がる。

俺はペチペチと胴体に木刀を当てていく。


『キュオォォォォ!』

「うわっ!?」

「いたっ!?いだいよぉぉ、ユキぃぃぃ!」

「あ、あとで回復してやるから被弾覚悟でタコ殴りにしてやれ!」


ロック鳥の火事場の馬鹿力とばかりに羽根を振るい、俺とカスミの身体を突き飛ばす。

ただ、飛ばない限りは羽根ミサイルは使えないようだ。

羽根を痛め付けるのが先かもしれないと、胴体から羽根へと攻撃対象を変える。


『キュッ!』

「いだいよぉぉ!」


顔を攻撃していたカスミは、ロック鳥の反撃で足を嘴で突つかれたのか、涙声で痛さを訴えていた。


「『ヒール』。どうだ、カスミ」

「あ!回復した!傷も無くなって平気だよ!」

『キュオッ!』

「いだいよぉぉ、ユキぃ!」

「キリがないな……」


回復した側から足の同じ箇所を嘴で刺されるカスミ。

まだそんなに魔力の全体量が少ないので回復は節約しなければならない。

激しいカスミの攻撃の横で、本当にダメージが入っているのか怪しい木刀の攻撃をペチペチと繰り返し続けていく。

暴れるロック鳥の余波に巻き込まれて、俺は頬を裂かれたりしていく。


「もう、ガルガルの牙投げまくった方が効率良いんじゃねぇか?」


ペチペチ木刀から、ガルガルの牙を投げつける方針に変わり羽根に対して牙を3つ、4つと投げ込んでいく。

泥沼のような攻防が20分以上に及んだ……。







─────






「ユキ……、生きてる……?」

「なんとかな……」


ボスランクモンスターのロック鳥が消滅し、俺とカスミは地面に貼り付いて立ち上がれなくなっていた。

お互い、息が途切れ途切れながらも会話だけは出来ていた。

そこだけは安心である。


「私……、足の神経ないんだけど……。血まみれだし、足は10箇所以上穴が空いて抉れてるし、死ぬのかな、ここで……?」

「大丈夫、『ヒール』で治るから……」

「魔法で……、神経って治るの?」

「だ、大丈夫」


多分だけど……。

前回のガルガル群れとの戦い後の『ヒール』では、服装の破れすら直ったから、神経くらい治せるだろう。

意外とチートじゃないか、このヒーラー特化型?


「冒険者ごっこ……、ハード過ぎない?」

「ハード過ぎたな……」

「でもさ……」

「でも……?」

「なんか……、楽しかったよユキ」

「……そっか」


俺は身体のあちこちを裂かれたり、ぶつけられて。

カスミは足を抉られたりして。

お互い血まみれで死にかけているのに、不思議と気分はハイになっていて楽しくなっていた。


「また……、たまにならこういう遊び……、良いね……」

「月1くらいで……、冒険者ごっこするか……」

「うん……、そうだね……。ただ、あのデカ鳥野郎は勘弁……」

「俺も……」


日が暮れそうになってきて、慌てて立ち上がる。

まずは自分に『ヒール』を使うと、4割程度の傷が回復する。


「ユキぃ……。こっちにも回復を……。私の自慢の美脚が……、穴だらけ……」

「オッケー、オッケー。『ヒール』、『ヒール』、『ヒール』」

「おっ?凄い。穴が塞がってるよ!それに疲れも取れるね!」

「疲れは取れるが、明日からしばらく筋肉痛が襲うからな……」

「私、筋肉痛なったことないからなぁ。実はちょっと楽しみ」


筋肉痛なんか楽しみにしてるんじゃないよ……。

明日から地獄を見ることになると思うので、そのカスミの反応が楽しみである。


「因みに、カスミのレベルいくつになった?」

「えーっと……。うわっ、5レベルだよ!?すごっ!」

「はやっ!」


レベル3になるくらいに経験値をもらいまくったようだ。

因みに俺のレベルは7になっていた。

ロック鳥と渡り合える推奨レベルは10以上のはずなのでこれくらい恩恵が無くてはやっていられないものだからな……。

これぐらいが適正のようだ。


最後に自分に対して『ヒール』をかけたことで全回復する。

後で家に帰ってからお姉ちゃんの言い付け通りに回復特化チャートにポイントを振ることにしようと決める。


「カスミも5レベルってことはチャート組めるってことだな」

「チャート?」

「あぁ。まだ知らないのか。なら、明日に教えるよ」


ただ、このレベルアップがプライドに近付いていると思うと誇らしい気分になる。


「さ、ユキ。帰ろう」

「そうだな……。あ、待ったカスミ!」

「なぁに……?」

「手、繋いで帰るんだろ?」

「…………うん!」


カスミに手を差し出すと、満面の笑みを浮かべて俺の手を取る。

そのまま、一緒にアークの森を抜け出していく。

ガルガルと何匹か出くわすが、見ない振りをして早歩きで逃げ出して行く。


「ユキ……」

「うん?」

「ずっと……、一緒だからね!」

「あぁ。ずっと一緒だ」

「……!へへっ、うん!」


カスミとは、ずっと一緒の腐れ縁になっていくのだろう。


次の日、案の定であるがカスミは酷い筋肉痛になり俺に泣きついてきた。

しかし、残念ながら『ヒール』でも筋肉痛を治すことは出来なくて2人して学校で移動するのも苦労することになる。


その日以降、村を抜け出して冒険者ごっこをしているという2人だけの秘密を共有することになる。

約束通り月に1回、みんなに内緒で2人で村を抜け出してレベリングをするような生活がはじまった。

それが、1年と少しだけ続くことになる。






そんなことが続いていくと、カスミが12歳になる。

それからしばらくして俺の12歳の誕生日がもう少しに迫っていた。

この12歳の誕生日が、運命の日でもあった。

そう……。



──あっという間に『ハートソウル』の本編が始まる時系列に追い付いてしまったのである。



その日は、十柱騎士になったプライド・サーシャがアーク村に虐殺をしに攻めてくる運命の日である。

プロローグは、もうすぐそこだった。

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