第110話 顔が…(彩香side)


 その日の夜。

 遥くんとLineでやり取りしたあと、莉子ちゃんとも明日のことを一緒に話していた


 花火を見に行くのはもちろんだけど、私は浴衣を着るのも凄く楽しみにしていた。

 どんな柄があるかなとか、髪はどういうふうにしてもらおうとか、あと手提げなんかの小物とか。

 そして、遥くんが浴衣着てくれるのも楽しみで、想像しては一人ニヤニヤしていたんじゃないかと思う


『それじゃ、明日三人で迎えに行くから』

「うん。ありがとう」

『彩香ちゃん、おやすみ』

「おやすみ、莉子ちゃん」


 通話を終えてなんとなくベッドに横になるけど、やっぱり莉子ちゃん達が羨ましく思えてくる


 小さい頃からの友達で、幼馴染み。

 いくら私が遥くんのことを好きでも、昔のことは話で聞いて教えてもらったことくらいしか分からない。

 私の知らない遥くんを知ってるというのが、悔しいというか、どうしても羨ましく思う


 たぶん私は独占欲が強い。

 それはついこの前のことで、もう十分に分かっていることだけど、そう簡単に自分の性格は変えられない。

 我慢する…とは思っていても、やっぱりちょっとくらいは嫉妬してしまう


 でも、これからずっと隣にいるのなら、少しずつお互いに知っていけば、それでいいことなんだよね?



 そのまま目を閉じ、遥くんの浴衣姿を想像して照れたりしつつ、なんとか眠りにつくことが出来た





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 待ちに待った花火大会のその日


 遥くん達が迎えに来てくれることになってるので、約束の時間に駅で待つことに


 電車だから当たり前だけど、時間通りに三人は来てくれて、お目当てのお店目指して歩いて行く


 男の子二人は私達の後ろを歩いてて、その前を私は莉子ちゃんと並んで話しながら歩く


「私ね、浴衣って子供の頃に着て以来なの」

「私も去年初めて着たんだよ」

「どうだった?」

「うん。柄も色々あるし、選ぶだけでも楽しかったけど、やっぱり奏汰に褒めてもらえたのが嬉しかったなあ」

「ねえ、何て言ってくれたの?」

「それは、その…」

「ん?赤くなってるよ?」

「可愛いよ…って…」


 莉子ちゃんは肩くらいまでのミディアムで、身長も私より低く、第一印象からすでにもう可愛かったんだけど、どこか大人びた感じもして、私の中では勝手にお姉さん的なイメージだったけど、こうして普通に照れくさそうにもじもじしてる姿は、もうギュって抱き締めたくなるほど可愛い


「いいなあ。私も遥くんに褒めてもらえるかなあ」

「いやいや、彩香ちゃんで駄目なら、世の女子はみんな駄目になるよ」

「そんなことないってば!」

「それに、遥斗くんはちゃんと言ってくれると思うよ」

「うん…だといいな…」

「そりゃ、好きな人には可愛いって言われたいよね?」

「うん…」

「彩香ちゃん…可愛いが過ぎるよ…」

「え!?莉子ちゃんに言われたくない!」

「えー、何よそれ~」


 今の会話…聞かれてないよね?


 チラッと後ろを伺うと、二人で話してこっちの話の内容まで気にしてない様子


 ホッとするのと同時に、昨日までよりも更に楽しみになる私だった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 お店に着くと、みんなで浴衣の柄を選んで、その後は男女で別れて着替えることに


 浴衣なんて自分で着れないって思って不安もあったけど、お店の人が着付けてくれて、髪も綺麗に結い上げてくれた


(これが…私…)


 鏡に映る自分の姿に、少し照れてしまう


「彩香ちゃん!凄い似合ってる!」

「莉子ちゃんも可愛い」

「ねえねえ、早く見せてあげようよ」

「う、うん…」

「どうしたの?」

「あ、あの…ちょっと恥ずかしくなって…」

「大丈夫だって。ほら、行こ?」



 莉子ちゃんは楽しそうに「お待たせ~」と二人の元へ。

 私もその後をおずおずとついて行く


 遥くんは私を見て、小声で「あ…」って言うと、そのまま、口を開けたまま固まってしまった


(え…似合ってなかったのかな…)


 柊くんは「似合ってるな、可愛い!」って莉子ちゃんのこと褒めてあげてるのに…


 私は少し緊張しつつも、遥くんに訊ねる


「どうかな…」

「その…凄く似合ってる…」


 目線を逸らして、恥ずかしそうにそう言ってくれる遥くんは、どうやら本当にそう思ってくれてるみたい。

 だって顔が赤くなってるもん


「うん…ありがと…」


 よかった。遥くん喜んでくれたんだ。

 それに、彼の浴衣姿もカッコいいし、私の方がデレちゃいそう


「えへへ…」


 さっきまでの緊張は何処へやら。

 私がすっかり油断し切ってると、


「綺麗だよ…」

「へ…」



 え…


 え?遥くん…本当に…?



 まさかこんな不意打ちされるなんて…


 そうだ…忘れてた

 遥くんはそういう人だった…




 もう…ずるい…



 顔が熱いよぉ…





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