第40話 君のせいで(彩香side)


 土曜日。約束してた通り、お姉ちゃんと一緒にショッピングモールへ


 午前中は新しい服を見てるお姉ちゃんに付き合って、お昼を食べてからは、二人で小物なんかを見て回ることに


「ところで、ホワイトデーの約束は?」

「え…」


 唐突にお姉ちゃんに話を切り出され、返事に困る私。だって…まだ…


「あのね、お返しはくれるって言ってくれたけど、まだ…ちゃんと、きちんとした約束はしてないの」

「あら?そうなの?」


 そう。あのLineのあと、そういう話は彼とはしていない。だから、もしかしたら…

 なんて思ったら、急に不安になってくる


「うん…」

「でも、八神くんなら、きっと連絡してくれるはずよ」

「そう…かな…」

「あ!ほら、これ、可愛くない?」


 お姉ちゃんが見てたのはシルバーのヘアピンで、シンプルで綺麗だったけど、ワンポイントでイルカの刻印も入ってて、一目で私も気に入ってしまった


「うん。綺麗だし可愛いね」

「そうだ。彩香、今日付き合ってもらっちゃったし、気に入ったなら買ったげようか」

「本当に?あ…でも…」

「ん?どうしたの?」

「ううん。なんでもない。今日はいいよ」

「そう?」


 さっき考えてた事がまだ頭から離れてなかった私は、今ここでお姉ちゃんに買ってもらっても、なんだか素直に喜べないと思って、そう言って断り、「ちょっと御手洗行ってくるね」と言って一人になる



 確かに店内は来週のホワイトデー一色で、カップルで来ている人達もよく見かける。

 二人で洋服やアクセサリーなんかを見ている様子が、今は凄く遠い、手の届かない世界のように思えてしまう


 ふと向こうを見れば、仲良く腕を組んで歩いているカップルがいて、私もあんなふうに八神くんと歩きたいな、なんて思ったりして


 楽しそうなその表情が…八神くんに見えて




 ……って……



 え……あれ?……



 あれ……八神くん……だよね……





 髪をハーフアップにした可愛らしい女の子と腕を組んで、楽しそうに歩く八神くん。

 あんな顔、見た事ないかも…

 私といる時に、あんな表情…


 私はあの時の、早川さんの言葉を思い出す


『七瀬さん…もし、もしだよ?もし、八神くんが七瀬さんのことを、本当にただの友達だとしか思ってなくて、もし、仮に彼女ができたりしたらどうするの?』


 あれ…?なんか…目の前がぼやけてきた…


 あ…そっか…私、泣いてるんだ…



 私はその場から、すぐに走って逃げたした





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…彩香…大丈夫?」

「うん…もう帰ろっか」


 あの後、大泣きしてた私を見つけてお姉ちゃんは驚いてて、まあ、それは仕方ないんだけど。

 それで、だいたいのことは説明した


「本当に大丈夫なの?」

「うん。平気」

「いや、そうじゃなくて、八神くんのこと」


 だって、もう仕方ないよ。

 私がぐずぐずしてるうちに、いや、もしかしたら、もうずっと前から、彼女がいたのかもしれない


「でも、おかしいわね…」

「え?なにが?」

「だって、そんなふうじゃなかったのに…」

「お姉ちゃん?だからなにが?」

「へ!?あ、ううん、こっちの話」


 なんだか誤魔化された感があるけど、今の私はそれ以上、お姉ちゃんを問い詰める気にはならなかった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 家に帰ってからも私は上の空で、気が付くと彼からの、あのバレンタインの日に送ってもらったLineを眺めていた


(私…楽しみにしてたのに…)


 そう思うと、また涙が零れそうになる



 そんな時、コンコン、とドアをノックされ、扉を開けるとお姉ちゃんがいて


「彩香…あのね、聞いてほしいの」

「え…なにを…?」

「うん。たぶん、八神くんからLineがあると思うの。それをちゃんと読んであげてほしいの。お願い」

「それって、どういう…」

「それを読んで、それからちゃんと、八神くんとお話してあげて?ね、お願い」


 お姉ちゃんはそれだけ私に伝えると、「おやすみ」と言って、部屋を出て行った




 でもそれから少ししたら、本当に八神くんからLineが来て、今日一緒に歩いてた子が、妹の咲希ちゃんだったと分かった


(よかった…彼女じゃなかった…)


 でも、妹って言われても一度しか会ったこともなかったし、遠目だったから私は全然気付かなかった。

 ていうか、なんで兄妹で腕組んでるの?

 あんなの、誰が見たってカップルだよ!

 なによ、もう…デレデレしてたくせに…

 私だって……いや、なんでもない…


 それよりも、メッセージの後半に書かれていた、チョコのお返しを買いに行ってくれてたんだ、っていうのが分かると、私はすぐ嬉しくなってしまった


 彼は14日のホワイトデーの日に渡してくれるみたいだけど、私の都合のいい時に合わせてくれると言っている


 いったい、彼はどんな物を選んでくれたんだろう。

 もちろん、八神くんから貰ったら、それが何であろうと嬉しいに決まってる。

 たぶん、しばらく机の上に飾って一人ニヤニヤしちゃいそう



 今日、あんなに泣いてさっきまで落ち込んでたのに、彼からのメッセージ一つでこんなにご機嫌になっちゃうなんて。

 君のせいで泣いちゃったんだからね?

 本当にもう…

 …もう…責任取ってもらうんだから…




 私は彼からのメッセージを見返しながら、ホワイトデーのその日を心待ちにして、眠りについた







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