第82話 そわそわ


 翌日、補習は午前中で終わり、軽く昼食を取ったあと、クラスで文化祭の演し物の話し合いが行われた


 よくある喫茶店であったり、お化け屋敷であったり、はたまた占いだったり。

 候補を絞って決を採り、第三希望まで決めてクラス委員が生徒会に提出する


 軽食を扱う喫茶店は、メイド喫茶みたいな競争率の高そうなものじゃなくて、普通のやつなら問題なく通りそうだと言うので、うちのクラスは第一希望にお化け屋敷。第二希望に喫茶店にすることに決まった


 お化け屋敷…出来ればやめて欲しかったけど、まあ自分がやる分には問題ないかな




「そうだったんだ。うちはね、クレープ屋さんと、謎解き脱出ゲーム、あとはたこ焼きか焼きそばみたい」


 謎解き脱出ゲーム…うちではそんな案、出なかったな…


「いちおお盆明けには各クラス、何やるのかは分かるみたいだね」

「うん。決まったらみんなで色々準備するみたい」

「うちもそう言ってた。夏休み、思ってたより学校に来る時間多そうだね」

「うん…」


 七瀬さん、ちょっと残念そう。

 確かに、思ってたよりあまり空いた時間なかったもんね


「えっと…だからお盆の前には海に行こうよ。ね?」

「あ…」

「え?何かもう予定あった?」

「ううん、そうじゃなくて」

「うん?どうしたの?」

「あのね…八神くんの…誕生日…」

「ああ、そうだね、ちょっと忘れてた」

「私、ちゃんとお祝いしてあげるって言ったもん…」

「う、うん…ありがと…」


 ちょっと頬を膨らませて拗ねてる感じがずるいくらい可愛い。本当に困る


「ところで、花火大会は日程決まってるからいいんだけど、いつ海行こうか。七瀬さん、いつがいいとかある?」

「私はいつでもいいんだけど、やっぱりお盆前には行きたいかな」


 そこで補習や部活のない日を選んで、天気も問題なさそうなので、海に行くのは7日に決めた


「ところで、誕生日だけど…」

「うん。その日部活あるから、お昼以降なら大丈夫だよ」

「うん。それでね、何か欲しいものとか…」


 ここで「なんでもいいよ」と答えるのは駄目らしい。少し前に咲希に聞かれてそう答えたら「そう言われるのが一番困るんだよね」とキレられた。 理不尽だ…


 でも、そんなに欲しい物とかないし、俺も七瀬さんにはシャーペンとゲーセンで取ったぬいぐるみしかあげてない。

 んん~…どうしたもんかな…


「ねえ、そういえばそのスマホ…」

「うん」

「カバー付けてないね」

「ああ、そうだね。前にクリアの付けてたけど、なんか汚れて汚くなって、外してそのままだったよ」

「あの…じゃあそれは…?」


 そうだな。それならそんなに高いものでもないし、丁度いいかも。

 それより七瀬さん、よく見てるな


「うん。それがいい」

「じゃあ、一緒に買いに行こっか」

「ありがとう」




 こうして二人である程度の予定を決め、長いようであっという間に終わってしまう八月が始まる





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「暑い…」

「それな…」


 部活で学校に来てるけど、この季節、バドミントンで体育館はキツい。

 うちが強豪校なら毎日朝から、下手したら夕方まで練習だったかもしれない。週に二、三回とかで本当によかった


「それで?明日海行くんだよね」

「うん。ちょっと遠出になるけど、一緒に行ってくるよ」

「なんか俺と莉子よりラブラブだよね」

「な、なんでそうなるんだよ!」

「だってさ、その前には一緒に水着選びに行ってるんでしょ?」

「ま、まあ…」

「その後、誕生日も一緒に出かけて、最後には花火大会も行くんだよね?」

「ま、まあ…」

「………」

「なんだよ…」

「みんなで遊園地行ったのが春休みだったっけ。なんか早いなぁって思って」

「…そうだな」


 言われてみればそうだな。

 七瀬さんと話すようになったのは去年の秋くらいだったけど、本当、一年経たないくらいなのに、よくここまで仲良くなれたな


「まあ、間違いは起こらないと思ってるけど、上手くいくといいね」

「うん、ありがとう」


 奏汰には花火大会で七瀬さんに告白すると伝えていた。

 応援してくれる親友のためにも、そしてたぶん、七瀬さんのためにも…


「でもね、花火大会じゃなくても、そういう雰囲気になったら、言ってみたら?」

「え…」

「うん。うちのクラスでもね、けっこうくっついてるやつら多いんだ。たぶんこの夏休み、二人っきりで遊びに行く機会も多かったんだと思う」


 言われてみれば俺のクラスでも、わざわざ確認したわけじゃないけど、そういう感じの男と女の子はいた気がする


「やっぱりそういうの見ちゃうとさ、どうしても羨ましいとか、なんで私はまだなの?とか。そう思って辛くなるかもよ?」

「な、なるほど…」


 さすが奏汰だ。俺にはそんな発想は全くなかった。もしかしたら七瀬さんも…?


「だから、ね?」

「うん…そうだな…」



 二人で帰りながらそんなことを話してるけど、妙にそわそわしてしまう俺だった





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