第67話 もう少し(彩香side)


「それで?今はどんな感じなの?」

「うん。この前の中間の時も、だいたい一緒にいたよ」

「普通に勉強してただけ?」

「そうだヨ…?」

「…七瀬ちゃん…キョドり過ぎ…」


 だ、だって…隣に座って八神くんの様子を伺いながら、それとなく距離を縮めて「どうしたの?」って顔覗き込むと、恥ずかしそうにバッ、って顔背けるのが可愛いし、あと、向かい側に座ってる時に、たまたまを装って彼の足をつま先でツンツンしたら、ちょっとだけ赤くなってるのも可愛くて…


 …あれ?私…何やってたの…?


「や、やだぁ…!」


 思い出して急に恥ずかしくなり、私は顔を手で覆って俯く


「…本当に…よくこれで我慢できるね…」

「え?どういうこと?」


 指の間からチラッと夏季ちゃんの顔を見ると、少し呆れたような感じで


「いや、八神くんが、だよ」

「だから、八神くんが何よ…」

「だってさぁ、すぐ近くで、こんな可愛いリアクションしまくる七瀬ちゃんがいて、なんで普通でいられるの?」

「しまくってなんかないもん…」

「ほら、八神くんのこと話してる時、喋り方がすでに可愛くなってるし」

「っ!…そ、そんなこと…」


 でも、八神くんも少しは意識してくれてるのかな。そうじゃないとあんな…あんな顔にならないよね?


「でも、あっという間に夏休み来ちゃうんじゃないの?その後すぐ文化祭だよ?」

「うん。そうだよね…」


 私の高校の文化祭は九月の中頃にあって、夏休みが終わるとすぐにその準備期間に入り、クラスによっては、夏休み中に話し合って段取りを進めるところもあるらしい


「文化祭に体育祭、そんで修学旅行。二年の二学期はやること多過ぎだよ」

「あはは…そうだね」

「文化祭、一緒に回りたいんでしょ?」

「そ、それは…まあ、そうなんだけど…」


 はぁ…一緒に見て回ってる絵が…

 あ、やっぱりクレープは食べないと…、あと、お化け屋敷?でもこれは八神くん苦手だったね。でもでも、怖がってると私の手、離さないのよね…そういうのも…


「…また一人で楽しんでるね?」

「はぅ…!」

「まあ、もういいけどね。見てる私も楽しいし、恋してる七瀬ちゃん、可愛いし」

「ちょ…だからそういうの照れるからやめてよ、もう…」


 文化祭かぁ…。でもその前に、夏休み…八神くんの誕生日…

 どうやってお祝いしてあげよう。今度それとなく、聞いてみようかな







 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 今日八神くんは部活がお休みで、放課後時間もあったから、ちょっとずつリサーチしようかなと思ってたんだけど、話してると急に焦ってるような、照れてるような?よく分からない時がある


 そう言えば最近、そんなふうになる事が多い気がする。どうしたんだろう。

 でも、だいたい「大丈夫?」って私が聞くと、彼は「大丈夫」って答える。

 今日もそうだ


「…ねえ、本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫!!」

「そう?」

「あ、あの…そろそろ帰ろうか」

「そうね。なんか曇ってきたし」


 天気予報だと雨が降るとかは言ってなかったけど、今にも降り出しそうな雰囲気が。

 二人で昇降口まで降りて来たけど、もうこの時には、結構な雨の音が聞こえる


(傘…持ってきてないよ…)


「凄い雨だね。七瀬さん、傘ある?」

「えっと…今日はそんな予報でもなかったから持ってなくて…あはは…」

「俺、置き傘あるから…貸してあげるよ」

「え…でも、そしたら八神くんが…」

「走ったらすぐだし、大丈夫だよ」


 八神くんは相変わらず優しい。

 もしかしたら、男の子はみんな女子にはこう言うのかもしれないけど、私の中で八神くんは特別なんだもん


「でも…」

「うん、本当にいいから」


 彼は「じゃあ」と言って行ってしまいそうになったので、私は慌てて手を伸ばし、引き止めた


「待って!」

「ぐぇ…」

「あ…ご、ごめん…」


 本当ごめん…咄嗟に適当に掴んだら…首閉まっちゃったね…


 でも、私のために八神くんが濡れちゃって、そのせいで風邪引いたりしたらやだ…

 だから…


「あのね…一緒に…入って行こうよ…」

「え…」


 それに…八神くんと相合傘……したい…


「でも…」

「ねえ…嫌…?」

「嫌じゃないです」


 つい私は、たぶんおねだりするような感じで彼を見ちゃったかもしれないけど、八神くんは顔が赤くなって、


「くっ…!」

「え?どうしたの?」

「いや、なんでもないよ…」

「じゃ、じゃあ…行こっか…」

「うん…」



 八神くんが置き傘にしてたのは折り畳み傘で、私達二人が入るにはやっぱり小さかったから、私は結構くっついてたんだけど、それでもやっぱり彼は体の右側が、私が濡れないようにしてくれてるから濡れてて、


「あの…濡れてるよ?」

「うん。これくらい大丈夫。平気」

「でも…」

「ほら、本当だから。ね?」


 私を不安がらせないように、こういう時はいつも、その優しい笑顔で微笑んでくれる。

 あぁ…また胸がキュンってなっちゃう…


「もう…」

「え?」

「えいっ!」

「えっ!?」

「っ!…い、いいから…」

「あ、あの…」


 こ、これは…その…いつもドキドキさせられてるお返しなんだから!そうなんだから!


 私はさっきまでよりも体を寄せて、傘を持った八神くんの左腕を両腕で抱き締めた。

 雨が降って少し肌寒く感じてたけど、抱き締めた瞬間、私の体に彼の温もりが伝わってきて、すぐ幸せな気持ちになりかけた。

 そうならなかったのは、私の胸が彼の腕を包み込むようになってることに、気付いてしまったから…


 これ…八神くんも気付いてる…よね…


「あの…本当に大丈夫だから…」

「もう…いいったらいいの!!」

「はい…」



 もう恥ずかしくて顔も熱くなっちゃって、頭も真っ白になりそうだったけど、ちょこっと彼の顔を見上げてみると、八神くんも顔が、耳まで真っ赤になって少し顔逸らしてて



 そんな彼の顔を見ちゃったら、私はさっきまでの恥ずかしさより、八神くんも同じようにドキドキしてくれてるのかな、って思って


 本当はもっと早く歩いて、濡れた八神くんを帰らせてあげないといけないのに、もう少し…もう少しだけこのままで、彼の温もりを感じたかったし、私のこの想いも、君に伝わればいいのに…って、そう願わずにはいられなかった





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る