6、家族からの評価

「し、死ぬかと思った……。いや、死んでるんだけど……」


身体がボロクズになりながらも、木刀を杖にして立ち上がる。

ガルガル狩りをしていたのに、いつの間にかガルガルのユキ狩りが始まったのは予想外である。

これなら超絶脳筋パーティーのカスミも連れてくるべきだった。

あいつの脳筋っぷりは頭のデッドボールで、前世の記憶を蘇らせる実績付きである。

不本意ではあるが、何より俺が1番信頼出来るパワーかもしれない……。


「メニュー」


数十体のガルガル狩りをしたことによる経験値入手とレベルアップがどこまで進んだのかの確認作業に入る。


「レベル4……。微妙にあともうちょっと経験値が貯まれば念願のチャートを組めるようになる……」


あと、こんなに噛まれた跡や、血まみれで家に帰ったらお姉ちゃんから外出禁止にされて、家に軟禁されそうだ。

そうしたら、修行も何もまたさせられなくなる。


「よし、もうちょっとモンスターを倒していくか……。しんどいなぁ……」


3時間残業の残り1時間くらいの絶妙に死にたくなるくらいの心境になりながら、木刀を構えてそれから10匹ほど群れから離れたガルガルを倒していった。

単独撃破ならノーダメで刈れる。


「これでチャートが……、チャートが組める……!」


ガルガルの牙まみれのリュックを見ながら達成感を感じる。

そして同時にレベルが5に上がった。

レベル5になったことで、最初の魔法である『アッパー』を使用可能になる。

『アッパー』は単純に味方を1人だけパワーアップさせるバフである。

ユキお得意のバフ魔法であるが、『アッパー』は使用者本人には使えないデメリットがある。

ソロな今の俺には必要ないゴミカス魔法である。

主人公がバフ要因って尖った仕様だと、久し振りに『ハートソウル』に触れて苦笑いである。

次にチャートを組むチャート画面を開く。

ここからはプレイヤーの数だけユニットの性能を分岐するツリーを組める。

そうなると必然的に最初のチャートに触れる。


「そりゃあ、ヒーラーチャートにチャートポイントを振るよ。これで低級魔法の『ヒール』入手だな」


通常プレイや、RTAで定石とされる低級魔法の『ヒール』を入手する。

名前の通り、ユキが癒す力をここで入手するわけである。


「よし、『ヒール』『ヒール』『ヒール』」


入手ととたんに3連続で『ヒール』を使用する。

するとあら不思議、ケガした事実そのものが癒しと共に無くなっていく。

装備品の汚れも落ちるという使用である。

これでお姉ちゃんに対して『1ダメージも被弾してませんけど?』顔で帰宅出来るようになる。

お金も微妙に貯まったので、得るものばかりを掴みそのまま帰路に着く。


「待ってろよ、プライド!エリィィィトな君に追い付いて、絶対君を幸せにするからなーっ!」


死亡フラグに愛されし悪役の女幹部プライド。

その死に様は、多種多様に渡る。

さくっとモブのように殺される時もあれば、死体蹴りのように虐められる時もある。

プライドが死ぬシーンを初見で見る度に吐き気に襲われたものである。

30回はリアルに死にかけたものだ。

もう、それは愛ではないだろうか。

プライドの幸せを頭に浮かべながら、ルンルン気分で帰って行く。





─────






「ユキぃぃぃぃぃぃ!あぁ、私のユキがこんなに逞しくっ……!見て見て、お母さん!?ユキったら騎士のような顔付きになったよ!」

「何も変わってないでしょうに……。サキは相変わらずユキが大好きなんだから」

「あはは……」


帰宅すると、姉のサキが白髪を揺らしながら興奮して祝福していた。

リアリストなお母さんの性格を見るに、ロマンチストは父親なのかな?と、家族について勘ぐる。


「こう……、頬づりをするといつもよりもユキの頬が固くなった気がする。これ、筋肉だわ!」

「お、お姉ちゃん……。恥ずかしいよ……」

「でも、まさかユキが騎士希望なんてお母さんは驚いたわ。てっきりお医者様とかになりたいものと思ってたわ」

「お母さん。ユキの夢はただの騎士じゃないの。私の……、私だけの騎士になるんだから!きゃっ、言っちゃった!」


お姉ちゃんだけの騎士になるのは構わない。

しかし、平民なお姉ちゃんの騎士になってもお給金は発生しない。

自宅警備員ならぬ、自宅騎士ということだろうか……?

別に、将来がそれで良いなら何も言わないが、プライドを養うにはやはり金は有り余るくらいには稼ぎたい。

プライドが不幸になるくらいなら、プライドのすべてが欲しい。


「まぁ、確かにユキは強いわよ。お父さんだって昔はそこそこ強いレベル20の冒険者だったんだから。そんな勇ましい血を引いたユキは最強よ」

「お母さんも昔はお父さんとパーティーを組んだ冒険者だったんだよね?お母さんはどんな風なポジションだったの?」

「私は弱かったわ……。レベル3の裏方よ。情けない話、後ろでバフ掛けるくらいしか才能なかったし……」

「へ、へぇ……。そうなんだ」


知らない親の設定が出てきてスンとする。

バフの才能は母親譲りかい……。

じゃあ勇ましくて強い方のDNAはお姉ちゃんであるサキに……?

