第31話 友達だから


 スマホを取り出し、Lineを起動する。

 俺の勝手な勘違いから、もしかしたら、彼女に嫌な思いをさせてしまったかもしれない。

 その想いから出てくる内容をメッセージに打ち込み、七瀬さんに送った


 七瀬さんからは『分かりました』という一言のみで、もしかしたらまだ怒ってるのかな、なんて思ったけど、俺はそれに対し『ありがとう』と返しておいた


 そろそろ教室に戻ろうと立ち上がったその時、また彼女からメッセージが届いた。

 なんだろう、と思い開いてみると、そこには『今日の放課後、会えませんか?』と


 そう言えば今朝ちゃんと話を聞けなかったし、俺も直接ちゃんと話して謝るのがいいだろうと思って、以前、瑠香さんと会った時のカフェで落ち合う約束をした





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 お店に着くと、彼女は先に中に入っているようなので、俺も中へ。

 七瀬さんを見つけ、軽く手を挙げ彼女の元へ


「ごめんね、待った?」

「はぅ…」


 おや?様子がおかしぞ…?


「あの…七瀬さん?」

「は、はい…」

「えっと、あの、変な誤解しててごめんね。あと、今朝、何か話があったんだよね?」

「いや、別にそういうわけじゃないの…」


 どこかよそよそしく、顔も少し赤いけど、機嫌が悪いわけではなさそうだ


「そうだったんだ」

「そうそう、そうなの!」


 それから七瀬さんと、特に取り留めのない話をして、でもこうして普通に彼女と話しているのがとても楽しくて、嬉しい


 柔らかい表情で、俺に笑顔で話しかけてくれる彼女は可愛くて、やっぱり俺は七瀬さんのことが好きなんだなって実感する


(…でも、俺とは……)


 そう、俺とは釣り合わないから…


 俺にとっては、七瀬さんがこうして笑顔で話してくれるだけで、それだけで十分だ。

 確かに彼氏はいないのかもしれないけど、あの時、「好きな人がいるから」って言ってたし、その人と七瀬さんがうまくいくといいなとか、そんなふうに思う自分がいる。

 俺は友達ってだけでも、 彼女が幸せになれるなら、それでいいじゃないか



 そして二人で一時間ほど話し、ふと外を見ると少し暗くなり始めている。

 前にコンビニまで歩いた時より日は長くなったけど、あまり遅くなってもやっぱり家の人が心配するだろうし、俺は名残惜しかったけど、「そろそろ出ようか」と声をかけ、俺達は店を出る


 駅まで一緒に歩いてるけど、七瀬さんは前の時のように、俺の隣でくっつくようにして歩くことはなく、ちょっと残念に思う自分に「なに考えてんだよ」と、笑ってしまいそうになる



 少し先に駅が見え始めたその時、制服の袖を引かれた感触に俺は振り返る


「あの…」

「あ…え?七瀬さん?」

「あの…」


 七瀬さんは俯いててその表情は見て取れないけど、耳まで真っ赤になってるのは俺でも分かった


(…え!?……もしかして…!)


 そう。駅前の商店街の装飾やイルミネーションから、俺は今日がバレンタインだと思い出し、一気に焦り始める


(え?え!?好きな人って…え?俺?)


 …ないない。そんなわけない。

 一瞬、勘違いしそうになった自分に、冷静にそうツッコむ。恥ずかしいこと考えるなよ


 七瀬さんはそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、バッ、と顔を上げて


「あの…あの!」

「は、はい?」

「これ!あげるから!」

「…は、はい」


 彼女は綺麗に包装された、その小さな箱を俺に差し出して


「と、と、友達だから!…これ、あげる…」

「…うん。友達だもんね。ありがとう」

「うぅ…うん…」



 七瀬さんは「それじゃあ!」と言って走って駅の方に行ってしまい、そして、その後ろ姿もすぐに見えなくなってしまった




「友達だから…か」


 そう呟く俺だったけど、彼女から貰ったその箱を大切に鞄の中にしまい、その鞄を大事に抱えて家に帰るのだった





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