第54話 Wデート[後編](彩香side)


 八神くんと二人になって、もちろん莉子ちゃんに聞いたことは、私は絶対に忘れることなんてないけど、それでも、今はこうして二人で回れることが、嬉しくて仕方ない


 しかも、手…繋いでなんて…


 もうこんなの、デートだよね?

 付き合ってるようなもんだよね?

 そうだよね?ね?


 いや…誰に言ってるんだろ、私…


 と、とりあえず…


「じゃあ、どこ行こうか」

「そうだね。七瀬さんは何乗りたい?」

「お昼食べて直ぐだし、メリーゴーランドでも行こうよ」

「分かった」


 メリーゴーランドとか、本当はいっぱいくっついて乗りたいけど、さすがにまだそれは出来ないかな。普通に隣同士のお馬さんでいいか、なんて思ってたら、


「ほら!行こ!」

「へ…あ…あの…は、はい…」


 急に八神くんから手を引かれて、驚いて彼の顔を見たら笑顔でこっち見てて、そんな無邪気な笑顔…


「あ、ごめん、痛かった?」

「ち、違う…から…」

「そう?」

「そう…だよ……もう…」


 相変わらず八神くんからの、無自覚な私への攻撃は、ダメージが大きい。

 いや、ダメージっていうのは言い方が悪いかな。むしろご褒美?


 いやいや、何考えてるんだろ…

 自分で恥ずかしくなるよ…





 話してたようなルートで、八神くんと二人で回って行く。

 やっぱり、お昼までみたいなみんなでワイワイ回るのも、それはもちろん楽しかったんだけど、こうして二人っきりの方が、楽しい…というよりも、嬉しい。

 あと、意外だったのが、八神くん、お化け屋敷がちょっと苦手みたいだった。ガタン!とか、音がする度にちょっとビクッってなってて。繋いでた手をその度にキュッって握って、それが可愛くて仕方なくて、たぶん私、ずっとニヤけてたと思う。


 それからいくつかアトラクション回って、最後に観覧車に乗ることに。

 列が二種類あって、これって、やっぱり…うん、そういうことだよね…


「これ、何が違うの?片方だけやたら混んでない?」

「あ、八神くん…これはね…あの…」

「なになに?」

「えっとね…普通のと、その…」

「え?なに?」


 そこに書いてるじゃない!もう!!


「…うぅ…もう!」

「え!?な、なに?」

「…だから…こっちの空いてるのは、カップル用のゴンドラなんだよ…」

「カップル用?何が違うの?」

「っ…!…くぅ…もう……」


 まあ、君の後ろにその説明書きはあるんだけど、ずっとこっち見てるから読んでないんだよね。まあ、もういいんだけど


「だから…ほら、あれ、見えるでしょ?あんなふうにゴンドラも少し小さいし…」

「うん、小さいし?」


 なに?なんでこんな恥ずかしい目に遭わされてるんだろ、私


「…ねえ、知ってて聞いてないよね?」

「え?なんでそんなことするのさ」

「…だよね」


 私はその八神くんのすぐ後ろの説明書きを見せながら、仕方なく説明する


 もちろん誰が悪いわけでもないんだけど、どうしてこういうのの説明とかって、恥ずかしいんだろう


「そ、そうなんだ…ごめん、知らなくて…」

「うん…」


 でも話してるうちに、やっぱり、どうしても八神くんと一緒に乗っている自分を想像してしまう


 二人で並んで座ってて、もちろん肩とかも当たるくらいくっついてて、彼の顔を見たら優しく微笑んでて…その…きょ、距離も、近くて…あ……こんなの…だめだよ…

こんな…私…初めてなのに……あ…んぅ…








 …危ない危ない…いろいろと危なかった…



「や、八神くん…こっちにしよっか…」

「そ、そうだよね、そうだよね!」


 私は自分でも分かるくらいに顔が熱くなってしまって、たぶん今、真っ赤になってるんじゃないかな…

 もう八神くんの顔見れないよぉ…



 もちろん普通のゴンドラに乗った私達は、もちろん向かい合わせで座って、私はさっき想像した映像が頭から離れなくて、恥ずかしくてずっと外の景色を見てしまう。すると、


「ふふ…」

「な、なによ…」

「いや、なんでもないよ」

「なんでもないことないでしょ?」

「ないと言えばないし、あると言えばある」

「どっちなのよ!」


 な、なに?なんでそんな微笑ましいものを見るような目で見てるの?

 なんかその余裕のある感じに腹立たしくなってしまう私


「もう…なんなのよ…」


 そのままたぶん不機嫌そうに私は八神くんを見てたと思うけど、彼はそんな私を、ずっと優しい笑顔で見てくれていた。

 でも、降りる直前くらいに、一瞬だけ、その表情を辛そうなものに変えたことを、私は見逃さなかった




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 莉子ちゃん達と合流して、四人で話しながら駅に向かう


 みんな笑顔で、もちろん八神くんもそうだったんだけど、やっぱりどこか私は違和感を覚える。それは何かを我慢しているような、そんな何か


 思い返せば、彼と出会ってから、こういう場面は何度かあった気がする。今までは私の気のせいだって思ってたけど、あの話を聞いた私は、その理由が分かったように思う


 今日、みんなでここに来れてよかった。

 莉子ちゃんに教えてもらって、本当に感謝している。八神くんの友達のこの二人は、本当に八神くんのことを想って、私を誘ってくれたんだと思う



(八神くん、大丈夫だからね…)



 いつか八神くんが、心の底から笑顔になれるように。そしてその時、その笑顔を一番に私が見れるように


 帰り道、そんなことを思いながら、私は彼の背中を見つめて歩いていた






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