第108話 明日の(彩香side)


「いやぁ、七瀬ちゃん」

「どうしたの?」

「もうね、凄い噂になってるよ」

「噂?」

「そんな、「え?なんのこと?」みたいな感じで、コテンって首傾げたりするのは可愛いんでやめといた方がいいよ」

「ちょ、ちょっと…」

「昨日、八神くんとラブラブなところ、みんなに見られたみたいよ?」

「やだ…ラブラブだなんて…」

「いや、今照れるのは違うから」


 どうやら、私と遥くんが手を繋いで歩いてたのを、けっこうな人達に見られていたようで、それを夏季ちゃんが教えてくれた。

 さっきちょっと遥くんのクラス覗いた時も、たくさんの人に色々質問されたし、そんなにみんな興味あるんだ。

 それより…


「だって…」

「だって、なに?」


 だって、遥くんに愛してますとか言われて、そんなの嬉しいに決まってるし、なんなら今すぐにでも結婚したいくらいだけど、さすがにそれはまだ早過ぎるということくらい、私でも分かる


「うんうん」

「いや…一人で納得されても困るよ…」

「あれ?なんの話だったっけ?」

「いつからそんな子になったのよ…」

「えへへ」

「…可愛いは正義ってやつか…チッ…」


 夏季ちゃんは「やれやれ」みたいになってるけど、私にとってもう一人のお姉さんのような存在。

 今まで、たくさんアドバイスしてくれて、何回も助けてもらったと思う


「そういえば、夏季ちゃんと彼氏は?」

「え?なにが?」


 そう。夏季ちゃんには彼氏がいる。

 同じ陸上部の男の子で、私も何回か話したことはあるけど、夏季ちゃんのことを大事に想ってるのが伝わってきた


「その…夏季ちゃん…彼氏とは、その…」

「だから、なんの話?」

「えっと…なんて言うか…どこまで…」

「ああ、そういう話?」

「う、うん…」


 いったい彼氏とどこまで進んでるのか…それが気にならないと言えば嘘になる。

 私達は手は今までにたくさん繋いできたけど、その…そこから先はまだ…ほ、ほっぺにちゅっ、ってしかしたことないし…

 あ…思い出したら…


「はぅ…」

「いやいや、どうして聞いてきた方が赤くなって照れてるのよ。普通こっちでしょ」

「そ、そうだけど…」

「あ、分かった。七瀬ちゃん、意外とむっつりなんだね」

「ぇえ!?」

「まあまあ、いいじゃないの」

「よ、よくないよ!!」

「それで、私達だけど…」

「う、うん…」


 あっけらかんと話してくれたけど、今の私にはレベルが段違いで、途中から話の中身があまり頭に入ってこなかった


「うぅ…」

「いや、聞いてきたのは七瀬ちゃんでしょ」

「わ、分かった…」

「それで?明日、どうするの?」

「え?」

「確か浴衣着て花火見に行くんだよね」

「うん」

「浴衣かぁ…想像するだけで…」

「え!ちょ、ちょっと、どういう意味よ!」


 まさか浴衣で、あんなことやこんなこと…


「だって、七瀬ちゃんの浴衣姿とか、絶対可愛いに決まってるもん」


 あ…そういう想像ね…


「え?どうしてスンってなってるの?」

「べ、別に…」

「おやおや?」

「な、なによ…」

「さては…」


 くっ…夏季ちゃんはニヤニヤして顔を覗き込んでくるけど、私は別にそんな…そういうのを想像して期待したとか、そんなんじゃないんだから…


「まあとにかく、楽しんで来なよ」

「うん…」



 そうだ。元々遥くんに誘われた時から楽しみにしてたし、浴衣なんて子供の頃に着させてもらったから、もう随分着たことはなかったと思う。

 そう思えば、純粋に明日が楽しみで仕方なくなる私だった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 早めに解散となったので、遥くんと待ち合わせて一緒に帰ることにした


 並んで歩いていると、なんとなく彼が気まずそうというか、なんというか。少しため息混じりなので、気になった私は聞いてみた


「どうしたの?」

「いや、こうなるのはある程度覚悟してたけど、やっぱりちょっと居心地悪いね」

「ああ、男子の視線?」

「まあ、そだね…」



 確かに私は、あまり自分で言うのもどうかと思うけど、それなりにはみんなの視線を集める存在だったと思うし、モテた時期もあったとは思う。


 でも、私の中では遥くんしかいないし、なんと言っても私の初恋の人なんだもん。

 なんと言われようと、彼以外の人と付き合うとかありえない


 そう思ってても、やっぱり陰で遥くんのことを悪く言うような人はいて、その話は私の耳にも入ってくる。

 そんな時は腹も立つし悲しくなるけど、遥くんはどうなんだろう。もし、私と一緒にいることが辛く感じるようなら、私…


「気にしないでね?そうじゃないと、私…」

「大丈夫。最初のうちだけだよ」

「うん」


 そう言って優しく微笑んでくれる彼に、私はまたドキドキする。

 好きになって、付き合うようになった今でも、また遥くんにキュンとしてしまう



「それより、明日楽しみだね」

「うん!あのね、あのね、浴衣なんだけど、遥くんも着るよね?」

「俺はいつもの服で行こうかと思ってたんだけど。持ってないし、買いに行ったりする時間もなかったし」

「レンタルがあるから問題ないよ」

「そうなの?」

「私もレンタルするし、一緒に着ようよ」


 莉子ちゃんに教えてもらったんだけど、柊くんと一緒にレンタルして浴衣で行くんだ、って話を聞いた時、凄く羨ましく思ったし、私も遥くんと一緒に浴衣着て行きたい




 駅まで向かう帰り道、彼に寄り添い歩く私は幸せで、早く明日にならないかなと、そればかり考えていた





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