第41話 既読スルー


 家に帰るともうすでにいい時間になっていたので、ごはんを食べてから風呂に入る。

 それから部屋に戻ると、スマホにメッセージの通知が。

 見てみると、それは瑠香さんからで『少し話せないかな』とのこと


 なんだろう。

 珍しい、というかこんなの初めてだな


 俺が『大丈夫です』と返信すると、既読が付いて着信が


「もしもし」

『八神くん。急にごめんね』

「いえ、大丈夫です。どうかしましたか?」

『うん、ちょっとね…』


 声が暗いけど、何かあったんだな


『今日…どこか出かけてた?』

「はい。ショッピングモール行ってました」

『あの…誰かと一緒に?』

「ええ。咲希と、あ、妹と一緒でしたよ」

『あ…そっか…そうなんだ…』


 なんか凄く安心したような感じだ。

 本当にどうしたんだろう


「妹の高校合格祝いと、あの…七瀬さんに、バレンタインのチョコのお返しをと思って、探しに行ってたんです」

『…そっか。ありがとう。あの子、ちょっと不安がってたから、またLineでもしてあげてね。あ、出来れば、今すぐとか…』

「あの、何かあったんですか?それに、何を不安がるんです?」


 七瀬さんにお返しするっていうのは、もう貰ったその日のうちに伝えたはずだし、しかも今すぐとか言ってるし


『そうだよね。そう思うよね』

「はい。気にはなりますよ」

『あの…私から聞いたって絶対内緒ね』

「え…は、はい…」


 瑠香さんは『実はね…』と、今日ショッピングモールで俺達を見かけたこと。その時、俺と咲希が腕組んでて、それを見た七瀬さんが勘違いしちゃったこと。そして…


『それでね…彩香が…落ち込んでて…』

「え…?」


 落ち込む…って…どうして?


『あ!あ、あの!ほ、ほら!えっと…たぶんだけど、あの子にとって、八神くんが一番仲の良い男の子だし、彼女だと思ってビックリしちゃったのかな、って!』


 あからさまに動揺してますね。

 俺に何か隠そうとしてるのは間違いない。

 でも、俺もそれを根掘り葉掘り聞くわけにもいかないよな…


「咲希のやつ、今日、やたら気合い入ってたんですよ。家族の俺が見ても、一瞬誰か分かんないくらいめかしこんでて」

『そうだったんだ』

「だから、遠目に見たらそう見えたのかも」


 瑠香さんも納得してくれたようなので、「それじゃあ」と通話を切ろうとしたら、『彩香にLine、よろしくね』と、最後にもう一度念を押された


 俺は少しだけ文面を考え、打ち込み始める


『今日は妹と一緒にショッピングモールに行ってました。髪型とかやたら気合い入ってて、俺が見ても別人みたいだったけど、あいつの高校の合格祝いと、七瀬さんへチョコのお返しもそこで見つけてきました。できれば14日に渡せたらいいなって思ってるんだけど、七瀬さんの都合のいい時で大丈夫です。いつがいいとかありますか?七瀬さんに合わせるので、また教えてください』


 こんなもんか?

 たぶんこんなもんだろ

 そのまま送信、っと



 メッセージを送ったあと、部屋で一人いる俺は少し冷静に考え、さっき瑠香さんと話した内容を、頭の中で箇条書きにしてみる


 ①今日たまたま、俺と咲希を見かけた

 ②その時、俺達は腕を組んで歩いてた

 ③それを見た七瀬さんは彼女と勘違いした

 ④そして落ち込んでいる

 ⑤瑠香さんから聞いたことは内緒

 ⑥瑠香さんは何かを隠している

 ⑦七瀬さんにLineして誤解を解く

 ⑧七瀬さんは何かを不安がっていた





 え?…待って?



 ………これって、そういうこと…?




 たぶん、これは俺の勘違いじゃないよな?


 え!?本当に?…本当に!?





 でも、勘違いの可能性が捨てきれない俺は、ニヤけそうになる顔を軽く叩き、なんとも言えない複雑な気持ちになる



 その勘違いかもしれない、と俺が思った理由は、Lineに既読が付いたのに、返信がなかったからだ


(これ…既読スルー…だよな…)




 この日俺はなかなか寝付けず、悶々と時間を費やすことになるのだった





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