第59話 ちょっとずつ


 二年に上がりすでに二週間ほど経った。

 隣で繰り広げられる女子トークにもだいぶ慣れたと思う。もちろん内容は全然頭に入って来ないけど


 部活の方は、本格的に始まるのはゴールデンウィークが終わってからになるので、今は自由参加で、体を動かしたいやつらが出てる感じ。

 俺も週一くらいでは出ようかと思っていて、そんなことを奏汰とも話していた


「結局、新入生が正式に入る休み明けからになるよね」

「そうだなぁ。それまでは適当に出ようと思ってるよ」

「ゴールデンウィークはどうするの?」


 うちの高校では、この五月の連休中は部活動もなく、たぶん学校も閉められてるはず


「どうしよっかな」

「俺は莉子とどっか行こうって話してる」

「そっか。いいんじゃないか?」


 そういえば、七瀬さんはどうするんだろう


 進級してからも、彼女とはたまにごはんを食べに行ったり、図書館で勉強したり、変わらず仲良く出来てると思ってる。

 さすがにこの前みたいに「外で手を繋ぐのとかはやめよう」という話はした。すると「じゃあ、外じゃないならいいの?」と悪戯っぽく返され、俺はたじろいでしまった


「あはは。七瀬さんは可愛いよね」

「うん、まあ…」

「あれ?顔赤くなってるよ?」


 この前までの春休み、一緒に過ごした時間は本当に楽しかったし、今のように彼女といればいるほど、やっぱり俺は七瀬さんのことが好きなんだなと実感させられる。

 綺麗だからとか、可愛いからとか、そういうのじゃなくて、なんていうか、彼女のいろんな表情や仕草が全部可愛く見えるし、俺といても楽しそうにしてくれて、たまに赤くなったりするのも可愛いし、頬を膨らませて拗ねてる感じの時も可愛いし…


 やば…俺、何考えてんだよ

 隣に奏汰いるのに、思い出しちゃって、めちゃくちゃ恥ずかしいな…


「おや?照れてるね?」

「う、うるさいよ…」

「でもよかった」

「なにがだよ」

「七瀬さんのこと、好きなんだよね?」

「っ!……ま、まあ、そうだと思う…」

「今は無理しなくてもいいと思うけど、いつまでもずっとこのままじゃ、いられなくなるかもしれないよ?」

「…分かってるよ」


 今、俺はおそらく我慢している


 それは、彼女を好きだという想いだと思う。自分でも、どうしてその気持ちを抑えてるのかは分からない。

 付き合う付き合わないとか言っても、最初から両想いでお互い好き同士で、それから付き合うカップルなんてなかなかないと思う。

 それくらいは俺も分かってる。


 まだ高校生だし、今仮に付き合ったからといって、そのまま結婚するわけでもないだろう。そんなに深く考えないで、とりあえずで付き合うのが普通なのかもしれない。

 もちろん相性がよければ、奏汰達みたいに長続きするだろうし、それこそすぐ別れるカップルなんてたくさんいるだろう


「遥斗?」

「え?」

「もし仮に、七瀬さんが遥斗のこと好きなら、それだったら告白するの?」


 なんとなく言い方に棘がある。

 うん。こいつが言いたいことは分かる。

 自分のことを好きになってもらったから告白するとか、それは違うと思う


「今は急がなくてもいいけど、ちゃんと自分と向き合ってからの方がいいと思う。そうじゃないと可哀想だし、失礼だよ」

「…そうだな」


 最後に「うん!」と、いつもの笑顔で言ってくれた奏汰だけど、俺だけじゃなくて、七瀬さんのことも、ちゃんと考えてあげてるんだなっていうのが分かる



 そういえば、七瀬さんの誕生日…ゴールデンウィーク明けの10日だよな。

 何かしてあげたいとは思うけど…


「なあ…ちょっと聞いてもいい?」

「なに?」

「奏汰はさぁ…莉子ちゃんの誕生日とか、プレゼント渡したりしてる…?」

「お!どうしたの?なんかあるの?」

「あると言えばあるような…」


 奏汰は「ふふ…」と微笑んで、


「それとなく話して聞いてみれば?たぶんだけど、その方が喜んでくれるかもよ?」

「…そ、そうかなぁ…」

「うん!ちょっとずつ頑張ろ?」

「わ、分かってるってば…」



 とりあえず奏汰に言われたように、本人に聞いてみようとは思う。


 でも、そのあとこいつに教えてもらった莉子ちゃんへのプレゼントは、俺には恥ずかし過ぎて、全然参考にはならないものだった





「ギューってされると喜んでくれるよ?」

「だからそれはもういいって!!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る