8、チャートとシチュエーション妄想

異世界転生田舎ライフの始まりからついに1週間を迎える。

この村は平和だが、刺激の少ないところだ。

しかも、学校も週に3日しか通うことがないので自由度は高い。

10歳の授業内容で、まだ足し算とか引き算とかを馬鹿真面目に解説をするので、授業が遅れるなんてことはなさそうだ。

クラスメートのカスミ曰く、『相変わらず弱っちい顔して頭は良いんだから』と言われたのでそもそも地頭は評価されていたようだ。


最近の俺はと言うと、あの日にプライドと邂逅してガルガル狩りをしたあの日以降は木刀を握ってアーク森には行かなかった。

かといって、別の場所でレベリングをしていたわけでもない。

ではなんでかと言うと──。


「そろそろ筋肉痛も癒えてきたな」


ガルガルの群れを退治してレベル5まで上がった俺に襲ってきたのは酷い筋肉痛であった。

身体を酷使したことと、一気にレベルを5倍に引き上げたことがミックスして化け物筋肉痛となって1週間激しい行動をする度に死にかけていた。

とてもレベリングが出来る体調ではなかった……。


そんな筋肉痛をお姉ちゃんに見せないように振る舞っていた。

筋肉痛で痛い痛いと訴えようものなら、再び木刀所持禁止になる可能性も考慮していた。


「ようやくユキ復活だぜっ!」


筋肉痛になって身体は動けなかったが、考えることは山ほどあった。

その中でも、成長チャートについて1番考えていた。

どんなチャートを組むのか、それを考えるのがワクワクしたものだ。

前世の髪を切りに行く美容院で、頭を整えている際に渡されるガジェット特集の雑誌を読んでいる時のように、目を輝かせたものだ。

色々な妄想をしては興奮が収まらなかった。









──バフ魔法特化チャート。


『プライドの才能をもっともっとこじ開けてやる!いけっ!』

『おぉぉぉぉ!力が漲るじゃないか!エリィィィトが、スーパーエリィィィトになるじゃないか!』


プライドを裏方で支える旦那感があって最高である。

彼女が伸び悩んでいるステータスを俺がそっと優しくバーストを掛ける。

悪くない。

88点。





──完全バランス型チャート。


『お前は何をやらせても万能だな。エリィィィトの伴侶にはやはりエリィィィトしかいない』

『そ、そんな!俺がエリィィィトに並べるなんて……!』

『十柱騎士の副隊長となり、わたしの右腕となり戦って欲しい』


プライドの右腕とか狙えそうな万能チャート。

戦闘、魔法、回復、バフ、デバフ、魅了などなんでも出来る。

欠点といえば、全部バランス良く使えるだけで特出したものがない。

本編終盤でも中級スキルでどうにかしなくてはならないデメリットがキツイなぁ……。

あと、俺が十柱騎士の副隊長とかいうカオスルートは見てみたいが、あのクソ王に仕えるのは絶対ない。

プライドの右腕になるシチュエーションは最高ではあるがね……。

64点。




──近接特化専用チャート。


『ユキ。お前と肩を並べて剣を振りながら冒険が出来ること、わたしは嬉しく思う』

『プライド!』

『お前と2人一緒ならばどんな奴にも負けはしないな!頑張るぞ、2人でエリィィィト最強騎士だ!』


プライドとお揃いの剣士チャート!

憧れるぅぅぅぅ!

最高じゃないかぁぁぁ!

男の一生の憧れである剣士になれるとかそれ最強!

常に戦闘しながらイチャイチャ出来そうぅぅぅ!

だが、これではユキの強みが一切活かされないジレンマぁぁぁぁ!

妄想だけなら90点。

実務を考えるなら30点。

総合60点。

ユキとカスミの得意分野逆になれやぁぁぁぁぁ!




──デバフ特化チャート。


『デバフを掛けました!プライド、敵が弱くなりました!』

『は?』

『…………え?どうかしましたか?』

『お前、エリィィィトなこのわたしがデバフなんかに頼らないと勝てないと?そう言っているのか?』

『え?いや、あの……』

『幻滅した。お前はずっとエリィィィトだとわたしを褒めながらこいつには弱体化しないと勝てないと。そう思ったんだよな?お前とはやっていけない』

『ぷ、プライドぉぉぉぉ!』

『きゃははははは!クスクス、一生敵を弱くし続けていればぁぁぁぁ!ゴミカス能力を永遠に使い続ければぁぁぁぁぁぁ!』


か、考えるだけで失恋した気分になる……。

いや、求婚したのに振られたんだけどさ……。

デバフ自体は有用なのがまた評価に困る。

37点。




──モンスター使役チャート。


『見てくれプライド。俺はモンスターに懐かれてペットにすることも出来る!ほら、可愛いだろ?』

『わぁ!こ、こ、こ、こ、これは慈愛ペンギンじゃないか!可愛いけど狂暴で有名な慈愛ペンギン!』

『ぴゅいぴゅいぴゅい』

『わぁ!可愛い!そんなことが出来るなんてユキは特別エリィィィトだな!』


可愛いモンスターペットを使役して、一緒にプライドと愛でる。

至高……!

でもね、どんなモンスターが現れたとしても1番可愛いのはプライドだよ!

