After Story

第114話 わたあめと雲


 あれからたぶん、学校でも普通にイチャイチャしてたと思う


 もちろん男子からの刺すような視線はめちゃくちゃ感じた。それこそ文字通り「刺されるんじゃね?」と思うほど


 たぶん今までの俺ならそれだけで嫌になって、もしかしたら別れる、というような考えに至ったかもしれない


 それでもそうはならず、今も彩香と楽しく過ごせているのは何故か


 夏休み前までは、おそらく優等生で凛としてて、清楚可憐な高嶺の花の美少女。生徒は皆、そんな七瀬彩香を羨望の眼差しで遠くから見るだけだった


「ね、ねね、遥くん!」

「なに?」

「ほら!写真撮ってくれるって。行こ♪」

「分かった。撮ってもらおう」


 それが休み明け、来てみたらまるで別人のように目に映ることだろう


「七瀬さんって、あんなだったっけ?」

「隣の彼氏?あれ、誰?」

「確か柊のツレじゃなかったか?」

「ああ、バド部の」

「ていうか、めちゃくちゃ可愛いな…」

「それな…」

「あいつ…羨ましいよな…」

「本当それな…」


 今、学校の文化祭真っ只中。

 クラスの演し物の準備も無事間に合い、お互いの休憩時間を合わせて、二人で校内を散策していた


「ねえ、遥くんってば!」

「うん?」

「ほら!写真部の人が撮影会やってる。カップルで撮ってもらってる人もたくさんいるし、私達も早く撮ってもらおうよ」

「うんうん」



 こうして写真を撮ってもらい、それから他のクラスを見て回る


 定番のクレープとたこ焼きを買い、中庭で一緒に食べながら話していると、


「そういえば、どうして占いやってるクラスには入らなかったの?」


 俺の偏見かもしれないけど、女の子はそういうの好きなんだろうな、って思ってた。

 けど、彩香はスルーして行ってしまいそうだったので、「占いで見てもらわないの?」と俺が訊ねると、「いい」と言って、その教室には見向きもせずそのまま歩いていた


「だって…」

「もしかして嫌いだった?」

「いや、好きだけど…」

「ならどうして…」


 やっぱ好きなんだ。なら、尚更分からない


「だって…悪く言われたら嫌だもん…」

「え…」

「私と遥くんを占ってもらって、もし「明日別れます」なんて言われたら…」

「なんだ、そんなこと気にしてたんだ」

「え?そんなこと?」

「え…」

「…遥くん?」

「はい…」

「もしそんなこと言われたら私…何するか分かんないよ?」


「ふふ…」と、暗い目でそう言う彩香は、普通に怖かった


「そ、そっか…ははは…」


 一時期ヤンデレっぽくなってた時があったけど、あれ以降はその片鱗は出てなかった


(まさか…)


「でもね?」

「うん…」

「もしそんなこと言われても、私、信じないもん。だって、ずっと一緒にいるんだもん。ね?遥くん?」


 綺麗な笑顔で、少し照れながらそう言う彼女を見て、そんな心配は必要なかったな、って俺は思った


「うん。そうだね」

「えへへ」


「あ!!お兄ちゃん!」


 少し離れた所から聞き慣れた声がして、見てみると妹の咲希だった


「あ、咲希」

「咲希ちゃん、こんにちは」

「先輩、こんにちは」


 危ない危ない。

 あのままの流れなら、彩香の頭を撫でてよしよしするところだった。

 そんな姿を妹に見られるわけにはいかない。後で何言われることか


「そんなに畏まらなくてもいいよ」

「はい…」

「咲希?どうした?」

「あの…お兄ちゃん達…」

「「え?」」

「…イチャイチャし過ぎだよ…」


 あ…そうなんだ…


「さ、咲希ちゃん!」

「はい!?」

「あの…あの!お姉ちゃんって呼んでもらって構わないから!」

「ちょ…何言い出してんの?!」


 動揺し過ぎだろ!

 色んなもの飛び越えてるじゃん!


「先輩が…私のお姉ちゃん…」


 お前もポ~っとなってるんじゃない!


「あのね、二人とも…落ち着こう…」


 本当、やれやれだ…





 その後、咲希が持って来てくれたわたあめを三人で食べながら、俺は中庭から見える雲を「やっぱわたあめと雲って見た目同じだよな」と、どうでもいいことを考えながら眺めていた


 戸惑うこともあるにはあるけど、それよりもこうして過ごす日々が楽しくて、何より彩香と一緒にいられることが嬉しくて



「じゃあ、私はここで」

「ああ、またな」

「咲希ちゃん、バイバイ」


 妹の背中を見送り、隣の彼女に視線を戻す


「じゃ、私達も行こっか」

「そうだね」


 自然と、当たり前のように恋人繋ぎで結ばれるこの手が温かく、何より、愛おしく感じながら、砂糖の甘い香りのする彼女と共に、二人で散策を続けるのだった





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