第68話 急展開


 週末の土曜日


 今週は水曜に七瀬さんと雨の中を一緒に帰ったこと以外には、特に何も無く平穏に過ごしたはずなんだけど、


「遥斗。大人しく寝てるのよ」

「ん…」


 翌日はなんともなかったのに、昨日は朝からなんかだるくて、でも熱もなかったし学校に行って、放課後、部活に行こうとして倒れてしまった。

 ちょうど一緒にいた奏汰が、保健室に連れて行ってくれたけど、


「遥斗…この熱は無理だよ…」

「…そうだね…」


 いつの間にかけっこう熱が出てて、奏汰に付き添ってもらって、なんとか家に帰ることが出来たのだった


 そして、


「今日はどうしても外せない約束なのよ」

「うん、知ってるよ。それに、もう子供じゃないんだから、一人で平気だよ」

「何言ってんのよ。まだ高校生のくせに」

「くっ…」

「じゃ、行ってくるわね」

「行ってらっしゃい」


 母さんは昔からの友達と前々から今日会う約束をしてて、父さんは仕事。

 咲希もクラスの子と出かける約束をしてたようで、最初は「そんなの断るし」と言って、俺の看病をしてくれようとしたんだけど、さすがに母さんにも言ったように、俺も小さい子じゃないんだから、そこは「ただの風邪だし、大丈夫だから行って来いよ」と、送り出していた


 まあ、昨日はちょっと焦ったけど、今は多少ぼーっとするなぁ、くらいで、本当に大丈夫だと思う


 あ…眠い…誰もいないし、寝ちゃお…




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ピンポーン♪」と、遠くでチャイムの鳴る音が聞こえる


 宅配便か何かだろうけど、今わざわざ起きて出て行くのも面倒くさいし、そのまま瞼を閉じて寝かけたその時、スマホに着信が。

 確認すると、それは珍しく莉子ちゃんからで、『大丈夫?生きてる?』と


 俺は寝てたから気付いてなかったけど、実はこの前にも何回かメッセージを送ってくれてたようで、たぶん奏汰から聞いて、俺が風邪引いたの知って見に来てくれたようだ


 でも、莉子ちゃんがわざわざ来るなんて珍しい。どうしたんだろ

『ちょっとだけ待ってて』とメッセージを送り、下に降りて玄関を開けると、


「こんにちは。遥斗くん、具合どう?」

「こ、こんにちは…」


 そこには、いつもの感じで俺に声をかけてくる莉子ちゃんと、その隣で少し俯き加減で、もじもじしてる七瀬さんの姿があった



(どういうこと…?)





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 部屋に戻って話を聞くと、莉子ちゃんはやっぱり奏汰から聞いて知ってたようだ。

 まあ、それはいいとして、なんで七瀬さんもいるの?


「遥斗くんが今熱出して寝てるみたい、って言ったら、彩香ちゃんが」

「ええ!?わ、私?!」

「だって、心配してたから」

「ま、まあ…それはそうだけど…」

「だけど遥斗くんちの場所知らないし、それなら連れて行ってあげてもいいよ、って言ったらノリノ…むぐ…」

「ふふ…莉子ちゃん…?」

「ごめん…」


 ちょっと引き攣った笑顔で莉子ちゃんの口を塞ぎ、圧をかけてる七瀬さん。

 そんなふうな彼女を見た事なくて新鮮だったし、莉子ちゃんとも仲良くなったんだな、って思い、俺は嬉しく感じていたけど、やっぱりちょっと怖い…



 それから少し二人と話して、気が付けばお昼になろうとしていた


「俺は大丈夫だから、そろそろ二人ともいいよ?わざわざありがとうね」

「あ、もうこんな時間だね」

「うん…」


 鍵も掛けなきゃなんないし、見送りに行こうとベッドから出ようとしたら、二人は俺に背を向けて何やら話してる


「どうかした?」

「え?な、なんでもないよ…」

「そ、そうそう、なんでもない、うん」

「じゃあ、見送るから…」

「ま、待って!」

「え?」

「や、八神くん…ごはん…どうするの?」

「ん?いや、別になんか適当に食べるよ」

「そ、そんなのダメだよ!」

「え…っと…」

「そうだよ、遥斗くん。ちゃんとしたの食べないと」

「そうかもだけど、たぶんなんかあるよ」


 うん。冷蔵庫開けたら何かしらあるだろうし、なきゃないで、とりあえず飲み物があればそれでいいし。幸い、二人が持って来てくれたスポドリとかゼリーもあるし


「あ、あの…私……作る…」

「……え?」


 ワタシ…ツクル…?


 え?なに?どういうこと?



 まだ風邪のせいで調子が悪いのか、七瀬さんの言った意味が理解し切れない俺


「ねえ、遥斗くん。台所、借りるね?」

「え?」

「だから、ちょっとだけ待ってて」


 莉子ちゃんはそう言って、七瀬さんと一緒に部屋から出て行った




 え…


 私、作る?

 台所、借りる?




 そ、そうか…そういうこと……




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 少しすると二人は戻ってきて、どうやらお粥を作ってくれてたようで、小さいお鍋から湯気が出てるのが見える


「わざわざありがとう」

「う、うん…」

「じゃ、遥斗くん。私帰るから」

「うん、二人とも、ありがとう」

「あ、遥斗くん」

「なに?」


 莉子ちゃんが視線だけでチラッと七瀬さんの方を見たので、俺もそちらを伺うと


「あ、あの…私…」

「うん、彩香ちゃん、もう少し遥斗くんのこと見ててくれるそうだから」

「え?」

「じゃね」

「え?」

「じゃあ彩香ちゃん、よろしくね?」

「うん…」



 え…?



 そのまま莉子ちゃんは部屋を出て行ってしまい、この部屋には、いや、この家には、俺と七瀬さんの二人きりに。

 こんなの、急展開過ぎる。めちゃくちゃドキドキするんだけど…


 七瀬さんは「トテ、トテ」と音がしそうな感じでこちらに来ると、お粥の入った鍋と取り皿、レンゲを乗せたお盆をこちらに差し出して、今にも消え入りそうな声で


「め、召し上がれ…」


 そう言った次の瞬間、顔を真っ赤にして彼女は俯いてしまう




 たぶん七瀬さんも恥ずかしがってるんだろうけど、可愛い過ぎて俺も無理なんだけど、これ、どうすればいい…?





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