第77話 あと少しだけ(彩香side)


「はぁ…」

「おかえり」

「うん…」

「七瀬ちゃん、お疲れだね」

「どうして急にこんなこと…」

「そうだね。ほとんど毎日みたいに呼び出されてるもんね」


 ここ最近、私は学校で男子に呼びたされては、その…告白のようなものをされているんだけど、入学して数ヶ月はこんな感じだった気もするけど、二学期以降は全く音沙汰もなかったというのに


「たぶん、八神くんのせいだよ」

「なんでよ!」

「いや…怒んないでよ…」

「コホン…で?どうしてそうなるのよ」

「うん。たぶんね、八神くんと一緒にいるところをよく見られてると思うの。なんなら、最近はお昼も一緒してるじゃんね」

「まあ…そうだけど…」

「それでさ、「あの男でも親しく出来るんだったら、俺でも…」って思う輩が増えてるんじゃないかな」

「ちょっと…なによそれ…」


 本当になんなのよ。もしそうなら、どれだけ八神くんのこと見下してるっていうのよ。

 くそぅ……


「はい。イライラしないの」

「そんなのこと…」


 もう。告白してほしい人にはしてもらえなくて、そうじゃない人ばっかりとか…


「それで?誘ったの?」

「ん?なにを?」

「だから、み・ず・ぎ」

「っ!…それは…」

「いい作戦だと思うんだけどな~」


 本当?本当にそう思ってる?

 私にはどう見ても、ただ面白がってるふうにしか見えないんだけど


 でも…


「ね?」

「うぅ…が、頑張る…」


 夏季ちゃんは優しい表情で「恋する乙女は強いんだよ」とか言ってるけど、私…ちゃんと言えるかなぁ…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 それからも何度か手紙が入っていたり、呼び出されるようなこともあったけど、時間が経つとそれもまた減ってくれることを願うことしか、私にはどうすることも出来ない



 そしてそろそろ七月になるかという頃。一学期の期末試験が近付いてきた。

 これまでのように八神くんと勉強してるんだけど、この時期はほとんど毎日彼と一緒に放課後を過ごすことが出来て、何気に私にとっては嬉しい期間だ


 向かいに座って、八神くんの真剣な表情をチラチラ見るのも好きなんだけど、やっぱり隣に座ってる時の方が好き。

 だって、その方が彼の体温を感じられる気がして、凄く近くにいるんだって思えて


 この試験が終わればすぐ夏休みに入る。

 さすがに無理だけど、出来ることなら毎日ずっと一緒にいたいくらい


 夏休みも何処かには遊びに行く話はしてたけど、少し聞いてみようかな…


「テスト終わったら…夏休みだよね」

「そうだね」

「あの…何処行こうか…」

「花火大会とかはどう?」

「あ、うん!行きたい!」


 わぁ、めっちゃ行きたい。早めの時間に待ち合わせしてから、一緒に屋台見て回ったりして、日が暮れてから手繋いで花火見に行って、それからそれから…

 その時の絵を想像するだけで、私は顔が緩みそうになってるのが分かる


「あとはどうしようかな…」


 八神くんはそのあと、そう呟いて少し考え込んでしまう


(そうだ…今…言おう…)


 私は彼に海に行ってみたいとお願いした。

 八神くんは遠出になることを心配してくれてたみたいだけど、問題はそこじゃない


「う、うん…それは平気…」

「そう?それならいいんだけど」

「それでね…」

「うん。他にも何処かある?」

「いや、そうじゃなくて…」


 そう…私…頑張るもん…!


「あの…どうしたの?」

「私ね…」

「うん」

「私…持ってないの…」

「何を?」

「その…中学の時のしか…」

「中学の…?」

「…み、水着…」


 途中まで私の言いたいことが理解出来てなかったみたいだけど、ようやく察したのか、八神くんは顔を赤くして動揺している


「あ、あの、水着って…」

「うん…だから…一緒に…」

「え?一緒に?」

「うぅ…」


 恥ずかしいよぉ…でも…


「な、七瀬さん…?」

「一緒に見に行って…八神くんが、選んでくれないかな…」

「え…」


 ほら!八神くん固まっちゃったじゃない!

 私だってもうここから逃げたいよ!


 でも、ここまで来たら後戻りは出来ない


「ねえ…ダメ…?」

「あ…いや、駄目じゃないけど…」

「じゃあ…いい?」

「う、うん…」


 な、なんとか…言えた…

 頑張った自分を褒めてあげたい


 ちょっと前までの私では、男の子にこんなこと言うなんて、想像も出来ないことだった


 でも八神くんと出会って、そして好きになっちゃってからは、その想いがどんどん止められなくなっている


 本当…いつの間にこんなに好きになっちゃったんだろ。自分でもたまに、ちょっと信じられなくなる時がある


 もう…早く付き合いたい。

 付き合って、いっぱいくっつきたいよぉ…



『待てなくなったら…我慢しなくてもいいんだよ?』


 あの時、莉子ちゃんに言われたこの言葉が脳裏によぎる。でも、


(もうちょっと待ってみる…)




 …けど、八神くん?何ヶ月もは待てないよ


 もう、あと少しだけだからね?



 


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