第80話 どっちがいい?
売り場に来たはいいけど、俺にとってここは場違い感が半端ない。
緊張と恥ずかしさで繋いでる手にも力が入ってしまい「手汗とかかいてないかな」と不安になる
隣の七瀬さんも俺と同じなのか、少しぎこちなくなってる気が。それなら
「あの…なんだったらまた今度でも…」
「大丈夫」
「そ、そう…」
駄目だった…
彼女の後ろをついて一緒に見て回る。
俺と同じように、おそらく彼女に付き添って一緒に見てる男の人も何人かはいるけど、まだ俺達は付き合ってないし、それ以前に、今までに彼女がいた経験すら俺にはない。
そんな俺がこうして一緒に見て、しかも選ぶなんてハードルが高過ぎる
「ねえ、こういうのは好き?」
「う、うん…可愛い感じだね」
「八神くんはどんなのが好みなの?」
ファッションもよく分からないし、好みとか聞かれても困ってしまう
「中学の時のしか持ってないって言ってたけど、それはどんな感じだったの?」
「えっと…学校で使ってたやつで…」
あ…スク水ですか…
やば…ちょっと想像しちゃう…
「あ…もう、えっち…」
「え!?俺は何も…!」
「ふーんだ」
見透かされたのは仕方ないとして、たぶん男なら絶対想像するとこだろ。
え?そうだよね?
うぅ…そんなに言うんだったら、最初から連れて来なけりゃ良かったじゃん…
そんな俺を察したのか、クスッと笑うと
「もう、ごめんってば。八神くんなら私、いいから」
「え?」
「八神くんなら…いいの…」
ここは周りに誰もいない、俺達二人だけというわけではない。こちらを微笑ましいものを見る目で見てる店員さんに、七瀬さんと二人で、お互いめちゃくちゃ気まずくなる
「えっと、そうだなぁ…」
少し雰囲気を変えたくて、いちお今の俺の好みというか、希望を伝えることに
「色とかは特に…七瀬さんの好みで選んでもらったらいいと思う」
「うん。じゃあ、デザインは?」
「あまり際どいのとかは嫌かな」
「え…意外…」
地味に失礼だな。いいけど
「だって、見られたくないじゃん」
「え…」
「他の人に、七瀬さんのそんな水着姿なんて、見られたくないよ」
「う、うん…分かった…」
急にもじもじし始めたけど、そんなに変なこと言ったかな
その後、俺は極力周りは見ないように、七瀬さんだけを見るようにしていた。
そうしないと羞恥心で押し潰されそうだったから
でも、試着する度に感想を求められると、嬉しいやら恥ずかしいやら、何より初めて見る七瀬さんのいろんな水着姿で、俺の頭は真っ白になっていた。
どれくらいの時間、ここにいたんだろう。もうそれすら分からなくなっている
結局最終的に、七瀬さんはライムグリーンの可愛らしいワンピースタイプと、綺麗な白のビキニタイプの水着を候補に絞ったようだ
しばらく悩んでる様子だったけど、俺的には、やっぱりビキニよりワンピースがいい。
そりゃビキニの方が見たいけど、彼女にも言ったように、ワンピースの方が色々安心だ
「どう?決めた?」
「…八神くんはどっちがいい?」
もう隠しても仕方ないから、俺は正直に思ってたことをそのまま彼女に伝えた
「うん。だから…そっちのワンピースが俺はいいかな…」
「そっか…分かった…」
「うん」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言って七瀬さんはお会計に
「お待たせ」
「ううん、大丈夫。ワンピースにしたの?」
「…当日までのお楽しみ」
…これ…そういうパターンじゃないよな?
俺は見られるのは嫌だと伝えたし、たぶんそれをスルーするようなことはないよな…?
売り場を後にし、残りの夏休み、二人で予定を立てるため話していると、
「明日は補習あるね」
「そうだね」
うちの高校は普通科で、ある程度進学にも力を入れているため、長期の休みとなる夏休みには赤点対象者でなくとも、普通に登校して授業を受ける日がある。
三年生になるとその日数も増えるようだ
「ああ、なんか授業のあとホームルームやるって言ってた気がする」
「うん、私のクラスも」
「たぶん文化祭の話し合いだよね」
「だろうね」
「それだと、その話し合いが終わってじゃないと決められないね」
「そっか…」
しょんぼりする七瀬さんに、俺も少し辛くなったけど
「でも、海と花火大会は絶対に行こうね」
「う、うん!」
ぱぁっと笑顔になり、手をキュっと握ってくる七瀬さんは可愛いが過ぎる
本当…こんなのもうほとんど付き合ってるようなもんだろ…
でも、やっぱりちゃんと伝えないとな…
俺は花火大会の時にこの想いを彼女に伝えるつもりだったけど、今話しているこの文化祭の準備のせいで、いや、そのおかげで、その時期は少しだけ早まることになる
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