第70話 夢…?
「め、召し上がれ…」
そう言った瞬間、顔を真っ赤にして七瀬さんは俯いてしまう
可愛すぎか
いや、今はそれより、せっかく作ってくれたお粥を食べないと
「じゃ、じゃあ…いただきます…」
「はい…」
え、なにこれ。
めちゃくちゃ照れるんだけど
鍋の蓋を開けると湯気が上がり、中にはネギと、たぶん生姜を刻んだものが入ってて
「わぁ…美味しそう」
「あのね、温まると思って…」
「うん。ありがとう」
こちらをチラチラと見てくる七瀬さん。
たぶん俺がちゃんと食べれるかなとか、味は大丈夫かなとか、そういうのを心配してるんだと思う。
なんだろう。元々美少女なのは知ってるけど、こんなに可愛かったっけ?
俺は取り皿によそって、お粥を口に運ぶ
「あつっ…」
「あ…ごめん、熱かったよね」
「ううん、大丈夫。ちょっと油断したかな」
「ちょっと貸して」
七瀬さんはお盆ごと自分の方に持っていき、レンゲでお粥を掬うと、
「ふー」
!?
ま、まさか…ふーふーしてくれてる…!
「は、はい……あ〜ん…」
!?
まさか…あ〜んまで…!!
こんなの…もちろん嬉しいけど、「ふー」ってしてる七瀬さんの唇とか見ちゃってドキドキするし、「あ〜ん」って言ったはいいけど、たぶん照れて顔赤くなって、なんなら手もちょっと震えてるし
(可愛い…よく分かんないけど泣きそう…)
たぶんここに俺一人だったら、間違いなく身悶えしてると思う
でもいつまでもこうしてるわけにもいかない。だって、俺が固まって一向に動かないから、七瀬さん、だんだん涙目になってきた
「あ、あ〜ん…」
「はい…あ〜ん…」
とりあえず、顔がめちゃくちゃ熱い。
これは風邪のせいじゃないと思う
その後、たぶんお互い恥ずかし過ぎて、無言で食べさせてもらうことに
「…ご馳走さま…美味しかった…です…」
「お粗末さまでした…」
「………」
「………」
そこから暫く、またお互い俯いて、無言になってしまった。
おそらく、沈黙に耐え切れなく七瀬さんが
「あの!片付けてくるね!」と言って部屋を出て、パタパタと階段を降りていく
俺はベッドに横になり、何も考えないように、少しぼーっとしていた。
そうでもしないと、なんか色々と想像してしまって…
だって、お粥作ってくれただけでも十分過ぎるのに、その上あんなことまで…
くっ…!
今の俺は、嬉しいのと恥ずかしいのと、なんとも言えない気持ちで一杯になっている。
まさか俺に、こんなラブコメみたいな事が起こるなんて、思ってもいなかった
俺は腕を目の上に乗せて、ニヤけそうになるのを我慢して、落ち着こうと必死だった
「あ…八神くん、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫、ありがとう」
「うん」
戻って来た七瀬さんは、ベッドから少し離れた所に座って、俺の方を心配そうに見てくれている。
そんな彼女の顔を見て、俺もさっきまで少し舞い上がってたのが申し訳なくなって、
「ごめんね。でも、本当にありがとう。来てくれて嬉しかったよ」
「はぅ…」
「え? 」
「な、なんでもない…」
七瀬さんは少し顔を赤くして、目線を外して指をごにょごにょしている
「ふふ。そうだ、せっかくだし、少し話そうよ。いい?」
「う、うん」
そこからは二人で、学校で話している時のように、楽しく話せることが出来た。
この前行ったお店良かったから、今度一緒に行こうとか、お勧めの本や漫画を教えあったり、それぞれのクラスの様子や教科の先生の話に、期末テストの時の約束もした。
「あと、夏休みも…どこか行こ?」
「そうだね。約束」
「うん、約束」
嬉しそうな彼女のその笑顔に、俺も安心し切ってしまったのか、
「ふぁ…」
「あ、眠くなってきちゃった?そうだよね。大人しく寝てないと」
「うん。ごめん」
「謝らないで。それじゃあ、八神くんが寝るまで、ここにいるから」
「そんな、悪いよ」
「いいの。こんな時、誰かがいてくれる方が嬉しいものでしょ?」
そうだね。そう思う
七瀬さん…本当に優しいな…
「ほら、いいから」
彼女はそっと俺の手を取ると、優しく包み込むように、手を握ってくれた
手のひらから彼女の温もりを感じ、自然と俺は瞼を閉じ、眠りに落ちた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺は夢を見た
それは七瀬さんと出会ってからの、走馬灯のような夢だった
彼女と話すようになって、クリスマスにみんなでごはんを食べて、バレンタイン、ホワイトデー…奏汰と莉子ちゃんと遊園地にも行った。二人でよくお出かけもした。
最初はツンとして素っ気なかったのに、笑顔を見せてくれるようになって、たまに拗ねて怒ってるような、はたまた慌ててあわあわなってるとことか。
七瀬さんはいろんな表情を見せてくれて、そのどれもが可愛くて。
今日はわざわざこうして家に来てくれて、ごはんまで作ってくれて…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
目が覚めると、七瀬さんもつられてしまったのか、俺が寝る前と同じように、その手はまだ繋がれたまま、ベッドにちょこんと頭を乗せて、彼女も眠っていた
え?夢…?
まだ目が覚めてないのか?
どっちでもいいか。
今こうして七瀬さんといる時間は、夢だろうがなんだろうが、間違いない
少し手を伸ばし、軽く彼女の頭を撫でると擽ったそうにし、「う~ん…」と言って、まだ眠っている様子
可愛いとかそんなんだけじゃなくて、もう、なんていうか、彼女が愛おしい
そう思ったら、自然と俺の口から言葉になって出ていた
「好きだよ…」
それから七瀬さんを起こして、一緒に下に降りて玄関で見送る。
「今日は本当にありがとう」
「ううん。私もありがとう」
「え?」
「それじゃ、お大事にね」
彼女は笑顔でそう言って帰って行ったのだけれど、なぜなのか、ずっと耳だけが真っ赤になったままだった
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