第63話 期待と緊張(彩香side)


 文房具の品揃えの豊富なお店にやって来た私達。八神くんは初め、ちょっと驚いてたふうだったけど、一緒に見てるうちに彼も笑顔になってくれて、それだけで私も嬉しくなっちゃいそう


 とりあえず、私達はそれぞれで探し始めることにしたんだけど、やっぱり、八神くんとくっつけなくなるのは寂しい


「あと、あんまり離れないでね…」

「…ん?」

「ね?」


 無意識に、彼の服の袖をちょっとだけ摘んでしまって、別にここでお別れするってわけでもないのに、妙に名残惜しくなった私


「は、はい…」

「ん。よろしい」


 でも、八神くんは赤くなって照れてるみたいだし、そんな表情を見れただけで満足しちゃう私は、もう彼のことしか見えてないんだろうなって、自分でも分かってしまう




 二人で候補を出して、私は八神くんが見つけてくれた、シンプルで綺麗な方を選んだ。

 もちろん自分で探してきたのもよかったけど、やっぱりそっちの方が、彼が選んでくれた、っていうだけでも、もう何倍もよく見えてしまって


「いいの見つかったね」

「うん。色違いだけど、見た目シンプルで、長く使えそうだよね」

「うん!」

「じゃあ、当日までは俺が預かっとくね」

「あ!先に使ったら駄目なんだからね?」

「分かってるよ」


 八神くんも喜んでくれてるみたいだし、何より、彼とお揃いだし……はぁ…幸せ…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 そして当日の朝。

 今日は珍しく、朝の早い時間に八神くんからのLineが届いた


『誕生日おめでとう。今日、一旦家に帰ってすぐ行くから、あの時のカフェで待っててもらってもいいかな』


 はぅっ…!


 もう、まず最初の「誕生日おめでとう」だけでテンションが上がる。

 え…どんな顔で送ってくれてるんだろう…

 優しく微笑んでる感じ?

 あ…だ、駄目!そんな顔…朝から無理!




 …一周回って冷静になると、私って恥ずかしい人だな…って思って凹む…


 そのちょっと落ち込んだところで、次の「一旦家に帰って」、そして「カフェで待ってて」という文面で、少し考える


 ん?どうして?

 別に変な品物でもないし、鞄に入らないようなサイズでもないのに、なんでわざわざ一度家に帰るんだろう…



 …こ、これは!!


 今までの八神くんなら、間違いなく普通に学校で渡してくれたと思う。それなのに、わざわざ時間を空けて、しかもカフェで待ち合わせとか…これはもしかして…


『分かった。楽しみにしてるね』



 駄目…もう顔が緩んでどうにもならない…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「それで?」

「えへへ…」

「いや、だから、どうしてそんなに浮かれてるの?しかも、傍目にヤバいくらいデレデレしてるよ?」

「ぅえ!?そ、そうなの?」

「ごめん。それは嘘。盛った」

「な、夏季ちゃん…」


 早川さん…もとい、夏季ちゃんは私をからかってるふうだけど、でも、こんなのしょうがないと思う。だって、


「だって、たぶん…」

「うん。たぶん?」

「やだ、もう…そんなの…」

「…七瀬ちゃん…一旦落ち着こうか…」


 だって、たぶん…八神くん…告白しようとしてるんだよね?

 そんな、誕生日に告白とか…嬉しいけど…私、どうしたらいいの?

 ああ…なんて答えよう…

 キャッ…て、照れちゃうよぉ…


「…なんとなく把握したけど、それは間違いないわけ?」

「え?」

「その浮かれようからだけど、本当に間違いない?早とちりだったりしない?」

「え…それは…」


 そう言われれば、私が勝手にそう思ってるだけで、絶対そうだとは言えない…


「いや、別に落ち込ませようとか、そういうんじゃなくて。あんまり期待してると、もしそうじゃなかった時、その反動が凄いことになるよ?」

「うぅ…」


 でも…でも、じゃあどうして学校じゃなくて、外でなの?もしかして、それが普通なの?もう…分かんないよ…


 項垂れる私を「よしよし」と、頭をポンポンしてくれる夏季ちゃんを、少し恨めしそうに見てしまう


 はぁ…こんなふうに八神くんに慰めてもらえたら…


 …いや、無理無理…おかしくなっちゃう…





 それからしばらくして、とりあえず落ち着いた私は少しだけ期待して、でもやっぱりそれ以上に緊張もして、彼と二人で過ごす放課後に、思いを馳せるのだった





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