第72話 屋上へ
体調も良くなり、月曜日にはいつも通りに学校へ登校する。
熱が出たのも金曜の放課後だったから、クラスでも、俺が風邪引いてたなんて知らない人の方が多い。それ以前に、俺に興味なんてないだろう、って思ってた
だから隣の矢野さんに「もう風邪治ったの?」って聞かれた時は、少し驚いた
「うん。この土日寝てたら治ったよ」
「土日ならうちの人もいるもんね」
「土曜はいなかったけど、友達が見舞いに来てくれてね」
言った後で「失敗した」と後悔する
「友達って、柊くん?」
「そ、そうだね。中学の時の友達とか…」
微妙に嘘だけど、ギリセーフだろ
「…なんか動揺してる。もしかして…」
「いや、動揺してないし!」
「めっちゃしてる。怪しい…」
ジト目で見られ、「本当に何もないよ」と言い訳みたいに言ってた俺だけど、ついあの時の、あ〜んを思い出して顔が熱くなる
「なんか顔赤いけど、大丈夫?」
「大丈夫…」
「あはは…」と愛想笑いを浮かべていると、後ろから近付く気配を感じた
(なんか寒いし怖いんだけど…)
おそるおそる振り向こうとしたら、その前に矢野さんが答えを言ってくれた
「あ!七瀬さん、どうしたの?」
「…ふふ。おはよう」
え?七瀬さん?なんでうちのクラスに?
「そっか、八神くんに用事?八神くん、この週末風邪引いてたんだけど、七瀬さんも知ってた?」
そりゃ知ってたよ。お見舞い来てくれたし
でも、なんか久しぶりに清楚モードの七瀬さんを見た気がする。
俺は普段の、素の彼女の方が好きだけど
そう思った瞬間、この前、つい「好きだよ」って言ってしまったのを思い出して恥ずかしくなる。同時に、冷静に考えると…
…もし聞かれてたら…どうしよう…
え!?もしかして、「友達だと思ってたのに。それならもう…」なんて伝えるために、わざわざうちのクラスに来たんじゃ…
これ…終わっちゃったんじゃないか…?
そんなふうに思い始めた時、
「ええ、知ってたわよ。だって、お見舞いに行ったくらいだもの」
「え?」
矢野さんは、ポカンと口を開けて固まる。
なんなら、その話を聞いてた周りの連中も同じように固まっている
そんな矢野さんを見ながら、七瀬さんはなぜか「ふふん」とドヤ顔っぽくなってる
「えっと…七瀬さん?」
「あら、なに?八神くん」
「何か用があったのかな…」
「用と言うほどのことでもないのだけれど、なんとなく」
ん?なんとなく?
「そ、そう?」
「ええ」
え…いったい何しに来たんだろ…
「それじゃ」と言って彼女が教室を出て行くと、
「え?八神くん!七瀬さん、お見舞いに来てくれたの?」
「そうそう、それ、気になる」
「ねえ、教えてよ」
まあ、こうなるよね…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
なんとか彼女達の追求を躱し、昼休みを迎えることに成功した俺は、いつも以上に気配を消して、教室を後にする
「でも、どうしたんだろ」
そう。今朝、たぶん二年になってから初めてうちのクラスに七瀬さんが来たと思うけど、やっぱりみんなが彼女を見る目はどこか特別で、羨望の眼差し、っていうか
「ああいうの、なんか嫌だな…」
七瀬さんも俺達と同じ高校生で、普段は隠してるんだろうけど、みんなと同じように可愛らしいところがたくさんあるのに。
それなのに…なんかモヤッとする
とりあえず教室を出て来たはいいけど、これからどうするか。
今日は病み上がりだということで、咲希が作ってくれたお弁当があるんだけど、さて…どこで食べようかな。
適当に一人で食べれそうな所探して、そこで食べるか、なんて思って歩いてると、
「八神くん」
「え?あ…七瀬さん」
「お昼、もう食べたの?」
「いや、これからだよ」
「今日はお弁当なんだ」
「うん。妹が作ってくれてね」
「ふーん…」
「ん?」
なんとなく、朝話した時と雰囲気が似てる
「それじゃ、俺行くね」
「え?」
「え?なに?どうしたの?」
「教室で食べないの?」
「ああ…今日は適当な場所で、一人で食べようって思ってたんだ」
「そんなの…」
何か言いかけてる感じだけど、目線を逸らして、なんとなく拗ねてるような、そんな気がする。「どうかした?」と聞いても、チラッとこちらを見るだけで、何も話してはくれず、あんまりずっとここにいても注目されそうだし、七瀬さんもお昼食べる時間なくなると思って、俺はもう一度「じゃあ…」と言って行こうとしたら、
「だめ…」
「え…?」
そう言って彼女は、制服の後ろの裾をキュッと掴んでいて、振り返ると
「そんなの…だめ…」
「う、うん?」
「一人で食べるくらいなら…私も一緒に行っていい?」
「え?なんで?」
「え?ダメなの?まさか…」
なぜかジト目で見られてるけど、何か変なこと言ったかな…
「え…特に何もないよ?」
「…そう。じゃあ、いいよね」
「…いいけど…。でも、いつも一緒の友達とか、いいの?」
「うん。大丈夫」
「じゃ…どこ行こうか…」
「私ね、一度行ってみたかった場所があるんだけど、いいかな」
「うん、分かった。それで、何処なの?」
「ふふ…屋上よ」
屋上…だと…?
そこは、いわゆる陽キャと呼ばれる生徒達であったり、はたまたイチャつくカップル達で賑わう聖域だと聞いていた。
そんな屋上に、俺のようなその他大勢の中の一人が、昼休みに足を踏み入れていいんだろうか…
「…ねえ…行こ?」
「はい」
ちょっと顔を赤くして、上目遣いで、まるでおねだりされてるような眼差しで見られたら、そんなの即答するに決まってる
くっ…可愛い過ぎるんだよ…!
でも、俺が七瀬さんと一緒に行って大丈夫かな…と心配する俺だったけど、隣りで嬉しそうな彼女のその笑顔を見ていると、そんなことは、どうでもよくなってくるのだった
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