……考えないようにした。


「お父さんってそんなに強いんだねー」

「『冒険者として稼いでからは結婚して、田舎に引っ越してスローライフを送るんだー』なんてよく口にしていたっけ。まぁ、それで夢が叶って、今があるわけどね」

「お父さん凄いね!そういうの聞いたことなかった!」

「…………」


なにその前世でよく見た憧れの夢……?

しかも叶っているんかい。

父親の過去が、あまりにも時代を先取りし過ぎていて、感心する。

ユキの両親は、ゲーム的には基本的にモブなので一切背景がわからない人物である。

言ってしまえばユキに甘々な姉のサキもモブのような扱いには変わらないのだが……。


「ん?どうしたのユキ?お姉ちゃんに熱い視線送っちゃって?」

「お姉ちゃんの将来の夢とかはないのかなぁって……」

「そんなの決まってるじゃない!ユキのお嫁さん!」

「ちょ、ちょっと!?お姉ちゃん!」


サキが満面の笑みで俺に抱き付いてくる。

彼女の大きめな胸や、身体の体重が一気に乗っかかってきた。

それを支えるようにして、お姉ちゃんを捕まえる。


「…………あれ?」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「こないだまではお姉ちゃんよりも小さい身体のユキは私を支えられなくて体勢を崩して、仲良く2人で床にダイブしてたからね」

「そんなこともあったねー」


こないだというか、つい先週も同じ事故があったようだ。

ユキの背中にサキのお尻が乗るという、よく考えると羨まし……潰された記憶がある。

力自体は南晃太が憑依したから強くなったわけではなく、単にステータスが上がった影響だろう。

こんなことでガルガル狩りの成果を感じることになるとは思わなかった……。


「凄い……、ユキの修行の成果が出てる……。ウチの弟は天才よ!エリートだわ!」

「俺はエリィィィトを越える目標があるんだ」

「勇ましい……。世界最強のユキが私の騎士なんて一生の誇り!」

「はいはい。ほら、そろそろお父さんが帰る時間だから。夕飯の支度をするわよ、サキ」

「はぁーい」

「ユキも食器を並べてね」

「はぁーい」


雑談タイムも終わりとばかりに夕飯の時間が来たようだ。

母親の指示通りに食器を並べているとガチャっという扉が開く音がする。

どうやら父親が仕事から帰ってきたようだ。

ユキの記憶では、冒険者を引退した父は村の護衛隊長として守衛や警備隊を率いる役に就いている人である。


「ただいまー」と声を出しながら、帰宅してきたのであった。










「ただいまー」


ユキの父親はいつものように、仕事をこなして帰宅してきた。

特に事件も、異変もない平和な日であった。

家族に囲まれながら、美味しいビールを飲み干すことを頭に描きながら自分の家の扉を開けた。

「お帰りなさい」という妻の声がして、「お帰りー」と子供であるサキとユキの声が響く。

大きくなってきたが、まだまだ可愛い子供たちに笑顔を向けて「帰ったぞ」と安心させるように声をかけた時だった。


「──っ!?」


ゾクッとしたような気配を感じる。

元冒険者として、強者と出くわした時のような圧迫感が彼に襲ってくる。

怪しい人物が家に隠れているのかと警戒しながら、この場にいる全員のステータスを確認する彼専用の魔法を発動した。

問答無用で範囲内の人物を見つけ出せる魔法だが、どうやっても家族3人しか見つけられない。


(マキレベル3、サキレベル1、ユキレベル5。…………んんっ!?ユキのレベル5!?)


彼は家族を不安にさせない為に平静を装っていたが、息子の変化に内心驚愕していた。


(今朝までレベル1だったのに、何があったんだ息子!?何故いきなりレベルが5倍に上がるんだ!?)


レベル5とは、18歳の成人男性の中でも半分は到達出来ないくらいの才能と言われている。

冒険者の中でも5レベルともなれば成長チャートも組めるので1人前としてカウントされるのだ。

10歳の男の子が1日で到達出来るレベルではないのだ。

ユキのステータス画面を閉じたり、開いたりを繰り返すが何回やってもレベルは5のままであった。


「見て!お父さん!今日はユキったら私の騎士になるって言って木刀を素振りしたんですの!強く逞しい男になったでしょ!」

「1日じゃ何も変わらないよお姉ちゃん……。ね、お母さん?」

「そうね……。ユキは今朝から何も変化してないわ……」

「えー?そう?お父さんはどう思う?」

「…………強く逞しい男になったなユキ」

「お父さんったら……。ウチの家族は家族大好き過ぎるんだから……」


サキのお世辞に全力に肯定していく父親の姿があった。


(ウチの息子は天才か?エリートなんじゃないか?これ、いつか俺を容易く抜くな……)


皮肉にも、サキのお世辞が元冒険者の評価とまったく同じものなのであった。



──こうして、平和なエメラルド家の夜は過ぎていく。

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