第43話 当日


 結局日曜にも七瀬さんから連絡はなく、月曜日を迎えた俺は奏汰と一緒に登校していた


「大丈夫?顔色悪くない?」

「悪いかもな…」

「え?そう返されるとは思ってなかった。遥斗、やるね」


 何をやるのか分かんねぇよ。

 こっちは一人で悶々としてるんだよ!


 そのせいか、提出課題をやり忘れていた俺は、この日の午前中、休み時間は全て課題に費やしていた。


 そして昼休み。スマホを取り出してみるとメッセージの通知が来ていた。朝のうちに七瀬さんがLineしてくれてたみたい


 俺は少しだけおどおどしつつ、メッセージを開いてみると、


『先日はメッセージの返信を怠り、申し訳ありませんでした。どうか許して下さい。そして当日ですが、放課後はいかがでしょうか?場所はあまり人目につかないような所でしたら、私は構いません。よろしくお願いいたします』



 え……固くない?

 業務連絡…的な?



 俺はその場でとりあえず「分かりました」とだけ返信して、少し黄昏そうになっていた





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 迎えた当日。


 昨日、七瀬さんにLineで場所は伝えておいた。その返事も「承知しました」だったけど、もうそれは置いておこう


 こうしてメッセージのやり取りもそこそこで、学校で見かけることがあっても、俺の気のせいだと思いたいけど、なんだか顔を背けて避けられているように感じる


 四時間目の体育の後、なんとなく彼女のクラスの方を見てみると、たまたま窓際にいた七瀬さんが、プイっと姿を隠して



 なんか、一人緊張してドキドキしてた自分が恥ずかしい。本当になんだったんだろう



 たぶん吹っ切れた俺は、軽い気持ちで放課後を迎えることになる





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 約束してた木の下に行くと、七瀬さんは先に着いていたようで、でも、どこかそわそわしたような感じがする


「ごめんね、遅れちゃって」

「くぅ…」


 え?なに?俺、なんかやらかした?


 少し涙目で俺を見る彼女の、その心中を察することは俺には出来ず、謝ってしまう


「わざわざ来てもらってすみません…」

「え?なんで敬語?」


 すると今度は、なぜかジト目で睨まれる


(本当…わけ分かんないんだけど…)


「あの…これなんだけど…」


 俺は先週買って、お店でラッピングしてもらった小さな箱を彼女に差し出す


「ありがとう…」と、おそるおそる受け取ってくれた七瀬さんだけど、たぶん一目見て、お菓子とかじゃないのは分かると思う


「Lineでも書いてたけど、この前ショッピングモールで見つけて、あの…」

「…開けてみてもいい?」

「うん…」


 俺は今更なんだけど、もしかしたら普通にクッキーがよかったんじゃ、なんて思えて、俯いてしまって彼女の表情は見えない。

 カサカサという包装紙を外す音を聞きながらも、ドキドキしてしまう


「これ…」

「あ、あの!えっと…前に一緒に図書館で勉強してた時、たまに髪を耳にかけたりしてたから、そういうのあったらいいかな、とか思って…それで…」


 言ってて気付いたけど、これ…もしかしてキモくない?

 だって、ストレートに言えば、七瀬さんの仕草とか見てて、それで自分の買った物を使って、身につけてもらえたら、みたいな感じでプレゼントした、ってことになるよな?


 あ…これは終わったよ…

 普通にクッキーでよかったじゃんか…



 打ちひしがれる俺は、早くこの場から逃げ出したい気持ちで一杯になっていた。でも、


「八神くん……あ、ありがと…」

「え?」


 少し驚いて顔を上げると、七瀬さんはこれまで見たことない、なんか、へにゃんって感じで微笑んでて、俺の渡した小さなそれを、両手で大事そうに、胸のところでキュっと握りしめている


(これは…喜んで…くれた?)


 少なくとも、引かれたわけではなさそうだ


 よかった、と胸を撫で下ろす俺に、七瀬さんは続けて言う


「これ…私…大事にするね」

「うん。そう言ってもらえると俺も嬉しいよ。ありがとう」


 少し頬を朱色に染めて、恥ずかしそうにそう言う彼女は可愛くて、俺も素直に、今言ったように嬉しくなって、自然と笑顔になってたと思う


「はぁ…」

「え?」

「本当…八神くんはずるい…」

「え?なにが?」

「え!?いや、なんでもないから!」


「いい?なんでもないからね!」と念押しされ、怯む俺に立て続けに七瀬さんは


「…あのね、私、誕生日5月なの。八神くんは?」



 え?なに?急になに?


「お、俺は8月だけど…」

「8月の何日?あ、私は5月の10日」

「あ、俺も10日なんだ。8月10日だよ」

「…そう。分かったわ」

「え?」

「え?」

「え?」

「なに?」

「いや、なんでもないです…」


「なに?」って言われても、普通脈絡もなくこんな話になったら「え?」ってならない?

もしかして俺がおかしいのか?



「それじゃあ、今日は帰るわ」

「あ、はい…」



 そう言って立ち去る彼女は、普段の、初めの頃によく見た清楚可憐な美少女で、その後ろ姿を見送りながら、俺は何が何だか分からなくて、暫く呆然と立ち竦んでしまったけれど、とりあえず七瀬さんは喜んでくれたみたいだし、それでよしとすることにした





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る