第32話 友達だから(彩香side)
八神くんにメッセージを送ったのはいいけど、学校で渡すのが恥ずかしかった私は、以前お姉ちゃんと彼を引き会わせたカフェで待ち合わせすることに
(こんな…待ち合わせとか…デ、デート!?
そんな…もう…やだぁ…)
「…楽しそうだね」
「え!?」
ジト目の早川さんに動揺する私…
でも「頑張ってね」と笑顔で言ってくれて、私と彼との間を取り持ってくれた彼女には、もう感謝しかない
「…うん。ありがとう」
今日はまだ終わってない。
そう。勝負は、これからだ…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
先に私が着いたようなので、約束してた通りに先に中に入って待つことに。
なんでも「外で待つのは寒いし、風邪ひいたら困るから」とのこと。
もう!ずるい!優し過ぎるんですけど!
少しニヤけそうになるのを我慢して、私は席で彼を待っていた。
五分も経たないうちに八神くんはやって来て
私に気付くと、軽く手を挙げて
「ごめんね、待った?」
「はぅ…」
(なにこれ、ヤバい…お約束のやつだ…)
これ、駅前なんかでデートの待ち合わせしてて、それで少し遅れて来た彼氏が言うセリフだよね?
こういうの憧れるんだけど…!
「あの…七瀬さん?」
「は、はい…」
「えっと、あの、変な誤解しててごめんね。あと、今朝、何か話があったんだよね?」
私の妄想を他所に、彼は話を進めてくる。
いや、まあ、いいんだけどね…
「いや、別にそういうわけじゃないの…」
「そうだったんだ」
「そうそう、そうなの!」
そういうわけじゃないわけないよね?私?
それから八神くんとお話してたけど、彼は優しい眼差しで私を見てくれて、私の色眼鏡なのは分かってるけど、彼の表情や仕草が何もかもカッコよくて。
もう私はずっとドキドキしてたんだけど、でもこの時間が幸せで、気付いたら、あっという間に一時間くらい過ぎてたと思う
でも途中、一瞬だけ彼の表情が曇った時があった。
何か心配事でもあるのかな。
私に出来る事ならしてあげるのに…
外も暗くなり始めた頃、八神くんに「そろそろ出ようか」と言われ、まだまだ一緒にいたかったけど、仕方なくお店を出ることに
前と同じように、私を駅まで送ってくれる八神くんの、少しだけ後ろを歩く私。
駅に着いたら、もうそこで今日は終わっちゃうのに…。どうしても今日、これを渡さないといけないのに……
そう、それは分かってるんだけど…なかなか勇気が出ない
でも、
もう駅が向こうに見え始めた時に、ここで渡さないと後悔する、って思ったら、
「あの…」
「あ…え?七瀬さん?」
「あの…」
私は八神くんの制服の袖を摘んでいた。
たぶん無意識に手が伸びてたと思う
(頑張れ!頑張れ私!!)
「あの…あの!」
「は、はい?」
「これ!あげるから!」
「…は、はい」
急にチョコの箱を差し出されて、驚いてる様子の八神くん
(ほら!言うのよ!)
「と、と、友達だから!…これ、あげる…」
「…うん。友達だもんね。ありがとう」
「うぅ…うん…」
(あぁ…違う…そうじゃないでしょう…)
自分にガックリなりそうだったけど、それ以上に羞恥心でいっぱいになっていた私は、八神くんに「それじゃあ!」とだけ言うと、逃げるように走り出していた
「友達だから…か」
本当はもっと言いたい事があったのに…
そろそろ一番星でも出てきそうな空をぼんやり見上げながら、ホームで電車を待つ私は、ついそう呟いてしまった
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