7、プライドの印象
【プライドSIDE】
「王様……。こちらがアーク村での報告になります……」
「ご苦労だったプライド・サーシャよ」
「ありがたき幸せ!」
泣き黒子の上にあるつり目が、普段よりも冷たい雰囲気を纏いさらにつり上がる。
跪いた姿勢の彼女、プライドは立ち上がる。
役目である報告を終えて下がろうとしたところに、彼女の組織のトップである王様が「待て」と、制止されてその足が止まる。
「このまま順調にキャリアを組めばお前をいずれ十柱騎士の1人として迎えることを検討している」
「あ……、ありがとうございます!」
「うむ。これからの活躍に期待している」
プライドは王の間を立ち去ると、エリィィィトな自分を認められていく確信があり、高揚していく。
「きゃははははは!わたしにかかればこんなの当たり前よねぇ!出世すればぁ、自他共に認める本物のエリィィィト!やったわ!やったわ!」
あと数年、結果を出し続けて死ななければ十柱騎士という王を護る最強の称号が手に入る。
自己顕示欲の強いプライドの塊のようはプライドにとって、出世や称号はなによりも誇りであるものだ。
(わたしには、これしか誇れるものがないもの……。わたしはエリィィィトで居続けなければならないんだもの……)
プライドの自信満々なような態度と言動は、自信のない本心を守る鎧になっていた。
ちょっと浮かれ気味なプライドが、城を歩いていると彼女を見て「ちっ……」と敵意を向けながらわざとらしい舌打ちをしてくる女が見えてプライドは足を止める。
(またこの女か……)と軽蔑しながら、つり目を細めながら嫌そうな顔をすると、彼女が口を開きだす。
「ケッ……。相変わらずエリィィィト、エリィィィトってうぜぇ女だなぁプライドよぉ!気持ち悪いんだよおめぇ!調子乗り過ぎ。足引っ張られるわよ。…………そして死ね」
「あら?これはこれは貧相な貧相なレインさんではありませんか。ごきげんよう」
「あぁ!?後輩のクセに喧嘩売ってるのかプライド?」
「いえいえ。……ただ、先輩なのに結果を残せなくてぇ後輩に当たってぇ……。惨めだなぁって憐れんだだけですぅ!」
「こんの……、クソ女がぁ!」
プライドは目の前の女は苦手であった。
目の前の女は、プライドが大嫌いであった。
組織とはいっても、仲の良い者もいれば、そのポジションの椅子を盗もうと画策する者もいた。
彼女は圧倒的にその後者であった。
「けっ。なにがエリィィィトだ。見た目だけが良いその面で誘惑すりゃ男はイチコローってか?男ってか王様か?王を誘惑してんのか?あぁ!?」
「ならばレインさんも同じことをすればエリィィィトなわたしに並べるんじゃないですか?あ、性格と同じく胸も貧相でしたね」
「口の悪さもエリィィィト様だなぁ、おい」
灰色のボッサボサの髪を無造作に伸ばし、右目に眼帯を装着しているレインはプライドが妬ましかった。
女の出世は遅いと言われている中、レインは結果を残しつつあった。
しかし、それを後から入ったプライドが横からかっさらわれた。
それでいて容姿もプライドの方が目を惹く。
女としても負けた気がして、それがとにかくレインは気に食わなかった。
(あー、ウザいなぁ……)
低俗な言い掛かりにプライドはゴミを見る目でレインをあしらう。
そのまま歩き出した。
「おい、待てぇプライド!?不本意ながら次のミッションはお前とオレが一緒なんだよ!?おい、無視するな!」
「どうせ作戦を立ててもレインさんが先行するでしょ。わたしの作戦なんか耳に貸さないじゃないですか。時間の無駄です」
「おい!?自由かお前!?」
「あなたが自由でしょ」
プライドはもうレインを視界に入れないで自分が思うまま歩く。
いつの間にかレインの姿も見えなく、声も聞こえなくなっていた。
「ふぅ……。あー、ヤダヤダ。相変わらず被害妄想の激しい先輩だわ……。なによ、誘惑って……。そんなのしてないわよ……」
プライドがため息を吐きながら呟く。
ゲスな勘ぐりをしてくることに、嫌悪感がふつふつ沸いてくる。
「誘惑なんてするまでもないのがエリィィィトだしぃ」
口元を抑えながら妖しい笑みを浮かべたプライド。
その時、邪心のように頭の中に入ってきたものがあった。
