第107話 明日の


「ねえねえ、八神くん」

「はい?」

「八神くんってさ、七瀬さんと付き合ってるの?」


 翌日、いつものように教室で小道具的な、たぶんお墓のはりぼてを組み立てていると、矢野さんに訊ねられた


「そうだね」

「やだ!やっぱりそうなんだ!」

「うん、まあ…」

「ええ!いつからなの?私達も気になる!」


 女子だけではなく、男子も何人か俺の周りに集まってきて、みんな興味津々だ


「昨日手繋いで歩いてるの見た、って子が何人もいたんだよ!」

「なんかラブラブだったって!!」

「どうやって落としたんだ?」

「いつから付き合ってるんだよ!」

「うらやま…」

「告白のセリフは?」


 …興味津々過ぎないか?


「あはは…」

「なに愛想笑いしてるのよ!」

「そんなんで誤魔化せると思うなよ!」

「ほら!言っちゃいなよ!!」

「いや、みんな…作業は?」

「そんなのどうでもいい!!」

「そうだよ!そんなの後あと!」


 困ったな…どうしたもんかと考えていると、廊下からうちのクラスをひょっこり覗く彩香の姿が。タイミング悪過ぎだろ


「あ!!七瀬さんだ!」

「こっちが駄目なら七瀬さんに!」

「ちょ、ちょっと待って…!」


 そして彩香の周りにみんな集まって、楽しそうに話を聞いている。

 彩香…変なこと言わないだろうな…



 一通り話を聞いて皆満足したのか、作業に戻って行く。戻ってくんだけど、俺の方をチラ見してはニヤついてる気がする


「あの…彩香、どうしたの?」

「うん。一区切りついたから、こっちはどうかなって思って、見に来ただけだよ」

「…みんなに何か聞かれた?」

「うん。いつから付き合ってるのかとか、どの辺が好きなのかとか、思い出のエピソード教えてとか、嬉しかったことは何かとか、どれくらい好きなのかとか、明日の花火大会のこととか、あと…」

「も、もういいよ!」

「そう?」


 特に恥ずかしがったりしてないし、いたって普通に見えるけど、みんな根掘り葉掘り聞き過ぎじゃないか?

 俺がおそるおそる「何て答えたの…?」と聞くと、


「それは二人の大切な思い出だから、教えてないよ」


 ニコッ、っと笑う彩香が、今の俺には女神に見えた。尊い…


「そ、そうですか…」

「うん」



 少しだけ雑談して、すぐ彩香は自分のクラスに戻って行く


「じゃあね、遥くん」

「うん。また後で」


 さっき途中だったはりぼて作りの作業に戻ると、笑顔の矢野さんに話しかけられる


「遥くんって呼ばれてるんだ」

「え!?」

「いやぁ、七瀬さん可愛過ぎでしょ」

「そ、そうかな…」

「私でもキュンってなりそう」

「そうですか…」

「もう抱き締めたいもん」

「そうですか…」

「八神くんが羨ましい」

「そうですか…」

「なんで引いてるのよ!」

「別にそういうわけじゃないよ…」

「ふふ…八神くん、夜道には気をつけな」

「怖いんだけど…」



 なんだかんだ言って、みんな俺達のことを祝福してくれてるみたいだし、とりあえず安心したのは間違いなかった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 まだ日は高いけど、今日は4時くらいにはお開きになり、俺は彩香と一緒に廊下を歩いて昇降口に向かっていた


 でも、昨日までにはなかった視線を感じる


 それは特に男子生徒からの、羨望というよりも、少し殺気立った視線


 まあ無理もない


 校内随一と言っても過言ではない、高嶺の花の七瀬さんと付き合っているのだ。しかも俺は奏汰みたいなイケメンでもないし、「なんであいつなんだ?」的な感情も理解出来る


「どうしたの?」

「いや、こうなるのはある程度覚悟してたけど、やっぱりちょっと居心地悪いね」

「ああ、男子の視線?」

「まあ、そだね…」

「気にしないでね?そうじゃないと、私…」


 そう。俺がそんなだと、逆に彩香が俺に気を使って、辛い想いをすることになる


「大丈夫。最初のうちだけだよ」

「うん」

「それより、明日楽しみだね」

「うん!あのね、あのね、浴衣なんだけど、遥くんも着るよね?」

「俺はいつもの服で行こうかと思ってたんだけど。持ってないし、買いに行ったりする時間もなかったし」

「レンタルがあるから問題ないよ」

「そうなの?」

「私もレンタルするし、一緒に着ようよ」


 せっかく初めて彩香と花火見に行くんだし、それもアリだな


「それにね」

「うん?」

「莉子ちゃん達もレンタルするんだって。だからお勧めのお店も教えてもらったんだ」

「そうだったんだ」



 こうしていよいよ明日、夏休みを締め括ることになる、花火大会に行くことになるのだった




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