第60話 ちょっとずつ(彩香side)


 新しいクラスでの学校生活にも慣れ始め、来週には春の連休、ゴールデンウィークに入ることになる。


 自分でも、このクラスでは去年よりも私は普通に過ごせていると感じていて、友達としてみんなと女子トーク…まあ、ほとんどが恋バナなんだけど、そんな話に花を咲かせる日々だった。


「そういえば、前に聞いたんだけど」

「なになに?」

「七瀬さんって、宮沢くんの告白、断ったんだよね?」

「ああ。そんなこともあったわね」

「なんでも、「好きな人がいるから」って言ったらしいじゃん」

「ぅえ!?」

「あ、動揺してるな?」

「いや…あれは、断る口実というか…」

「まあ、宮沢くんイケメンだけど、節操なさ過ぎだし、今じゃ大人しくなったもんよね」

「あはは…そうなんだ…」


 よかった。私の話から逸れた


「それでそれで?七瀬さんの好きな人は?」


 あ…逸れてなかった…


「七瀬ちゃんは一途なのだよ」

「ぇえ!?ちょ、ちょっと…早川さん…」


 私の援護射撃じゃなく、あっち側についた早川さん。

 まあ、気持ちは分かる。そっち側の方が楽しいもんね。


「え~、早川さん知ってるの?」

「残念だけど、教えて貰えないんだ。ね?七瀬ちゃん?」

「うっ…」


 最近、早川さんは私のことを「七瀬ちゃん」と呼ぶようになった。

 いきなり呼ばれた時は少し驚いたけど、この方が距離が近くなった気がして、私も嬉しかった。でも、私はまだ早川さんをちゃん付けでは呼べていない…


「え~、どんな子なの?」

「ね、気になるよね」

「あはは…」


 私も八神くんのことを秘密にしたいわけじゃないと思うけど、なんとなく言い出しにくい。もし、私が彼の名前を口に出したら、間違いなく八神くんの所に行って、いろいろ話すことだろう。


 もしこの前、手を繋いで歩いていたのが八神くんだと知れ渡ると、たぶんだけど、彼に迷惑をかけそうだとも思う。

 八神くんにも「外で手を繋ぐのとかはやめよう」って言われたし、それは理解してるつもりなの。

 でも、そんなの寂しいし、つまらない。

 ここで諦めてたら何も変わらないし、って思った私は、「じゃあ、外じゃないならいいの?」って、ちょっと悪戯っぽく彼に言ってみた。

 八神くんは「ええ!?」と言って真っ赤になっちゃって、全く、可愛いにも程がある。

 ふふふ…そうやって意識して、ドキドキすればいいのよ…


「それで?どうなの?」

「え…」


 あ…まだ終わってなかったのね…


 ここで「キーンコーン…」と都合よく休み時間の終わるチャイムが鳴り、私はなんとか追求を免れることが出来た





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 それから何日か経ったある日、珍しく八神くんから「ちょっと話せないかな」とLineがあり、私はご機嫌になっていた


「珍しいね。どうしたの?」

「う、うん…」


 ん?なんかもじもじして、言いにくそう


「どうしたの?何か相談事?」

「相談と言えば、そうなるかも…」

「うん。どうしたの?」

「あの…ゴールデンウィークとかは、どうするの?」


 え…まさか…まさか、八神くんからデートのお誘い?


「行くよ」

「え?どこに?」

「ごめん…なんでもない…」


 私のバカ!!先走りし過ぎだよ!


「えっと…七瀬さん、ゴールデンウィーク明けたら、すぐ誕生日でしょ?それで…」

「くっ…!」


 ヤバい…こんなの無理。ニヤけちゃう…


 そりゃもちろん、少しくらいは期待もしてたし、たぶん八神くんの性格なら、私の誕生日に何かしらしてくれるとは思ってた。

 でも、いざこうして彼から直接その話を振られると、そんなの嬉しいに決まってる


 私はなんとか冷静を装うために、手をギュッと握り締める


「それで…あの、なんていうか…」


 うんうん、なんていうか?


「えっと…いつも勉強見てもらったり、お世話になってますし、何かできればと思いまして…」


 八神くん…絶対笑わせに来てるでしょ…


「ふふ、もう、そんなの気にしなくていいんだよ?あ、でも…」

「うん、でも?」


 実は気に入ってずっと使ってたシャーペンが壊れて、とりあえず今は家にあった、たぶん百均か何かのを使ってて、新しいの買わなきゃ、って思ってた。でも、どうせなら…


「私ね、新しいシャーペンが欲しいの」

「あ、そうなの?それなら…」

「うん。だから、一緒に見に行ってもらえないかな」

「分かった」

「それでね?」

「うん。なに?」

「せっかくだから、八神くんも買わない?」

「俺も?」

「…うん」

「うん、いいよ」

「あと…あの…」

「うん。どうしたの?」


 うぅ…思ってたより、口に出すのが恥ずかしくなってきた。でも…


「あの…一緒のがいいんだけど…」

「え?一緒の、って?」

「…お揃いの…買おうよ……」

「う、うん…。分かった…か、買おうか…」


 よし!


 お揃いとか、やっぱりちょっと照れくさいのか、八神くんは顔を赤くして目線を外しちゃったけど、でも多少はまた意識してくれたと思う


 いつも身近にあって、よく使う物が八神くんとお揃いとか…そんなの…もう!もう!!


 あ、なんかちょっと私危ない?

 いや、そんなことない、大丈夫大丈夫…




 こうやってちょっとずつ、私のこと意識してもらって、距離を縮めていくんだからね





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