第101話 指折り数えて


 盆明けの模試も終わり、いよいよ文化祭の出し物も決まりそうな気配


 試験後、気怠さが漂う教室の中、クラス委員に選ばれている宮田さんがおもむろに前に出て、「文化祭についてですが」と切り出す


「二年C組はお化け屋敷に決まりました」


 あ…そうなのね…


 その後クラス内での係決めなどが行われ、俺はめでたくゾンビ役に決まった。

 もちろん準備期間は大道具的な役割も割り振られ、まあ、文系で男子も少ないから仕方ない


 でもにわかに活気づくクラスを見ると、やっぱり俺も多少はテンションが上がる


「八神くん、頑張ろうね!」

「そうだね。矢野さんも張り切ってるね」

「そりゃ、二年の出し物が一番気合い入るのは当たり前だよ」

「そっか。そうかもね」


 隣の矢野さんとも普通に仲良くなれたな、なんて思いつつ、今日はここで解散となり、また明日以降、みんなで準備に取りかかることになった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「へえ。C組はお化け屋敷なんだ」

「うん。A組は脱出ゲームなんでしょ?」

「そうだよ」


 学校を出た俺は彩香と落ち合い、夏休み明けの文化祭の話をしていた


 彩香のA組の脱出ゲームは、眼鏡をかけた小学生探偵でお馴染みの、アトラクションなんかでもよくあるやつだけど、結構大変なんじゃないかな


「大変そうだね。大丈夫?」

「それを言うなら遥くんもだよ」

「そうかもね」

「しかもゾンビ役とか、大丈夫なの?」

「まあ…たぶん…」

「あの時、ちょっと怖がってたくせに…」


 みんなで遊園地に行った時の話か


「いや、やる分には問題ない」

「ふふ、怖かったのは否定しないんだ」

「だ、だからそれは…」

「いいよ?私が傍にいてあげるから」

「う、うん…」

「それに、少しくらいそういうところがあった方が、可愛いし」

「うん…」


 楽しそうにそう言われるのはいいんだけど、相変わらず照れてしまう


「でも準備とか本格的になってきたら、こうして一緒にいられる時間も減っちゃうかな」

「かもね。でも、同じ校内にいるわけだし、けっこう会えるんじゃないかな?」

「そっか。ならいいかな」


 そうは言ったものの、俺の考えが甘かったと知るのは、もう少し後の話



「ところで、来週は花火大会だね」

「うん!楽しみ!」

「晴れるといいなあ」

「あ!あとね…その…」

「どうしたの?」

「浴衣…見たい?」

「見たい」


 そんなの見たいに決まってる。即答だよ


「そっか。えへへ…」


 普通にデレてくる彼女が可愛い過ぎる


「可愛い過ぎる…」

「へ!?」

「え?」

「もう…遥くんてば…」

「え?」

「あの…声に出てたよ…」

「えっ!!」


 思ってたのがそのまま出ちゃったのか…

 恥ずい…

 でも、ごにょごにょと恥ずかしそうにする彩花がめちゃくちゃ可愛い…



「そろそろ行こうか…」

「うん…」


 席を立とうとして、俯いていたからなのか、彩香はちょっと躓きそうになって、俺は咄嗟に彼女の腕を掴んで、自分の方に引き寄せた


「ほら、危ないよ」

「はぅ…」

「大丈夫?」

「う、うん…」


 さっきまでより更に顔が赤くなった気がするけど、そんなに焦ったのかな



 その後ブラブラと街を散策し、いつものように彼女と過ごせることが嬉しい


 ほんの数日だったけど、会えなかった日々が俺にとっては考えていた以上に寂しくて、会える日を指折り数えて待ち望んでいた


(彩香も同じように思ってくれてたらいいんだけど…)


 そんなふうに思うと、そう願わずにはいられない俺だった





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