10、ボスランクモンスター
「ここにはガルガルっていう犬型のモンスターがたくさん沸いて出るんだよ」
「あ!あれ?」
「あれあれ」
『ガルルルルッ!』
前回のようにアークの森に踏み入れて進んで行くと、またガルガルが森を徘徊している。
こないだのような群れは流石にないが、それでも3匹一緒に行動をしているので仲間が多い生態なのだろう。
繋いだ手を離しながら、ガルガル3匹に対峙するように広がっていく。
「あれがガルガルかぁ!なんか飢えてる野犬って感じで可愛くないね!」
「冒険者ごっこだカスミ!」
「うん!3対2!不利だけどいくよっ!」
シュッ、と木刀を振りながら抜刀する。
因みに『ハートソウル』のゲーム内の木刀の攻撃力は+5。
ぶっちゃけ何も装備していないカスミの方が攻撃力は高い。
「ちょっと待った、ユキ!」
「どうしたカスミ?」
「私、支給されている木刀なんか持ってきてないよ。ズルいよ、ユキ!」
カスミが俺の持つ木刀を差しながらズルいと言い放ってきた。
そりゃあ、確かに柔道大会をする気だったカスミが木刀を持ってきているわけないと冷静になる。
「いや。カスミは素手でガルガル倒した方が強いと思う。意外とこれ重いよ?」
「確かに。私、木刀で素振りするより拳振るっている方が性に合うんだよねー」
「じゃあ良いじゃん」
カスミの得意武器はメリケンサックや、スパイク付きの靴など格闘系寄りである。
むしろ下手な装備をしない方が補正値が上がるのだ。
序盤の金欠な主人公パーティーの金策として、カスミに武器を装備しないという対策すら取られるほどには物理最強である。
「いくぞ、カスミ!」
「うんっ!おりゃあ!」
『ッ!?』
ガルガルの体当たりよりも素早く走ったカスミが、拳を振り上げる。
『きゃぃーん!』と情けない鳴き声を上げながら、ガルガル1匹は消滅していく。
「いえーい!つまらぬものを殴ってしまった……」
『ガルッ!』
「おーい!?よそ見するな!」
格好付けていたカスミにガルガルが飛びかかってきたので、目に木刀を突き刺してカスミを助ける。
「うひゃっ!?」と、自分の目の前で灰になるガルガルに驚いていた。
「あ、ありがとうユキ……」
「残り1匹だ」
「私がいくよっ!背負い投げ!」
『ガルッ!?』
飛びかかってきたガルガルを背中から地面に叩き付けると最後の1匹も消滅していく。
3つのガルガルの牙と3ゴールドが散らばった。
最後のガルガルが消滅したところには、くっきりと犬の形に地面が抉れている。
「…………カスミさん、強くない?」
ガルガルがものすっごい音を立てて消滅した音がした。
もしかして、柔道大会が開かれていれば俺がこんな地面を抉る破壊力のある背負い投げの被害者になっていたの……?
こんなの喰らったら、前前前世くらいの記憶まで蘇りそうなんだけど……。
「うぉぉぉ!?すげぇ!ゴールドが出たよユキ!これ、ガルガルを1億匹狩れば1億ゴールド……!大金持ちになれるねユキっ!」
「一生かかっても無理だよ……」
「えー?そうかなぁ?それくらいなら余裕じゃない?」
「仮に30年間毎日ここでガルガル狩りをしたとして、1日で9000匹以上倒さないといけないんだぞ」
「ひゃぁぁ!無理じゃん!」
なんでこんな低単価なガルガル狩りをやらなければいけないのか。
「今の俺たちは弱いからガルガル狩りをしているが、強くなれば1匹で10000ゴールドを入手できるモンスターとかもいるんだぜ。そっちを倒せる方が何倍も金持ちになれるもんだよ」
「さっすがユキだねっ!頭良い博士!」
「頭良い博士って何……?」
そんな発言が既に頭悪そうである。
「でも、やっぱり2人だと効率良いな」
「えへへ……。ユキに助けられちゃったね」
「気を付けてくれよ、カスミ……」
「はーいっ!」
モンスターに震えていたカスミであったが、最初の戦闘に圧勝したからか余裕が出てきたようだ。
