第115話 続けて?


 気が付けばもう11月。高校2年生という時間もあと4ヶ月ほどで、そろそろ来年の受験に向け、本腰を入れなければならない


 …まあ、そうなんだけど、俺達には差し迫って、ある一大イベントが控えていた。

 文化祭も体育祭も終わった今、何のイベントがあるのかというと、それは修学旅行だ


 うちの高校は毎年、生徒やその保護者にアンケートを取って、北海道か京都、沖縄などの中から選ぶ方式になっている。…らしい


 そして今年、俺達が向かうのは…


「遥くん…私、北海道行きたかった…」

「え…もうこの時期寒くない?」

「いいの!!」

「そ、そう…」


 俺はどちらかと言うと寒いのが苦手なので、北海道以外がよかったんだけど、


(そんなの言える雰囲気じゃないな…)


「まあ、京都でもよかったじゃん」

「私…小学校の時も行ったんだよね…」

「そ、そう…」


 アンケートで多数決なんだから仕方ないじゃんか…俺に当たらないで…


「でも、同じクラスじゃないから、あまり一緒にいられないね」

「うん。残念だけど、こればっかりはね」

「でもね」


 うん?なんか目が輝いてる気がするけど、どうしたの?


「私ね、自由行動の日に、クラス関係なく、仲の良い人達でも一緒に回れるように、って先生に言ってみたの」

「え…マジで…」

「うん」


 凄い行動力だ…俺には真似出来ない…


「でね?職員会議で取り上げてくれて、たぶんおっけーっぽいよ」

「マジか!」


 え?凄過ぎない?本当に?


 彩香は「ふふん!」とちょっと得意気だけど、控えめに頭をこっちに寄せてきた


「ど、どうしたの?」

「遥くん…褒めてよ…」

「うん…」


 軽く頭をよしよししてあげると、目を細めて、可愛く小さくなっている


(猫みたいだな…)


「えへへ…気持ちいい…」

「うんうん。頑張ったね」

「あぁ…遥くん…」


「七瀬ちゃん、可愛すぎるんだけど…」


「「え!?」」

「あ、ごめんごめん、続けて?」


 あ…早川さん…だよね?

 続けて?って何?やれるわけないだろ!!


「いや…それは…」

「いいじゃん。七瀬ちゃんも八神くんも、もう校内で知らない生徒はいないカップルなんだから」

「は、はぁ…」

「甘えてる七瀬ちゃん…可愛い過ぎ…」

「もう!!夏季ちゃんってば!」


 確かに、気が付けばこんな感じでイチャついてるのは否定出来ない。おかげで俺も、だいぶ有名人になってしまったと思う。

 奏汰にも「いいよな…遥斗は学校でイチャイチャ出来てさ…」と羨ましそうに言われた


「それで?修学旅行の話してたんでしょ?」

「そうそう」

「やっぱり自由行動は二人で?」

「夏季ちゃんだって、彼氏と一緒に回るんでしょ?」

「あ…ま、まあね…」

「ほら!」

「じゃ、じゃあ!お邪魔虫は退散するよ!」


 早川さんはそう言って、走って何処かに行ってしまった


 へぇ、早川さん、彼氏いたんだ。

 ちょっとボーイッシュでいつも元気に絡んでくるけど、でも可愛いもんな


「…遥くん?」

「え?どうかした?」

「今、可愛いな…とか思ったでしょ」

「ああ、うん、そうだね」

「へーそーなんだー」

「ちょっ…」

「ふーんだ」

「だからそういうんじゃなくて…」

「じゃあどういうのなのよ」


「むー!」と拗ねる彩香がくそ可愛い


「あのね…いつも元気でいい子だな、って思っただけで、そういうんじゃないから…。それにね…」

「それに?何よ」

「彩香の方が…」

「私の方が?」

「か、かか…可愛い…よ…」

「も、もう!!急にデレて来ないでよ!」


「私、そんな単純な女の子じゃないんだからね!」と言いつつ、口元がニヨニヨしてるのが隠せてない


「ごめんね」

「ん…」

「修学旅行、楽しみだね」

「もう…ずるいんだから…」


 怒ってますアピールをしてるくせに、手をキュッと握ってくる彼女




 ついこの前まで夏だと思ってたのに、日に日に日が暮れるのは早くなり、過ごしやすかった秋も、あっという間に終わりを告げるように、外の空気は少し冷んやりと感じる。

 それでも、火照った顔を冷やすのにはちょうどいい風が、今の俺には心地よかった





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