第81話 どっちがいい?(彩香side)


 売り場に来ちゃったけど、どうしよう…


 照れくさいのはあるけど、やっぱり八神くんの好きな感じの水着にして、彼に「可愛いよ」とか「綺麗だよ」とか、なんなら「好きだよ」って言ってもらいたい


 そのためなら、ちょっとくらい…あの…

 …やだ…やっぱり恥ずかしいよぉ…



 いちお八神くんに好みを聞いてみる

 

「八神くんはどんなのが好みなの?」

「中学の時のしか持ってないって言ってたけど、それはどんな感じだったの?」

「えっと…学校で使ってたやつで…」


 あ…八神くん、その顔は…想像してる…

 もう、分かるよ…?

 だって、顔赤くしてちょっとニヤけてる


「あ…もう、えっち…」

「え!?俺は何も…!」

「ふーんだ」


 私がそう言うとしょんぼりしちゃって、申し訳なさそうに俯いちゃった


 ふふ。八神くんって素直で分かりやすい。

 そうだよね。男の子なんだから、それくらいは仕方ないよね。それに…


「もう、ごめんってば。八神くんなら私、いいから」

「え?」

「八神くんなら…いいの…」


 …八神くんだったら、私…そういうふうに見られたとしても…


(ああ!何言っちゃってるの、私!)


 少し離れたところにいる店員さんが、なんだか暖かい眼差しでこっち見てる気がするんだけど、逆にそういうの恥ずかしい…


 彼も同じように感じていたのか、話を変えるように口を開いた


「えっと、そうだなぁ…色とかは特に…七瀬さんの好みで選んでもらったらいいと思う」

「うん。じゃあ、デザインは?」

「あまり際どいのとかは嫌かな」

「え…意外…」


 男の子はみんなそういうのが好きなんだって思ってたのに、八神くんは違うの?


「だって、見られたくないじゃん」

「え…」


 え…?どういうこと?


「他の人に、七瀬さんのそんな水着姿なんて、見られたくないよ」

「う、うん…分かった…」


 …そっか…そういうことだったんだ。

 私のこと、大切に思ってくれてるんだ…



 それから目に付いた物を試着したりいてたけど、彼は「ああ、うん」とか「いいんじゃない?」とか、気のない返事ばかり。

 もう!ってなりそうだったけど、よく見ると私の足元ばっかり見てて、恥ずかしがってるみたい。

 それに目も泳いでるし、かなりテンパってるのもなんとなく分かった


 そんなに恥ずかしがられると、こっちまで恥ずかしくなってきちゃう…



 これ以上いじめても仕方ないな、って思った私は、結局ワンピースタイプとビキニタイプの、色の違う二種類のどっちかにしようって決めて、八神くんに聞いてみた


「どう?決めた?」

「…八神くんはどっちがいい?」

「あの…正直に言うけど…」

「うん、その方が嬉しい」

「うん。あのね…どっちも似合うと思うし、でもそのビキニ綺麗で、そっちがいいかなって思うんだけど、やっぱり俺は他の人に見られたくない…かな…」

「そ、そう…」

「うん。だから…そっちのワンピースが俺はいいかな…」

「そっか…分かった…」

「うん」

「じゃあ、ちょっと待ってて」



 お会計に向かいながら考える


 八神くんは他の人に見せたくない、って理由でワンピース選んだってことは、本当は…


 わ、私だってビキニとか恥ずかしいし、こっちがいいかなって思うけど、でも…うぅ…


 その時、たまたま飾られてたマネキンが目に入ってきた。

 そういえば私も緊張してて、こういうのあまり見てなかったけど、ふ~ん、そっか。

 そういうふうにも出来るんだ



 レジでお会計を済ませて彼の元へ


「お待たせ」

「ううん、大丈夫。ワンピースにしたの?」

「…当日までのお楽しみ」


 うん。これなら問題ない…よね?




 今日最大の目的も果たせてほっとした私達は、歩きながら明日以降の予定を決めようとしていたんだけど、


「明日は補習あるね」

「そうだね」

「ああ、なんか授業のあとホームルームやるって言ってた気がする」

「うん、私のクラスも」


 夏休みが終わってすぐ、うちの高校は文化祭が執り行われる。

 去年は一年生だったからそれほど力を入れてた記憶もない。でも、三年生になれば受験を控えるわけだし、休み前にクラスで話した時にも、毎年二年生が一番力を入れてると言っていた。

 言われてみれば、去年見て回った時も、二年のクラスの演し物は手が込んでた気が


「たぶん文化祭の話し合いだよね」

「だろうね」

「それだと、その話し合いが終わってじゃないと決められないね」

「そっか…」


 さすがにお盆は学校に行くようなことにはならないだろうけど、それ以外はどうなるか、明日学校に行ってみないと分からない


 来週には八神くんの誕生日あるし、今日買った水着持って海も行きたいし、この八月の末にある花火大会には絶対一緒に行きたい


「でも、海と花火大会は絶対に行こうね」

「う、うん!」


 あ…八神くんも同じように思ってくれてるんだね。よかった。嬉しい…




 こうやって彼と過ごす時間が幸せで、明日からの夏休みが楽しみで仕方がなかったのだけれど、この夏私達に何が起きるのか、まだ知らない私だった





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