第78話 繋ぎ方


 一学期の終業式を終え、夏休みに入る


 七月のうちは、大会の地区予選があったりするので部活メインになるだろうけど、それが終わればたまに学校に行くくらいで、体は空くことになると思う。

 それを七瀬さんに伝え、結局買い物に出かけるのは八月に入ってからになった。

 待ち合わせしてから電車に乗り、今はショッピングモールに着いてお昼を食べ、食後に飲み物を飲んでいる


 隣同士で座ってるんだけど、何気に夏休みに入ってから会うのは初めてで、少し緊張している。だって、隣からなんかいい匂いするんですけど…


「どうしたの?」

「いや、どうもしないけど、七瀬さんと会うの久しぶりで、それで…」

「それで?なに?ふふ…嬉しい?」


 なんだ、どうしたんだ

 そりゃ嬉しいに決まってるけど、そんなこと言われたら…照れる…


 俺が何も言えなくなっていると、顔を覗き込んで「んん?どうなの?」と悪戯っぽく追い打ちをかけられる


「う、嬉しいよ…」

「そう、よかった」


 そう言ってニッコリと微笑む彼女。

 冷静に考えると、こんなの付き合ってる人のやり取りだろ。そもそも、こうして頻繁に一緒にいて、けっこう二人でも出かけて、今もほとんどデートでしょ


 あれ?まだ付き合ってないんだよな?

 告白してないよな?

 でも、今も俺にピッタリくっついてる感じで、触れ合ってる腕から彼女の温もりや柔らかさが伝わってきて…


 ドキドキしてる俺を見て満足そうな七瀬さんに、少し仕返ししてみる


 そっと彼女の手を握ると、ビクッと肩を震わせるのが分かる。

 チラッとその表情を伺うと、俯いて少し赤くなっている


(あ、照れてる)


 可愛い


 でもこれだと今まで通りだし、もう少し…



 俺がスっと手を離すと、「あ…」と名残惜しそうな声がして、七瀬さんの方を向くと少し眉尻を下げ、こちらを見ている


 もちろん、このまま離すつもりのなかった俺はもう一度手を伸ばし、今度は彼女の手を開いて、その指の間に俺の指を通し絡ませる


「っ!…」

「駄目だった…?」

「…ううん…駄目じゃないよ…」


 その…恋人繋ぎというやつなんだけど…

 最初はちょっとした悪戯心だったけど、これは俺にもダメージが…

 繋ぎ方を変えるだけで、こんなに違うものなんだな。

 それにさっきまでより、七瀬さんが更にくっついてる気がするし、心臓の鼓動が彼女に伝わるんじゃないかってくらいドキドキして


 でも手に少し力を込めて握ると、それに応えるようにキュッと彼女も握り返してくれて。

 恥ずかしいとか照れるとかよりも、ただ嬉しくて幸せな気持ちになれた


(もう…好き過ぎるよ…)



 ただ、いつまでもここでこうしてるわけにもいかない。

 なぜなら、今日の目的は彼女の水着…


「そろそろ…行こうか…」

「八神くん…私…」

「七瀬さん…」

「…うん。行こっか…」


 もしかしたら、今がタイミングだったのかもしれない。

 はぁ…もっと上手く空気読めればなぁ…




 そんな俺のために、奏汰はあるアドバイスをしてくれていた


「遥斗と七瀬さんはさ、いきなりほぼ初対面で告白するのと訳が違うんだよ」

「そうなの?」

「うん。俺から見たら、なんでまだ付き合ってないの?って感じ」

「え!?そうなの?!」

「うん」

「そ、そうなんだ…」

「もうね、いつ告白するか決めたら?」

「え…決めるって言われても…」

「そりゃ、思ってもなかったタイミングで、いきなりそういうシチュエーションになっても焦るでしょ?」

「うん。焦ると思う」

「それなら、もっと前から決めとけば、心の準備も出来るでしょ」

「そうかも」

「よっぽど慣れてたらそこでサラッと言えるのかもしれないけど、そう上手く出来ないと思う。それなら、そういうシチュエーションになりそうな時を初めから予想しといて、今日のこのタイミングで絶対言うんだ、みたいに決めてれば?」

「例えば?」

「それは遥斗が決めなよ」

「う…そうだよな…」


 そこで俺が考えたそのタイミング。

 それは、テスト前に七瀬さんと話した時に約束した、花火大会だ。


 そこで、花火を見ながら…


 …ま、まあ、ちょっとくさいかもしれないけど、そういうベタなのしか、俺には思い浮かばなかったんだよな…




「八神くん?どうしたの?」

「ううん、なんでもない。行こうか」


 今はとりあえず目前に差し迫った彼女の水着選び…これをどうするか…



 お店を出て売り場に向かって歩いて行く。

 隣を歩く七瀬さんと俺は、自然にさっきまでと同じように、恋人繋ぎで歩いていた





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