第51話 Wデート[前編]


 新学期を明後日に控えたその日、俺と奏汰、そして莉子ちゃんと七瀬さんは、うちから電車で一時間ほどの場所にある、県内の遊園地に行くことに。


 はじめ、俺達三人で一緒に集まり、その後七瀬さんの最寄り駅で合流し、七瀬さんと初対面の莉子ちゃんが簡単に自己紹介していた


「おはよう。今日は来てくれてありがとうね。私、上城莉子かみしろりこ。この二人とは保育園からの腐れ縁なの。よろしくね、七瀬さん」

「七瀬彩香です。上城さん、よろしくね」


 二人とも笑顔で話してるけど、やっぱり七瀬さんは少し緊張してるみたいだ。そりゃそうだろうな。すると奏汰が小声で言ってきた


「遥斗、七瀬さんのこと、ちゃんと見ててあげなよ」

「うん、それはもちろん」


 俺達三人だけで盛り上がったりしたら、なんか除け者みたいだし、そんなふうにさせるつもりは初めからない


「本当に、ちゃんと、だよ?」

「え?」


 電車の中では、男同士、女の子同士で並んで座り、四人でおしゃべりしながら、楽しく出発できたと思う。

 でも、奏汰が言った「ちゃんと」の意味は、この時の俺にはよく分からなかった




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 遊園地と言っても、テーマパークほどじゃないし、でも県内ではここしかないから、なんだかんだで混んでいる。

 まあ、今日は日曜日だし、春休み最後の週末だし、仕方がないと思う


 午前中は定番のジェットコースターなんかの絶叫マシンを、みんなで並んで乗って行った。

 奏汰と莉子ちゃんが二人並んで前を歩いて、俺と七瀬さんはその後に続く感じだ


 二人は仲良く話しながら、いつものように手を繋いでいるのが見える。普段なら特に何も感じないで、せいぜい「相変わらず仲良いな」くらいしか思わなかったけど、件をどうしても思い出してしまい、ふいに照れくさくなってしまったり


 それを隣の七瀬さんに悟られないよう気を付けながら、冷静を装う俺なんだけど、


「二人、仲良いね」

「え…うん。もういつもあんなだよ」

「…いいな」

「え?」

「い、いや!なんでもない!」

「そ、そう?」

「そ、そうだよ!?」


 ちょっと声が裏返ってるけど、顔も赤くなってるし、大丈夫なの?


「大丈夫?疲れた?」

「へ…」

「なんならちょっと休もうか」

「うぅ…へ、平気だから…」

「本当に?」

「本当に…」


 俺から目線を逸らし、俯く七瀬さんだったけど、ちょうどお昼時にもなるし、あの二人もとりあえず満足したのか、レストランで昼食をとることになった



 入ったのはハンバーガーなんかがメインのお店で、いわゆるレストランよりかはまだ値段もお手頃だ


 お昼までのことを振り返りながら、みんなで楽しくワイワイ食べてたんだけど、食べ終わって「そろそろ行こうか」となった時、奏汰が言う


「じゃあ、お昼からは別々に行こっか」

「「え?」」


 俺と七瀬さんはほぼ同時に声が出た


「ふふ。二人とも息ピッタリね」

「「え!?」」


 それを隣の莉子ちゃんが楽しそうに、少しからかってくる


 うん。まあ、二人だってせっかくなんだから、そういう時間も欲しいだろうし、七瀬さんがいいなら、俺もそれでいいと思った


「じゃ、行く前にちょっといい?」


 そう言われて、彼女達と少し離れた所で、俺は奏汰に連れられて歩いていた。

 立ち止まったところで聞いてみると、


「遥斗。どうだった?」

「なにが?」

「七瀬さんだよ」

「どう、って言われても、楽しんでくれてるんじゃないかな」


 特に辛そうな、悲しそうな感じもなかったと思うんだけど


「なるほど。相変わらずだね」

「だから、なにがだよ」

「遥斗は七瀬さんのこと、本当にどう思ってるの?」

「ど、どうって…それは…」

「友達なの?それとも、好きなの?」


 もちろん、友達だとは思ってた。でも、こうして真っ直ぐ好きなのかと聞かれると、正直自分でもよく分からない。

 確かに好きだと思ってたけど、でも、それは一種の憧れのような、それこそアイドルを推すような、そんな想いかもしれない


「ごめん…本当に、よく分からないんだ」

「遥斗…」


 奏汰はこの前俺に見せた、悲しそうな、辛そうな目をして俯いてしまった。


「ど、どうした?ごめん、俺…」


 こんなふうな奏汰を見たのは初めてかもしれない。いつも明るくて、昔から、いつも俺を励ましてくれるような男だったのに


 …昔から…?

 そういえば、こんなふうな奏汰をいつだったか見たような、見てないような…

 あれ…なんだろ、気持ち悪いな…


「ううん、こっちこそごめん」


 顔を上げた奏汰はいつもの奏汰で、でも少しだけ目が赤くなっている


「じゃあ、待たせても悪いし行こう」

「あ…うん」


 背中を軽く叩かれて、彼女達の方へ向かう



 帰りの集合時間と場所を確認して、それぞれに分かれる時、奏汰は俺の方に近付いて、優しい笑顔で「ゆっくりでいいから」と言い、それから莉子ちゃんと一緒に歩いて行った


 軽く二人に手を振りながら、七瀬さんの方を向くと、彼女も同じように笑顔で手を振ってたんだけど、その目はさっきの奏汰と同じように、少し赤くなっていた


でも、「じゃあ行こ?」と言って俺の手を取り、無邪気な笑顔を見せてくれる彼女に、まだ答えを見つけることが出来ない俺は、その目の赤い理由を聞くことは出来なかった





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