第三章 彼と彼女の戦い

第62話 期待と不安


「はいこれ、お土産」

「お、饅頭じゃん。ありがとう」

「クッキーより饅頭が好きとか、遥斗んちは変わってるよね」

「違う。饅頭が好きなんじゃなくて、みんなあんこが好きなんだ」

「ふーん。どっちでもいいよ」


 このゴールデンウィーク、奏汰と莉子ちゃんは日帰り旅行に出かけてて、そのお土産を渡しに家まで来てくれていた


「それで?プレゼント買えた?」

「うん。一緒に見に行って買ったから」

「そっかそっか」

「うん。いろいろありがとな」

「その日はどうするの?」

「え?普通に学校あるし、休み時間か、それか放課後に渡そうと思ってるけど」

「それだけ?」

「え?それだけって?」

「どうせなら、放課後デートでもしたら?」

「ええ!?そんな…ちょ…なんで…」

「今更俺相手に、隠す必要も照れることもないじゃん」

「ま、まあ…そうかもだけど…」


 少しニヤッと笑い、奏汰は「若いっていいね」とか言ってたけど、お前も俺とタメだろうが


「か、考えとくから…」

「うんうん」


 さすが女子に人気で、莉子ちゃんという彼女のいる奏汰だ。帰って行く背中を見送りながら、まだまだ遠いな、なんて思う俺だった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 休み明け、登校して教室に入ると、いつものように女子達は楽しそうに話している。

 俺はこれまたいつものように、特に何も考えないで自分の席へ。鞄を降ろし、中身を出そうとしていると隣の話し声が耳に入る


「それでね、ビックリしちゃって」

「へ~、いいなぁ~」

「そういうの、憧れたりもするよね」

「ね、サプライズってやつでしょ?」


 サプライズかぁ…

 奏汰は放課後デートすれば?みたいに言ってたけど、それだけなのもなぁ


 元はと言えば、シャーペンは七瀬さんから言ってくれたわけで、もちろん欲しい物を貰うのは嬉しいと思うけど、何か俺からも出来ないかな。

 でも、貰って嬉しくない場合もあるし、重く受け取られても引かれちゃうしな…


 この日俺は、これまで七瀬さんと過ごした時間を思い返しながら、何かヒントはないかと頭を悩ませ、六限目の最後の授業が終わったあと、


(そういえば、あの時…)


 それは春休み最終日の、入学式があった日に彼女と出かけた時のこと。


 あの日、最後にゲーセンでプリクラを一緒に撮ったんだけど、プリクラコーナーに行く途中の、UFOキャッチャーの前で、一度だけ足を止めて「可愛い…」って言って眺めてたんだ。

 俺的には「え?本気で言ってるの?」っていう感じだったけど、七瀬さん的には可愛いかったようだ


 そういえばLineのアイコンも…

 そっか、なるほどね





 放課後、俺はとりあえず近場のゲーセンに行って同じ物を探したけど、小さい所だと品数も少ないし、やっぱり…行くしかないか…





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


『誕生日おめでとう。今日、一旦家に帰ってすぐ行くから、あの時のカフェで待っててもらってもいいかな』

『分かった。楽しみにしてるね』


 5月10日の朝、今日はLineのやり取りを済ませてから登校することにした。

 一度家に戻るのは、シャーペンだけなら問題ないけど、さすがにこれは鞄に入らないし、持って行くわけにはいかなかったから


 それよりも、彼女の予定が空いててよかった。もしこれで『今日の放課後は約束があるの。悪いんだけど、休み時間にでも渡してもらえない?』なんて返信が来た日には、たぶん、いや間違いなく、俺はしばらく立ち直れないと思う…




(喜んでくれるといいんだけど…)



 期待と不安を胸に、一先ず俺はいつも通りに家を出て、学校に向かった





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