第102話 独占欲(彩香side)


 お盆明けにある模試の前日、私達はこれまでのように、図書館で一緒に勉強していた


 遥くんは順調に成績も上がっているようだし、私も彼と付き合うようになったから成績が落ちた、なんて言われたくないし、お互いにいい感じで高め合っている気がする


 向かいに座り、時たま彼に視線を送るも、遥くんは真剣な表情で問題集に取り組んでいて、私の視線には気付かない


 そんな彼もカッコいいと思うし、好きなんだけど、やっぱり構って欲しいと思うのは許して欲しい


「遥くん。どこか分からないところある?」

「うん。今のとこは大丈夫」

「そう…」


 お盆の間会えなかったわけだけど、久しぶりに会えた時は嬉しかった。

 私は彼の腕に、ここにいる彼の存在を確かめるようにくっついて、遥くんもそんな私に優しく微笑んでくれて


 でも、公園でいきなり抱き締められた時は、本当に驚いた。

 まさか遥くんからそんな…


 恥ずかしいのと嬉しい気持ちが混ざったような、そんな感覚になったんだけど、なんとなく遥くんが悲しそうに見えて


 どうしてそういうふうに思ったのかは分からない。分からないんだけど、なんだか心が切なくなって、愛おしさが溢れそうになった


 抱き締めてくれる彼に応えるように、私も抱き締めて、彼の匂いや温もりを感じると、嬉しくて幸せなのはそうなんだけど、どうしても不安になってしまう


 もし、いつか私達が別れるような時が来たなら、その時、私は彼のことをもう全く好きでもなくて、むしろ嫌っていたりするんだろうか


 同じように、今こうして私のことを想ってくれてる遥くんが、私のことを…顔も見たくないとか、そんなふうに思ってしまうんじゃないのか…

 そう思ったら辛くて、抱き締めるその手には、どうしても力が入ってしまう


 でもそんな私の不安を吹き飛ばすように、「一緒にいようね」と言ってくれる遥くんに、私はいつまでも彼とこうしていたいし、ずっと一緒にいたいと思った





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 翌日、模試が終わった教室では、文化祭の出し物が決まったようで、その発表と係決めが行われた


 遥くん達のクラスも同じだったらしく、C組はお化け屋敷に決まったそう


「へえ。C組はお化け屋敷なんだ」

「うん。A組は脱出ゲームなんでしょ?」

「そうだよ」


 私達のクラスは少し珍しい脱出ゲームの出し物をする事になった。

 アトラクションなんかでもよくあるやつで、色々と考えることは多そうだけど、楽しみでもある


 でも遥くん、お化け屋敷とか大丈夫なの?


「あの時、ちょっと怖がってたくせに…」


 莉子ちゃん達と一緒に遊園地に行った時、少しビクビクしてたのを思い出し、そう言ってみたんだけど、自分がやる分には問題ないとか言ってる。

 でも怖かったのを否定しなかったところが可愛くて、よしよししたくなっちゃう



 それから今月末にある花火大会の話題に


「晴れるといいなあ」

「あ!あとね…その…」

「どうしたの?」


 もちろん今まで、家族や友達と行ったことはあったけど、彼氏と行ったことなんてなかったし、そもそも付き合ったのも遥くんが初めての私。

 そんな初めての、せっかく彼と一緒に行く花火大会なんだから、私だって色々期待しちゃうし、遥くんにも喜んでもらいたい


「浴衣…見たい?」

「見たい」


 食い気味にそう言う遥くんに、本当にそう思ってくれてるんだって思うと、


「そっか。えへへ…」


 嬉しい…好き…あぁ…遥くん…


 私がまたくっつきたくなっていると、


「可愛い過ぎる…」

「へ!?」

「え?」

「もう…遥くんてば…」

「え?」

「あの…声に出てたよ…」

「えっ!!」


 そう思ってくれてるのは嬉しいんだけど、急にそんなこと言われたら、そんなの私だって照れるよ…



「そろそろ行こうか…」

「うん…」


 ドキドキして、頭の中が遥くんのことばっかりになっていたからなのか、テーブルで少し躓きそうになって、「危なっ…」って思ったら、次の瞬間には遥くんにグイッて引き寄せられて、


「ほら、危ないよ」

「はぅ…」

「大丈夫?」

「う、うん…」


「本当にもう…」みたいなふうに、子供に注意するみたいな、そんな優しい目で私のことを見てくれて、私の好きが、また止まらなくなりそうになる



 でも、


 優しくて…私に優し過ぎるくらいの遥くんが…この前感じたように、もしいつかいなくなってしまったら…


 そう考えたら…怖い…


 同時に、彼のことが好き過ぎて、彼の全部を自分のものにしてしまいたいと思う、そんな私が怖い


(私…こんなに独占欲強かったんだ…)




 確かに付き合い始めたのは最近かもしれない。でも、私はずっと彼のことを想って、ずっとこの日が来るのを我慢して待っていた


 だから告白してもらって、こうして付き合えるようになって、今までよりもずっと遥くんのことが好きになってしまっている



 重い女の子だって思われたくはない。

 でも、私がどれくらい遥くんのことが好きなのか、それくらいは…ちゃんと、伝わればいいな…




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