第57話 新学期初日


 新学期初日、クラス分けの張り紙の貼られた掲示板には、たくさんの生徒たちが集まっていて、出遅れた俺は、後ろの方でその賑やかな様子を眺めていた


「遥斗が寝坊するから…」

「う…ごめん…」

「どうしたの?昨日なんかあった?」


 何かあったのかと聞かれれば、もちろんあったと言わざるを得ない。

 昨日は七瀬さんをナンパから助け、その後、一緒に街を散策して、帰りにはゲーセンでプリクラも撮った。

 こういうのって、よくありがちなテンプレなんだろうけど、その二人で撮ったプリクラを見ながら、「えへへ…」と嬉しそうな七瀬さんは本気で可愛かった。

 元々が美少女の七瀬さんだけど、最近、彼女が何をやってても可愛く見える気がする



「あ、二人とも、おはよ」

「本田さん、おはよう」

「おはよう」

「八神くん、C組だったよ。また同じクラスだね。よろしく~」

「そうなんだ。まだ見れてなかったから助かったよ。また一年よろしく」

「柊くんはF組だったよ?」

「助かったぁ。ありがとう」


 本田さんはバド部のキャプテンの妹さんで、一年の時も同じクラスだった女の子。陽キャというわけではないんだけど、明るくて誰とも会話でき、こうして俺にも気さくに話しかけてくれる


「せっかくだし、一緒に行こっか」

「そうだね。じゃ、奏汰、また後で」


 こうして俺は、本田さんと話しながら、二年のC組のクラスに向かった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 二年生のフロアに上がって廊下を歩いて行くと、辺りではみんな楽しそうに話している姿が。俺もそれなりに話せるやつが、クラスに何人かはいてほしいと思ってしまう


 教室の前に着くと、廊下の少し向こうに見慣れた姿を見つけた。七瀬さんと、確かあれは…早川さんだったかな?


 彼女も俺に気が付いたようで、こちらに歩いて来ようとした様子だったのに、頬を膨らませてなんとなく不機嫌そうになり、そのまま早川さんと一緒に行ってしまった


(どうしたんだろう…)


「八神くん。教室入らないの?」

「え?ううん、行こうか」



 幸い、同じバド部の小西もいるし、去年一緒のクラスだった面子も何人かはいるようだった。俺はとりあえず一安心して、黒板に貼られたプリントを見て自分の席に向かう


 席に近付いて気付いたけど、残念なことにこの俺の席の周りは、知らない女子ばかり。

 俺が席に着くとチラッとこちらを見て、お互い簡単に自己紹介だけして、そのまま彼女達はまた自分達の話に戻る。


 これだけ見れば、それくらい普通だろ?って思うだろうけど、今までは隣に奏汰がいたから、俺単体に対して視線を向けられることはなかった。

「あ、いたんだ。お友達もよろしくね」

 なんて言われるのが常。いつも「柊くんのお友達」と呼ばれてたし、みんな俺の名前なんて覚えない。

 だから初対面で「八神くん」と呼ばれることに、ちょっと感動してしまう



 その後、何人か見知った顔を見つけて少し話してから、このクラスの担任もやって来て、早口で自己紹介だけされてから、始業式のため移動する


 席が隣だった矢野さんと少し話しながら、体育館へ向かい歩いて行く


「八神くんって部活やってるの?」

「うん。バドミントン部だよ」

「あ!じゃあ、柊くんと一緒なんだ」

「そうだね」

「へぇ~いいなぁ~」


 俺は男だし、何がいいのかは分からない


「あれ…そういえば…」

「なに?」

「…よく柊くんと一緒にいなかった?」

「まあ友達だし、去年は同じクラスだったからね」

「やっぱりそうだ。どっかで見たことあると思ったんだよね」


「そうなんだ」なんて答えながら、少しだけ虚しくなる。でも、矢野さんはなんとなく俺の顔を覗き込んできて、俺もどうしたのかなって思ったら、


「七瀬さんとも仲いいよね?」

「え?」

「よく話してるとこ、見たよ?」

「ああ…うん、七瀬さんも友達だしね」

「ふ~ん…」


 そして矢野さんは少し小声で、俺にだけ聞こえるように言う


「もしかして…知ってる?」

「え?何を?」

「私も遠目にだったから、よくは見えなかったんだけどね」

「うん。どうしたの?」

「昨日…見ちゃったんだ」

「え…何を?」


 矢野さんは「うふふ」と楽しそうに微笑んだ後、こちらに向き直り言った


「七瀬さん、男の子と手繋いで歩いてたんだ。あれ、間違いなく付き合ってるよね」


 こ、これは…勘違いされてるけど、俺だとは気付いてないんだな…


「八神くん、知らない?」

「うん…そういう話はしないから…」

「そっかぁ。残念」




 昨日はああいうことがあったから、咄嗟に手を繋いでそのまま行ったわけだけど、考えたらこういうふうに、誰かに見られて勘違いさせてしまう可能性もあったんだな


 七瀬さんは俺と違って、みんなに注目される美少女なんだ。変な噂が立ってしまうと、彼女に迷惑をかけることになるだろう


(これからは気を付けないとな)



 また何か機会があれば、それとなく七瀬さんにも伝えておこう。

 そう思って、俺は体育館へと歩いて行った





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