『プライドが好きです!大好きです!』
『プライド!俺と結婚してください!』
「…………恥ずかしい。まさか、わたしが誘惑されるなど……」
体温がボワッと上がるのを感じる。
顔から湯気が出てないかと、無意識に鏡を求めてしまう。
「いや、あれは誘惑どころか求婚だな……」
男からのゲスな誘いを受けたのは0ではないが、求婚を受けたのははじめてであった(ゲスな行為をされたことはない)。
口では殺すと言っていたが、本当に殺すつもりはなかった。
敵意を持つ一般男性ならともかく、戦闘力のない子供や女性を虐殺する趣味はプライドは持ち合わせていなかった。
ただ、趣味である人の怖がる姿を見て悦に浸れればそれで良かった。
それでわざと煽るような口調で男の子をいたぶる。
それが彼女が思い浮かべた光景だった。
しかし、ユキはあろうことか怖がる姿を見せるどころか、『大好き』と告白して、結婚を申し込んだ。
そんな反応をされるとは思ってもいないプライドは完全にペースを乱された結果、鞭打ちの1つもなく彼を見逃したのであった。
「と、年下なんか異性の内に入るものか……。しかもあんなガキっぽいショタ顔男子……。範囲外だ」
見た目は弱々しく、大人になってもレベル5にすら到達出来そうにない雑魚顔男。
路傍の石のごとき存在だ。
「エリィィィトなわたしに釣り合う程度には出直して欲しいわね。男ならせめてレベル10になってようやくスタートラインに立てるぐらいでしょ。まったく、あんなガキに告白されるなんて一生の恥だわ……」
『そんなわけだからプライド!俺と結婚してくれっ!俺が絶対にプライドを幸せにするからぁぁ!』
ストレートな好意がプライドの胸を貫く。
あんな情熱のある好意を向けられることが、あんなに嬉しいこととは彼女は知らなかった。
「くぅ……。あんなユキとかいうガキに調子が狂わせられるなんて……。エリィィィトなのに!わたし、エリィィィトなのにっ!」
ちょっと気が緩むとユキで頭がいっぱいになるプライド。
おかしい。
プライドの男の好みは、ショタ顔とはかけ離れた男らしい塩顔な人物であった。
そして、年上で身長は180センチ以上、肩書きがエリィィィトに釣り合う人物でないと男とは認めなかった。
ユキには何もかもが当てはまらないものだらけである。
むしろタイプですらないまである。
プライドのお眼鏡に叶う男子など今まで現れなかった。
『プライドが好きです!大好きです!』
『プライド!俺と結婚してください!』
『そんなわけだからプライド!俺と結婚してくれっ!俺が絶対にプライドを幸せにするからぁぁ!』
『好きな女性には好きなだけ肉まんを食べさせてあげたい』
「おぉぉぉぉ……!?頭に……!頭に何回もリフレインするじゃないかぁぁぁぁ!しかも、あのガキ!ムカつくことにわたしが去ってからもアークの森に向かって気持ち悪いことを口走っていたじゃないかぁ!」
プライドがユキと別れて10分くらいした頃。
アークの森で、彼のものと思わしき声がしたのだ。
『…………可愛い!美しい!気高い!エリィィィト!好き!大好き!めっちゃ好き!』
この時、ビクッとしたプライドは顔が赤くなった。
その恥ずかしさに当たるようにして鞭を振るっていたら、手が滑りガルガルの巣を突っついてしまい雑魚モンスターであるガルガルを溢れさせるミスすらしてしまい、一目散に森から逃げ出して来ていたのであった。
「…………ま、まぁもうユキとはもう会うこともなかろう。うん、ない」
プライドは口をグーで隠しながら、自分に言い聞かせて頷いた。
「大体、わたしなんか男が好きになるもんか……。ユキだってわたしのあの秘密を知ったら……。結婚しようなんて言わないはずだ……」
そんなことをプライドはぶつぶつ言っているが、彼女は気付いていない。
グーで隠された口が凄く残念そうにしていることを。
そしてもう1つ。
ユキの悪口を考えている時、口がへにゃっへにゃっになっていることに。
──果たして、ユキとプライドはどのような運命を辿るのか。
それはまだわからない。
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