第33話 その夜


 家に帰り玄関の扉を開けると、久しぶりに咲希が待ち構えていた。

 どういう心境の変化なのか、ここ最近はツンツンすることなく、以前のように接してくれるようになっていて、俺も可愛い妹と話すのは嬉しく思っていた


「ただいま」

「おかえり。ちょっと遅かったね。どこか寄り道してた?」

「ああ、まあ、そんなとこかな」

「もしかして、チョコ貰ったりした?」

「友達に貰っただけだよ」

「莉子ちゃん以外に女友達出来たの?」


 こういうところは相変わらずだ


「七瀬さんだよ」

「え!?…ふ~ん。見せてよ」

「なんでお前に見せなきゃなんないんだよ」


 咲希は「いいからいいから」と言って、勝手に鞄を漁り始める。すると、


「あ…これ…」


 さっき七瀬さんに貰った箱を取り出して、まじまじと見ている


「ん?どうした?」

「これ…市販のじゃないよ…」

「え?そうなのか?」

「うん…」

「へ~。そうなんだ」

「ちょっと!それがどういう意味か分かってるの?」

「どういう意味なんだよ」

「…その…手作り…ってことだよ…」

「え!?そうなの?」

「お兄ちゃん…ダメな子だね……」


 我が妹ながら失礼な奴だ。

 でも、それは思いもしてなかったな


「ちゃんとお礼は言ったの?」

「うん。貰った時にありがとう、って」

「でも、食べた感想とか、あとでLineした方がいいよ」

「そ、そうか…」

「うん。そういうの大事」


 なるほど。そういうもんか。

 言われてみれば、確かにその方が七瀬さんも喜ぶかもしれない


「わ、分かったよ…」

「うんうん。それで、お弁当どうだった?」

「え?ああ、美味しかったよ」

「そう。なら良かった。でもね、これも私から聞かれる前に言ってくれた方が、ポイント高かったよ?」

「お前のポイント稼いでも仕方ないだろ」

「お兄ちゃん…そういうとこだよ」


 どういうとこだよ


「あと、これもあげる」

「お、ありがと」

「そのチョコも、いちお私の手作りだから」

「そうなのか?」

「でも、来年からはもうあげない」

「なんでだよ!」

「私も高校生になるし、いつまでもお兄ちゃんにあげてばっかりじゃ、ね」

「まあ、それはそうかも」

「ふふん!だから心して食べるがいいよ!」

「はいはい。ありがとな」



 咲希に貰ったチョコと通学鞄を抱えて部屋に行き、風呂に入ったりなんだかんだしていると、もう夜の九時前くらいになっていた


「そういえば、咲希にも言われたっけ」


 俺は徐ろに七瀬さんに貰ったチョコの箱を開け、中身を見てみると、可愛らしいチョコが五つほど入っている


(これ…生チョコだ…)


 一つ手に取り口に入れると、すっきりした俺にはちょうどいい甘さ加減で、柔らかくてすぐに口の中から消えてしまう。

 自然と二つ目に手を伸ばし、口に入れようとした時、なんだか食べるのが勿体なく思えて指から離してしまった


 こんなに美味しいなんて、たぶん、七瀬さん料理も上手なんだな


(あ!そうだ)


 そう。咲希にもLineでお礼しなよ、とか言われてたな


 俺は今食べて思った事を素直に、あらかたそのままメッセージで伝えた。

 すると、すぐに既読が付いたんだけど、返事は返って来なかった。


(あれ?なんかおかしな事書いたかな…)


 とりあえず、俺は残りのチョコを冷蔵庫に入れに行き、部屋に戻って来ると返事が来ていた。開いて読んでみると一文だけ


『生チョコなので早めに食べてください』


 …なんか、うん、いいんだけど、なんか、色々書いた俺が恥ずかしいな…

 だって一人舞い上がってるみたいじゃん!




 その夜、俺は一人で恥ずかしくなって、なかなか寝付くことが出来なかった






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