第53話 Wデート[後編]
午後からは俺と七瀬さん、二人だけで回ることになったけど、さっき奏汰と話したことや、七瀬さんの様子とか、もちろん気になることはあるけど、でもこうして楽しそうな、本当に、お昼までよりも楽しそうな彼女を見ると、俺も素直に楽しもうと思えてくる
思えば奏汰だけじゃなくて、七瀬さんにも背中を押してもらってるのかもしれない。
どうしてこんな俺と一緒にいてくれるのかは分からないけど、俺も彼女といるのは楽しいし、出来ればこうして高校に通う間だけでも、仲良く出来ればいいな、なんて思って
「じゃあ、どこ行こうか」
「そうだね。七瀬さんは何乗りたい?」
「お昼食べて直ぐだし、メリーゴーランドでも行こうよ」
「分かった」
こうして歩いていても、七瀬さんはずっと俺と手を繋いでいて、たぶん…だけど、傍から見たら、その…カップルみたいに見えるんじゃないのかな…
(勘違いされても、いいのかな…)
でも七瀬さんは楽しそうだし、なんならちょっとテンションも高くなってるのか、気持ち繋いでる手を前後に振るくらいで。
ここで水を差すようなことを言うのも、俺はさすがに違うと思ったから、もうこのことは忘れて、いや、多少は頭の中に残るけど…でも、うん!
「ほら!行こ!」って、俺が繋いでる手に少し力を込めて引っ張ると、
「へ…あ…あの…は、はい…」
「あ、ごめん、痛かった?」
「ち、違う…から…」
「そう?」
「そう…だよ……もう…」
なんとなく気にはなったけど、なんだか恥ずかしそうな七瀬さんを連れてアトラクションを回る。
メリーゴーランドから始まって、コーヒカップ、俺が苦手なお化け屋敷では、彼女は全然平気そうでスンってなってて、少し怖がる俺を隣で楽しそうに見てた気がする。
それからもう一度一緒にジェットコースターに乗り、そろそろ時間も近付いてきた頃、最後に観覧車に乗ろうという話になった
列に並ぼうとしたら、なんだか列が二種類に分かれている
「これ、何が違うの?片方だけやたら混んでない?」
「あ、八神くん…これはね…あの…」
「なになに?」
「えっとね…普通のと、その…」
「え?なに?」
「…うぅ…もう!」
「え!?な、なに?」
「…だから…こっちの空いてるのは、カップル用のゴンドラなんだよ…」
「カップル用?何が違うの?」
「っ…!…くぅ…もう……」
おや?なんだか様子が…
「だから…ほら、あれ、見えるでしょ?あんなふうにゴンドラも少し小さいし…」
「うん、小さいし?」
「…ねえ、知ってて聞いてないよね?」
「え?なんでそんなことするのさ」
「…だよね」
どうやら、ゴンドラは小さくて中も二人がけの小さいベンチしかないようで、まあ「二人でくっついてイチャイチャすればいいよ」みたいな感じらしい
「そ、そうなんだ…ごめん、知らなくて…」
「うん…」
さすがにこれは、いくらなんでも無理だ。たぶん今はお互いテンションも上がってたから手繋いだままだったりしたけど、今話を聞いて現実に戻ったのか、俺は自然に手を離してしまった。
たぶん七瀬さんも同じように思ったのか、何も言わずに顔を赤くして、なんなら耳まで真っ赤になって俯いてしまった
「や、八神くん…こっちにしよっか…」
「そ、そうだよね、そうだよね!」
こうして二人、普通のゴンドラの列へ。
並んでる間、妙にぎこちない空気が流れて、あまり話すことも無く順番が来て、それから中に乗り込む
入ると向かい合わせで座って、お互いに無言で外の景色を見ていた
(このまま一周するのはキツいな…)
さすがにこの気まずい空気のまま、一周するのは辛いものがある
ふと七瀬さんの方を向くと、彼女はまだ外を眺めてて、でも顔はまだ赤いままで、そんな姿が可愛らしく見えて仕方なかった
「ふふ…」
「な、なによ…」
「いや、なんでもないよ」
「なんでもないことないでしょ?」
「ないと言えばないし、あると言えばある」
「どっちなのよ!」
こんなふうに少し機嫌が悪くなってるのも、なんだか子供っぽくて、それはそれで可愛く見える。
あれ?なんでも可愛く見えてないか?
「もう…なんなのよ…」
頬を少し膨らませて、独り言のようにそう呟いて、なんだか恨めしそうにこちらを睨む彼女に、俺は昼間、奏汰に言われた事を思い出していた
(たぶん、俺は…好きなんだろうな)
学校ではいつも少し近寄り難いような雰囲気で、優等生で清楚可憐な美少女で、俺とは関わることのない、それこそ住む世界が違う人なんだ、って思ってた。
でもこうして接するうちに、七瀬さんのいろんな表情が見れて、そのどれも可愛らしく俺には見えて、そんな彼女を俺は…
でも…俺は…
(今のままでいいんだろ…?)
よく見えない、俺の中の何かがそう告げる
帰り道、みんなと一緒に駅に向かって歩いて行く。もちろん、四人全員で楽しく話しながら。
みんなの話に相槌を入れたりしつつ、それでも、俺はあの最後に感じた違和感のようなもののせいなのか、酷く頭が痛むような感覚を覚えたのだった
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