70点。




──魔法特化チャート。


『危ないっ、プライド!アイスアローッッッ!』

『た、助かったぞユキ。やはり前衛と後衛に別れてフォローをし合うのは安定するな』

『気にするな。足りないところを補い合うのがパートナーとして、恋人としての役割だろ?』

『ば、馬鹿!こ、こ、恋人は恥ずかしい……!でも、ありがとうユキ』


良いんじゃないの!

良いんじゃないの、これ!

近接のプライド、魔法の俺。

役割も被ることなく、お互いに活躍し合える。

もう、これで良いんじゃないかってくらいにエモいじゃないか!

97点。




──魅了特化チャート。


『出会いは……、ユキのことがわからなくて拒んでしまった……』

『うん』

『でも、こんなにユキが可愛くてエロい雰囲気になれるなんて知らなんだ!ユキのフェロモンは毒性でも混ざっているのか……?』

『プライドのフェロモンにも俺を狂わす毒が混ざっている癖に……』

『ユキ!ユキっ!ユキぃぃぃぃぃぃ!愛してるぅぅぅぅぅ!』


これもうやってるだろ……!

確定ホテル直行コース行きだろ。

ヤバイって……、これはヤバイって!

二次創作で盛んだったエチエチショタスタイルユキが爆誕しちゃうじゃないか!

きゃー!

99999999999999999999999999999999999999999999999999999点優勝確定!




──ヒーラー特化チャート。


『プライドっ!大丈夫か!?回復する!』

『は?』

『……え?』

『回復などポーションを飲めばよかろう。なんでわざわざ50ゴールドで買えることを人力でする必要がある』

『……あ、あの。そ、それは……』

『なぁ、ユキ。お前、回復以外何が出来る?』

『か、簡単なバフと、木刀を振れます……』

『エリィィィトなわたしにお前は相応しくない。ゴミだな、ユキ。お前の価値は50ゴールドということだ。失せろ、ゴミ!』


あああぁぁぁぁぁぁ!

死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!

プライドにそんなこと言われたら死ぬ自信がある。

……でもちょっと罵られたい気持ちはある。

泣き黒子の上にあるつり目で睨まれてゴミって呼ばれたい気持ちもかすかにある。

でも、そんな一時のマゾい気持ちでプライドに捨てられるのはごめん被る。

0点。







他にも地味過ぎるタンク特化チャートや、バフと魔法の2刀流チャート、近接戦闘と魔法と魅了の3刀流チャートなど色々な妄想を巡らせていた。

でも、やはり『ハートソウル』は特化型チャートが強いと言われているのでやはり1つに極めるチャートにしよう。


優柔不断な性格も災いし、本気悩んでいた時だった。


「ねぇ、ユキ!」

「あ、お姉ちゃん」


ノックもされないまま、お姉ちゃんが俺の部屋に入ってきた。

「どうしたの?」と尋ねると、お姉ちゃんがニマニマと機嫌良く、嬉しそうに笑っていた。


「お姉ちゃんね、最近学校でチャートの授業を習っているの」

「へぇ、そうなんだ」


お姉ちゃんの年齢になると、学校でもステータスやチャートの勉強もするんだな、なんてこの世界の常識を知る。


「ユキには早いと思うんだけど、騎士を目指しているわけでしょ?」

「うん」

「ユキのレベルが5になるなんてまだまだ気が早い話なんだけど……。もしユキがチャートを組めるようになったら『ヒーラー特化型チャート』を組みなさい!」

「…………え?なんで?」


それだけは無いなぁと考えていただけに、サキに心臓を掴まれた気分になり、吐血しそうになった。


「なんでも、ヒーラーってケガを治せるみたいじゃない!ユキの可愛いお顔に傷が付くなんて考えたくないの!だから絶対にヒーラー特化チャート1択よ!」

「そ、そうなんだ」

「それに、お姉ちゃんやお父さん、お母さんがケガしても癒せるんでしょ!癒せる騎士なら危ない橋を渡ることもない!まさにユキの為だけに存在するチャートじゃない!」


ルンルン気分のお姉ちゃんはそう言って俺の両手を取って、顔まで上げた。


「そうしないと、お姉ちゃんは絶対にユキが木刀を握るのなんか賛成しないからね」

「は、はい……」


サキの顔は笑顔だけど、目が笑ってない。

しかもハイライトがない。

あ、これもし違うチャート組んでバレたら、軟禁される奴だ……。


「いつになるかわからないけど、チャートが組めるようになったらヒーラー特化型チャートを組むよ」

「うん!ユキはえらい!えらい!」


サキはニコニコ笑いながら頭を撫でる。

うーん、どうやら俺はお姉ちゃんに弱いようだ……。

仕方ない、お姉ちゃんの目が黒い内はヒーラー特化型チャートを組むしか選択肢はない。

な、なんかプライドにも認められる力が覚醒するかもしれない。

悲観することなく、プライドに追い付ける男を目指していこうと決める。


「そうだ!ユキの髪が長くなってるし、お姉ちゃんが切ってあげる。動くなら短い方が良いもんね!」

「ありがとう、お姉ちゃん」

「じゃあ、お風呂場の方へ行きましょう。レッツゴーよ、ユキ!」


お姉ちゃんに連れられるようにして、足を動かす。

それに、もう少しでサキとは永遠の別れになる可能性があるのもまた彼女に逆らえない理由の1つになっているのだろう。


ユキのエメラルド家全員が、『ハートソウル』の序章で殺害されてしまう。

そんなプロローグがちょっとずつ、ちょっとずつ近付いて来ていた。

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