第83話 むずむず(彩香side)



 翌日、補習で学校に行くと何か空気が…


「七瀬ちゃん、おはよ」

「うん、おはよう…」

「あ、気付いた?」

「なんだか…」

「うん。休みに入ってからけっこうくっついたみたいだね」

「ぇえ!?」

「そんなに驚かなくても」

「いや、でも…」


 そう。何組かそういう雰囲気の男女がいて、私もそうかな、って思ったけど、やっぱりそうなんだ…


「七瀬さん、おはよう」

「あ、近藤さん、おはよう」

「やっぱり羨ましいよね」

「そうだね…」


 本当に羨ましい。付き合えればあんなふうに、どこででもくっついてイチャイチャ出来るっていうのに…!


 あ…そんな…別に私は、どこででもイチャイチャしたいとか思ってるわけじゃ…


「七瀬さんは…その様子だとまだなんだ」

「え?まだって何が?」

「C組の八神くんだよね」

「ええ!!」

「…そんな、「なんで知ってるの?」みたいなリアクションされてもね…」

「え…もしかして…」

「七瀬ちゃん…私達みんな知ってるよ」

「えっ!!ど、どうして…」

「あのね…あれで秘密にしてるつもりだったの?あんなの誰が見てもバレバレだよ」

「そ、そうなの…?」

「「うん」」


 そ、そんな…みんなにバレてたなんて…


「だって、八神くんと話してる時、七瀬さん凄く可愛らしくて」

「え!」

「そうそう。私に口止めしてたけど、私から言わなくてもみんな気付いたよ」

「え…」


 は、恥ずかしい…


「でも、たぶんこれからもっと増えるよ」

「どうして?」

「そりゃあ今夏休みだし、それにすぐ文化祭もあるし。みんな彼氏と一緒に回りたいもんね」

「うんうん」


 なるほど…。みんな考えることは同じだ


「でもね、たぶんだけど、傍目に見てもう付き合ってると思われてるよ?」

「え?誰の話?」

「いやいや、七瀬ちゃんと八神くん」

「ちょ、ちょっと…!」

「私も友達から聞かれたことあるよ」

「そうなの?」

「うん。適当に誤魔化しといたけどね」

「ありがと…」

「あの時の、例の手を繋いで歩いてた男の子って、八神くんだったんだよね?」

「うん…」

「はぁ…可愛い…」

「本当それ」

「ちょっと!」


 二人とも「あはは」って笑いながら楽しそうだったけど、 そっか、周りからはもうそういうふうに思われてたんだ




 朝、そんな話をしたからなのか、授業を受けながら、ふと手に持つシャープペンに気がいってしまい、なんだか心がむずむずしてるような気がした





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 授業が終わったあとは、聞いていたように文化祭の演し物の話し合いがあり、私のクラスでは軽食を扱うクレープ屋さん、たこ焼き屋さん、あとは謎解き脱出ゲームなんかの案が出て、それで話を進めることに



 教室でみんなと別れて八神くんと落ち合い、二人でその話をするんだけど、やっぱり準備とかで忙しくなるかな、って思ったら寂しく感じる


 予定を決めようと話してて、八神くんに「お盆の前には海に行こう」と言われ、お盆前の、八神くんの誕生日のことが頭に浮かぶ


 もちろん一緒に海に行くのは楽しみ。そのために頑張って水着も買った。でも、やっぱり彼の誕生日のことも気になってしまう


「あ…」

「え?何かもう予定あった?」

「ううん、そうじゃなくて」

「うん?どうしたの?」

「あのね…八神くんの…誕生日…」

「ああ、そうだね、ちょっと忘れてた」

「私、ちゃんとお祝いしてあげるって言ったもん…」

「う、うん…ありがと…」


 誕生日…

 私の時にしてもらったみたいに、私も八神くんと一緒にいて、そして、彼にも私が感じたように、幸せな気持ちになってほしい


 でも、結局まだ八神くんから、欲しい物リクエストを聞き出せていない。

 普段の感じから、そんなに物欲が強いようでもないし、はっきりと趣味と言えるようなものも、私と同じでなさそう


 二人で海に行くのは天気予報も見て7日にし、それから10日の、誕生日の話に


「ところで、誕生日だけど…」

「うん。その日部活あるから、お昼以降なら大丈夫だよ」

「うん。それでね、何か欲しいものとか…」


 彼は「う~ん…」と悩んでるふうで、なかなか簡単には出て来なさそう。

 まあ、そうだよね。私も何もなかったらそうなると思う


(何か…何かないかな…)


 これまで八神くんと一緒にいて、私が何か気付いたような、感じたことはなかったかと思い返してみる


「ねえ、そういえばそのスマホ…」

「うん」

「カバー付けてないね」

「ああ、そうだね。前にクリアの付けてたけど、なんか汚れて汚くなって、外してそのままだったよ」

「あの…じゃあそれは…?」


 あ…これだったら、もしかしたら、これも二人でお揃いにできるかも…


「うん。それがいい」

「じゃあ、一緒に買いに行こっか」

「ありがとう」



 八神くんもニッコリ笑ってくれて、そんな彼に私も嬉しくなるんだけど、ふいに朝の夏季ちゃん達とのやり取りを思い出し、また心がむずむずする




 このむずむずが何なのかまだ分からないまま、私の高校二年の夏休みは、こうして幕を開けることになる





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