第79話 繋ぎ方(彩香side)


 試験も終わり、あっという間に一学期が終わってしまった。

 夏休みは、私は部活にも入っていないから、模試や補習でたまに学校に行くくらいで、何かがないと八神くんにも会えない


 七月のうちは、八神くんは部活の練習や試合で忙しいらしく、Lineのやり取りだけで、私は会えない日が続いた


「うぅ…」

「彩香、どうしたの?」

「お姉ちゃん…なんでもない…」

「あ、八神くんに会えなくて寂しいんだ」

「…うん」

「あら、からかっても否定しなくなったね」

「ぇえ!?」


 ちょっと悪い笑みを浮かべる姉。

 彼氏持ちになってからは、ことある事にそのラブラブ具合を私に見せてこようとする。

 二人で笑顔でギュッと抱き合ってたり、ほっぺにチュってしてたりする写真を見せられるのが嫌。だって、羨ましいんだもん…


「早く付き合えればいいのにね」

「本当それ…」

「あ、彩香ちゃん?…怖いんだけど…」

「ふふ…お姉ちゃんには分かんないよ…」

「遠い目しないでよ…」


 私だって…私だって八神くんにいっぱいくっつきたい!イチャイチャしたい!

 それに…キ、キスだって…


「はぅ…」

「…楽しそうだけど、妄想は程々にね」

「お、お姉ちゃん!」


 と、とにかく、やっと明日彼に会える。

 私は八神くんの顔を思い出し、嬉しくなるのだった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 約束してた電車の時間に合わせて駅に行くと、八神くんの姿が見えた。

 てっきり前の時のように、ホームで待っててくれてると思ったのに


(あれ?どうしたんだろう)


「おはよう」

「八神くん、おはよう。どうしたの?」

「なにが?」

「だって、外で待っててくれたから」

「ああ…うん…」


 頭を掻きながら、少し照れくさそうに


「七瀬さん、いつも先に来てて待ってくれてたから…」

「え…じゃあ、早めに来て待ってたの?」

「えっと…一本早い電車で来て…あはは…」


 その八神くんの気持ちも嬉しかったけど、「俺が勝手に早く来ただけだし、そうしたかっただけだから」と、少し赤くなって、でも優しい眼差しでそう言ってくれて。

 もう、昨日までの寂しい気持ちなんかより、今、目の前の彼が愛おしい気持ちで一杯で


 私は「ありがとう」って言って、八神くんの手を取り、駅に入って電車に乗ってからも、ずっと手を繋いだままだった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ショッピングモールに着いて、少しブラブラした後、ちょっとまだ早かったけど、先にお昼を食べることにした。

 食べ終わって、飲み物を飲んでるんだけど、私はずっと彼の隣に座っていた。

 だって、その方が近くにいられて、八神くんのことをより感じていられるから


 私は嬉しくて仕方がないんだけど、隣の彼は少し緊張してるみたい


「どうしたの?」

「いや、どうもしないけど、七瀬さんと会うの久しぶりで、それで…」

「それで?なに?ふふ…嬉しい?」


 ちょっと悪戯っぽく聞いてみたら、八神くんは赤くなって黙ってしまう


(もう…可愛いんだから…)


「んん?どうなの?」

「う、嬉しいよ…」

「そう、よかった」


 なんだか無理矢理言わせちゃったみたいだけど、たぶん八神くんも私と同じように思ってくれてると思う。

 だって、君がドキドキしてるの、私にも伝わってるんだからね?


 はぁ、こうしてるだけでも幸せ。

 昨日はお姉ちゃんにからかわれて、色々想像しちゃったけど、今はこれだけでも十分


 そんなふうに思っていたら、ふいに八神くんがテーブルの下で手を繋いできた


(あ…もう…八神くんったら…)


 少し照れちゃったけど、こういうこと一つ一つが全部嬉しい。

 またキュンってされちゃう


 すると、フッと八神くんの温もりが手から離れるのに気付いた


「あ…」


(え…どうして…)


 少し悲しくなって八神くんの方を見ると、彼も私の顔を見てて、その次の瞬間、もう一度手を繋いでくれてる感覚があるけど、こ、これは…


「っ!…」

「駄目だった…?」

「…ううん…駄目じゃないよ…」


 これ…恋人繋ぎ…だよね…


 今まで何回も八神くんと手を繋いでたけど、繋ぎ方が変わるだけで、こんなに違うんだ


 八神くんの温もりはもちろんだけど、今はピッタリ隣にくっついてるから、より彼のドキドキしてるのが伝わってきて、たぶん私のも伝わってると思う


 少し八神くんが手に力を込めて握ってくれると、私もそれに応えて握り返して


 なんなの、これ…

 もう買い物とかどうでもいい

 ずっとこうしていたい

 なんなら、もっと…


(ああ、もう…大好き…)


「そろそろ…行こうか…」

「八神くん…私…」


 見つめられるだけで、もうどうにかなっちゃいそう。

 でも、私達はまだ…これでもまだ、ちゃんとお付き合いしてるわけじゃないんだ。

 だからお姉ちゃん達みたいなことは、これ以上のことは出来ない


「七瀬さん…」

「…うん。行こっか…」


 そう言って席を立とうとしたけど、八神くんは何か考えてるように見える


「八神くん?どうしたの?」

「ううん、なんでもない。行こうか」




 お店を出て、今日来た目的の水着を買うため、売り場に向かう。もちろん、手はさっきまでと同じように、恋人繋ぎで



 とりあえず、水着…どうしよう…





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