第73話 屋上へ(彩香side)


 週が開けて月曜日。

 八神くんも体調は良くなったみたいで、学校を休むことなく登校出来るみたい。

 それはLineで教えてもらってたんだけど、そんな何気ないやり取りも、今の私にとっては嬉しくて堪らない


 あの言葉を思い出しては「えへへ…」とニヤけそうになる私


「七瀬ちゃん、おはよ」

「夏季ちゃん、おはよう」

「…顔…ゆるゆるだね…」

「え!?」

「何かいい事でもあった?」


 あったことはあったけど、もちろんここではまだ言えない。ちゃんと告白してもらって、付き合えるようになってからじゃないと…


「そんな…な、何も…ないよ…?」


 嬉しいんだけど、ちょっと恥ずかしいような…それを抑えて答えたつもりだったけど


「…ねえ、いつも思うけど、八神くんのことになると、本当にこっちが辛いくらい可愛いくなるんだけど」

「ちょ、ちょっと!」


 いつもの調子で私をからかう夏季ちゃん。

 まあこれはこれで楽しかったりするから、いいんだけどね


「この週末、一緒に何処か行ってたの?」

「ううん…行ってないよ…」

「…なんか隠してるよね」

「そんなことない…」

「そういえば、C組の友達に聞いたけど、八神くん風邪引いてたらしいね」

「そ、そうだね…」

「じゃあ会えなくて寂しかったんだ」

「う、うん…」

「…ふーん」

「な、なによ…」

「なんていうか…あからさまに何か隠してるのはもういいんだけど、それよりも、こんな堂々と「会えなくて寂しい」とか認められてもねぇ」


 くっ…誘導尋問だよ…


「で?様子見てこなくていいの?」

「そうね。ちょっと覗いてこようかな」


 まだ朝のホームルームまで時間もあるし、私は八神くんのクラスまで行くことにした。




 C組の教室まで来て、こっそり中を覗いてみると、八神くんは隣の席の女の子と仲良さそうに話してて、もちろん、私以外の女子と一切話さないで、なんて言わないけど…


(なによ…デレデレしちゃって…)


 そう思ったら、そのまま彼の元へと歩いていた


「あ!七瀬さん、どうしたの?」

「…ふふ。おはよう」

「そっか、八神くんに用事?八神くん、この週末風邪引いてたんだけど、七瀬さんも知ってた?」

「ええ、知ってたわよ。だって、お見舞いに行ったくらいだもの」

「え?」


 確か矢野さんだったかな。彼女は少し驚いたようで、そのまま何も言えなくなって、私をただ見つめていた。


 よく分かんないけど、うん、満足。

 お見舞いに行って、お粥作って「あ〜ん」もしたし、それに…ふふふ…

 なんだか私達…秘密のカップルみたい…


 八神くんも元気そうだし、少しだけ話してから、私も自分の教室に戻ることにした




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 お昼休みになって、いつものメンバーでお弁当を広げようとしてたけど、なんだか無性に八神くんの顔が見たくなった


 さすがにこんな事は今までにはなかったから、私も自分で自分に驚いてしまう。

「すぐ戻るから、ちょっとだけごめん」と言って教室を出て、廊下を歩いていると、片手には珍しくお弁当箱を持った八神くんを見つけた


 彼は何か考え事でもしてるふうで、少し難しい顔をしていた


 声をかけると、これからお昼を食べるらしいけど、妹さんが作ってくれたと聞いて、いつだったか、八神くんとショッピングモールで腕を組んで歩いていた姿を思い出し、私は少しモヤッとしてしまう


 そのまま彼は行ってしまいそうになったから、どうするのか聞いてみた


「教室で食べないの?」

「ああ…今日は適当な場所で、一人で食べようって思ってたんだ」

「そんなの…」


 もう…一人で食べるくらいなら、私と一緒に食べようよ…


「だめ…」

「え…?」


 八神くんが行ってしまいそうだから、ブレザーの裾を掴んで引き止める。

 せっかく一緒にお昼できる機会なのに、こうして一緒にいたいって思ってるの、私だけなの?好きって言ってくれたのに…


「そんなの…だめ…」

「う、うん?」

「一人で食べるくらいなら…私も一緒に行っていい?」

「え?なんで?」

「え?ダメなの?まさか…」


 まさか…クラスの女の子と…


「え…特に何もないよ?」

「…そう。じゃあ、いいよね」

「…いいけど…。でも、いつも一緒の友達とか、いいの?」

「うん。大丈夫」


 夏季ちゃん達には申し訳ないけど、Lineしておこう。事情を話したら分かってくれると思うし、今度この埋め合わせはしよう


「じゃ…どこ行こうか…」

「私ね、一度行ってみたかった場所があるんだけど、いいかな」

「うん、分かった。それで、何処なの?」

「ふふ…屋上よ」


 そう。一度行ってみたかった。

 というよりも、噂で聞いてはいるんだけど、そこは殆どカップルばっかりで、一人身の人が行くには勇気がいるとか、糖度が高いだとか。でも、とにかく、一度見てみたい


 だって、そういう所に一緒に行ったら、八神くんも、その…もっと意識してくれるかもしれないし、そうしたら、ちゃんと…言ってくれるかも…だし…



「…ねえ…行こ?」

「はい」


 あ、今のお願いの仕方…ちょっとあざとかったかもしれない…

 でも、八神くんも少し赤くなって照れてくれてるし、オッケーも貰えたからいいよね




 八神くんと並んで階段を上り、屋上へ向かいながら、初めて学校で二人で過ごせるお昼の時間が楽しみで、そして嬉しくて仕方のない私だった





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