彼女の明るい雰囲気にやれやれと思いながらも安心させられる。
「でも、楽しいね!もっと冒険者ごっこしようよユキっ!」
「そうだな」
「もっと奥行ってガルガル倒しにいこっ!」
「あ!?ちょっと待てカスミ!?奥に行くとボスランクモンスターが出る可能性があるんだぞ!?」
「いるわけないよーっ!へーき、へーき!あ、ガルガルだ!倒しちゃお!」
カスミが1匹5秒でガルガルを蹴散らしていた。
手慣れ過ぎだろ……。
レベル5の俺よりも、既にモンスターを狩るスピードが早くなっていた。
彼女の適応能力高すぎるでしょ。
そんな保護者のようなスタンスで、カスミのレベリングを見守っていた。
30分くらい暴れれば彼女だって満足するでしょ。
彼女のしたいようにやらせていた。
──しかし、それが仇になる。
「あ!見て見て!ユキ!デカイ鳥が寝ているよ!」
「…………いや、あれボスランクモンスターだから!?」
「え?」
「逃げるよ、カスミ!流石にまだアレに挑戦するのは無謀だ!」
アークの森の初見殺しモンスターである体長3メートルはあるロック鳥がスヤスヤと眠っている。
このロック
最初は寝ている状態でエンカウントして逃げれば助かる。
しかし、攻撃したりしようものなら目を覚まして本気でユキとカスミを殺しに来る序盤の悪魔である。
「声を出すなよ、カスミ」
「う、うん……」
「逃げるよ」
声を押し殺しながら指示すると、カスミがコクコクと頷く。
そーっとロック鳥に気を配りながらそろりそろりと逃げ出す。
良い具合に逃げられそうだと安堵した時だった。
クイクイとカスミに服を引っ張られる。
何事かと思い、彼女に視線を向けると無表情になりながらロック鳥を指差す。
不思議に思いながら俺も寝ているロック鳥に目を向けると、『あ……』と口に出しそうになる。
『ガルッ!』
1匹のガルガルが寝ているロック鳥に噛みつきはじめた。
すると、ロック鳥は目をカッと開く。
『キエーーーッ!』
『きゃぃーん!?』
振りほどくように羽根を羽ばたかせるとガルガルが飛んでいく。
目を覚ましたロック鳥は真っ先に俺とカスミに目を向ける。
「あはは……。と、鳥さん?私たちは善良な一般市民です。悪いのはあっちのガルガルですよー?」
「あはは……。ロック鳥様、僕たちロボットなので美味しくないよ……?」
『キュオォォォォ!』
ロック鳥は5メートルほど飛び上がりながら、俺とカスミに向かって威嚇の咆哮をしてきた。
「わー、見て見てユキ。鳥さんの咆哮で攻撃していたガルガルが灰になったよー。あの鳥さん、ガルガルを倒したってことは私たちの味方だよね……?」
「そうだよね!同じガルガルを倒した者同士だし味方に決まってるよ」
お互い顔を合わせると、死を覚悟したように泣いていた。
それと同時に、羽根がミサイルのように飛んできて俺とカスミの目の前に突き刺さる。
「きゃあああぁぁぁぁぁ!」
土埃が立ち上がる中、カスミの悲鳴が森中に響く。
俺は彼女を守るようにして前に立つ。
「絶対に離れるな、カスミ」
「ゆ、ユキぃ……」
涙声のカスミ。
だいぶあの威嚇で恐縮したようだ。
仕方ない。
木刀を構えながら、俺がロック鳥に向き合う。
「へっ……、鳥野郎がっ!俺はお前の弱点を知っているんだぞ!」
「そ、そうなのユキっ!?」
「あぁ。奴は電撃魔法と火炎魔法に弱い」
「…………それで電撃魔法か火炎魔法はどこにあるの?ユキは使えるの……?」
「…………ないです」
「そんなのないよぉぉぉ!希望から絶望に突き落とすな悪魔ぁぁぁぁ!」
──バシュッ!
羽根ミサイルが俺とカスミ目掛けて放たれる。
「カスミっ!?」と彼女の名前を呼びながら、態勢を崩しながらも彼女の身体を押す。
2人共、地面に尻餅を付く羽目になるがギリギリのところで回避に成功した。
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