第48話 二回言った(彩香side)


 二人で列に並びながら、貼られたメニューを見てみるけど、トッピングとかいろいろあって悩む。でも、結局一番お勧めの人気のラーメンに決め、順番が来たので中へ


「やっぱり別の頼めばよかったかな」

「いいんじゃない?初めて来たんだし」

「そうだけど、別々のだと、ちょこっとずつ交換もできたかな、って」

「っ!?」


 ん?八神くんはお冷吹き出しそうになってるけど、なんでそんなに焦ってるの?

 私、何かおかしなこと言ったかな


 私が不思議に思って八神くんを見てると、すぐにラーメンを運んで来てくれた


「あ、もう来たよ。やっぱり早いね」


 豚骨醤油味って食べたことなかったし、全然味の想像が出来なかったんだけど、凄く美味しい。チラッと八神くんの方を見ると、彼も美味しそうに食べてて、私も嬉しくなる


「美味しいね」

「うん、美味しいね」


 ああ…こういうの、なんか幸せ…


 ラーメンは美味しいし、何よりこうして八神くんと一緒に同じ物を食べて、同じように美味しいって思えてることが、本当に幸せ


 八神くんは大盛りだったのに、やっぱり私より先に食べ終わっちゃって、けど何も言わないで待ってくれて、そういうのも本当に嬉しかった。

 私がそんなふうに思ってるなんて、たぶん君は思ってもいないんでしょうね




 食べ終わってお店を出て、私達はそこから少し離れた所にあるコーヒーショップに入って話すことにした。

 そう。ここからが本番だ


「そういえば話があったんだよね」

「え、うん、まあそうかな」

「なんか深刻そうだったけど、大丈夫?」

「…うん」


 なんて言って切り出すのがいいんだろう…

 でも、素直に行くしかないよね…?


 こうやって一緒にごはん食べるのは?

 休日に約束して遊びに行くのは?

 あと、ただ会いたくて会うのは?


「う、うん、それも普通なんじゃないの?」

「じゃ、じゃあ…私が…会いたい…って言えば…会ってくれるの…?」

「…っ!」


 私は勇気を振り絞って彼に聞いてみた。

 もちろん恥ずかしいけど、それよりも、もし今ここで八神くんに断られたらどうしようって、そう思ったら不安で一杯になって、涙が零れそうになる。

 彼は顔を赤くして、驚いたみたいでしばらく何も言ってくれなくて


(断られたら…本当に泣いちゃいそう…)


「だめ…?」

「ううん、駄目じゃないよ」


 …あ…あぁ…


「よかったぁ…」


 本当に…本当によかった

 あぁ…もう、私…頑張ってよかった…

 じゃあ、じゃあ…いつでも会える…よね?


「八神くん、春休み、たぶん暇って言ってたよね?」

「え?うん」

「暇で予定がない時は、私と会おっか」

「…え?」

「私と会おっか」


 二回言った。私は二回八神くんに言った。

 もう今更駄目だなんて言わせないんだから


 すると八神くんは「俺なんかでいいの?」とか言って。


 私は八神くんがいいの。

 君じゃないと…嫌なのに…


 少し私が問い詰めると、「ごめん、そうだね」って謝ってくれた。

 そういう素直なところも…好き…




 お店を出ると、なんとなくこのままお別れしそうな雰囲気だったから、もう少しだけ私に付き合ってもらうことにした。

「どうしても一緒に行ってもらいたい場所があったの」って言ったら、八神くんは「行くよ」ってすぐ答えてくれて、もうそれだけでも嬉しくなっちゃう


 本当は、一緒にいられるならどこでもよかったんだけど、春休みのことを考えると、なんとなく本屋さんへ。

 今ここで参考書とか見とけば、一緒に勉強しようって誘い易くなるかな、とか思って。

 そういう本ももちろん見たんだけど、通路にあった漫画の新刊を八神くんが見て、「これ、面白んだよ」って教えてくれた。私も「あの漫画もいいよね」って返して。


 こうして二人で一緒にいるのって、その…これって、放課後デート…ってやつだよね…


 や、やった…私、八神くんと放課後デートしてる……はぁ…



 たぶん一人嬉しくなって、ちょっとテンションも上がっちゃってたら、ふいに右手を引かれて我に返った


 私は知らないうちに車道の方に行ってたみたいで、八神くんの方を見ると、彼は私を、なんだか小さな子供でも見るような、でも、私の目を見つめて、顔を覗き込みながら心配そうに言う


「もう、はしゃぐのはいいけど、危ないから駄目だよ?」

「…は、はい…」

「ん?どうかした?」

「え…あ、あの、いや、なんでも…」


 はぅ…そんな、手…手が…あったかくて、八神くんの優しさが伝わってくるみたいで…


「ほら、別に怒ってないから、行こ?」

「…う、うん…」


 …ダメだ…キュンキュンするのが止まんない…死んじゃう…


「あ!!…ご、ごめん!」


 私はある意味夢見心地だったんだけど、八神くんが謝って、手を離されて現実に引き戻された感覚になった


(あ……もっとぉ…)


 そういえば前にもこんなことがあった気がする。あの時私は、恥ずかしくて逃げ出しちゃったけど、でも、もう…


「べ、別にいいよ…」


 私は彼の左手を、そっと握った


 右手から伝わってくる八神くんの手の温もりに、私はまた幸せな気持ちになる




 そのまま駅まで歩いて行ったけど、もう照れちゃって何も話せなくて。でも私が少しだけ手に力を込めて握ると、それに応えるように握り返してくれて。その度に八神くんを好きな気持ちが、愛おしさが溢れそうになる


 手を繋いでるだけなのに、こんな気持ちになれるなんて、思ってもいなかった


 これから私達、どうなるんだろう

 付き合えたり…するのかな…



 この時の私はただただ幸せで、彼の横顔をチラチラ見ては、嬉しくてニヤけそうになるのを我慢するので精一杯だった





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