第58話 新学期初日(彩香side)


 新学期初日。いつもの時間に登校すると、普段ならそこまでまだ人もいないのに、今日はけっこうな人数の生徒の姿が。

 みんなクラス分けの掲示板が見たくて、少し早めに来てるのが分かる


 私はA組に早川さんの名前を見つけ、また同じだったことに喜んだんだけど、八神くんの名前はなくて、仕方ないけど、やっぱり少し落ち込んでしまう



 新しい2Aの教室に着いて、少しすると今年クラスメイトになる人達もやって来て、

「よろしくね」「七瀬さんと一緒、楽しみ」なんて、笑顔で声をかけてくれる。

 今年はもっと普通に友達ができるかなぁ…


 そんな事を思いながら話していると、聞きなれた声で「おはよ」と声をかけられる


「早川さん、おはよう」

「また一緒になれたね」

「うん。またよろしく」


 そのままみんなは、私の周りで楽しそうに話している。この光景になんとなく既視感を感じながらも、私もそれに合わせて笑顔で答える


 すると早川さんが小声で


「八神くん、C組だったね」

「あ…うん、そうだね」

「ちょっと、見に行ってみる?」

「え!そんな…」

「まあ、ちょっとだけだよ」

「う、うん…」


 早川さんは「ちょっとだけごめんね」と周りの人達に言ってから、私を教室から連れ出してくれた


「春休みはよく会ってたんだよね?」

「うん。そうなるかな」

「昨日もデート?」

「うん」

「お、否定しなくなったね」

「え!?あ!ち、違う…!」


「さっさと付き合っちゃいなよ~」なんて言われて、嬉し恥ずかしでC組の教室の所まで来て、八神くんの姿を探していると、


「あ、八神くんいたよ」

「え?どこ?あ、本当だ」


 廊下を歩いて来る彼を見つけて、自然と足が八神くんの方へ動こうとしたその時、


「あ…」


 八神くんの隣には女の子がいて、その子と楽しそうに話しながら歩いてて…


「む~…」

「あらら、拗ねちゃった」

「そ、そんなこと…」

「どうする?とりあえず戻る?」

「…うん」

「やれやれ」

「もう!違うってば!」

「はいはい、ごめんって」



 そして早川さんと一緒に教室に戻る途中、


「でもね…聞いたよ?」

「え?なにを?」

「七瀬さんが男の子と手繋いで歩いてた、ってね」

「え…そうなの?」

「うん。相手…八神くんなんだよね?」

「…う、うん」

「はぁ…それでもまだ付き合ってないの?」

「うん…だと思う…」

「ちょっと他の女の子と話してただけで、こんなに嫉妬するくらい好き好きなのに」

「くっ…!」

「それで?どうするの?」

「どうする…って言われても…」

「告白しないの?」

「それは…」

「まあ、やっぱりそれは、男の子からしてもらいたいよね」

「…うん…」

「でも、いつまでもこのままは嫌だよね」

「うん…」

「それに、このまま噂が一人歩きしちゃうと、面倒なことになるかもよ」

「………」

「たぶん、そのことについて聞かれるよ?女の子はそういう話、好きだから」

「うん…だよね」


 教室に戻るとなかなかこういうことも話せなくなるし、でもいつまでも廊下で話してるわけにもいかないので、「適当に誤魔化すよ」と言って、私達は教室の中へ戻る


「あ、どこ行ってたの?」

「そういえば、二年から文理別れたし、やっぱり女子がちょっと多いよね」

「そうかも」


 私達を見つけて、また声をかけてくれる。

 今言われたように、文系と理系に今年から別れる事になったけど、文系の方が女子率は少し高めのようで、私はふと、さっき八神くんが女の子と歩いてきた絵が頭に浮かんで、少し心配になってしまう



「でも、七瀬さん、ついに…だよね?」

「え?えっと…なにが?」

「だって、ちょっと噂になってるよ?」

「うんうん。七瀬さんが…その…」


 みんなちょっと楽しそうで、興味津々といった感じで私に聞いてくるけど、これ、もう早速さっき早川さんに言われたことだよね


 確かに八神くんと…その…昨日デートして、手も繋いでたけど、まだちゃんと付き合ってるわけじゃないし、好きなのはもちろん好きなんだけど…今、なんて答えるのがいいんだろう…


「えっと…あれは…」


 チラッと早川さんの方に視線を送ると、「仕方ないなあ」っていう目で私を見て、


「うん、私もさっき聞いたんだけど、なんか親戚の従兄弟さんらしいよ。春休みでこっち来てて、二人で出かけてたんだって」

「ええ?そうなの?」

「本当に?だって手繋いで寄り添ってたって聞いたんだけど」

「私はもう腕とか組んで、凄いラブラブだったって聞いたよ?」


 いや…話が膨らんでない?


「そう。私もそれ聞いて、ちょっと今確認してたんだけど、違ったみたい」

「そうなんだ~」

「うん。噂って怖いよね。どんどん尾ひれが付いて、話が大きくなるし」


 早川さんは「だよね?」と私に振ってくれたので、「そうなの。困っちゃうよね」と、私もなんとか冷静に返す



 少しすると新しい担任の先生がやって来て、私達も始業式に出るため、体育館へ


 歩きながら「さっきはありがとう」と早川さんに言うと、


「でも、これからこういうことは増えるかもしれないよ」

「うん…そうだね」

「いつまでも上手く誤魔化せるとは思えないし、ったく…もう、だから早く付き合っちゃいなって言ってるのよ」

「っ!…だから、それは…」


 半分からかうようにそう言う彼女に、私は思わず顔を逸らしてしまったんだけど、その時たまたま見た、彼がまた私の知らない別の女の子と話している姿に、どうしてもモヤモヤしてしまうのだった







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