第30話 分かってる(彩香side)


「ねえ、大丈夫?」

「うん…」

「いや、大丈夫な顔してないけど…」

「うん…」


 お昼休み、早川さんとごはんを食べていると、今朝のことを心配して聞いてきてくれたけど、正直、私は全然大丈夫じゃなかった。

 だって、見ちゃったんだもん…


「それで?八神くんはなんて?」

「…うん」

「はぁ…。七瀬さん?さっきからうんしか言ってないけど?」

「だって…」

「だって?なに?」

「彼氏がいるのにごめんね…って…」

「え!?彼氏いたっけ!?」

「ちょっと!声が大きい…」

「あ…ごめん…。それで、彼氏いたっけ?」

「いない…」

「だよね…え?どういうこと?」

「私…振られたんだよね…」

「はあ!?」

「だって!…だって…」


 私は今朝の八神くんとのやり取りを、早川さんに簡単に説明した


「なるほどね。それで?」

「え?」

「チョコ見つけちゃったから、もう手遅れだ、みたいな?」

「うん…」

「そんなに落ち込んで、どれだけ八神くんのこと好きなのよ」

「はぅ!」


 油断した…というかもうバレバレだよね…


「まあ、今朝話したのは、半分本当で半分は嘘なんだ」

「え…どういうこと?」

「えっと…確かに八神くんのことをああいうふうに話してるのは聞いたけど、実際に彼に告白するような子は…悪いけどいないと思うんだよね」

「そうなの?」

「うん。ああいう子達はそういう話がしたいだけで、それまでイケメン追いかけてたのに、急にフツメンには行かないよ」

「ちょっと…その言い方って…」

「ごめん、そういう意味じゃなくて、あの子達は八神くんには興味ない、ってだけ。たぶん、名前すら知らないと思うよ」

「そっか…よかった…」

「ふふ…七瀬さん、本当に好きなんだね」

「え!?いや…だから…」

「分かった。けしかけた私に責任があるんだから、ちょっと行ってくるね」

「ちょっと…どこ行くの?」

「まあ、待っててよ」


 早川さんはそう言うと、ササッとお弁当を平らげ席を立ち、私を残して行ってしまった





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 お昼休みもあと10分くらいかな、と思う頃に、早川さんは戻って来た


「どこ行ってたの?」

「八神くんのとこだよ」

「ぅえ!?」

「あの鞄に入ってたっていうチョコね、柊くんの彼女さんから貰ったらしいよ」

「あ…そうなんだ」


(よかった…)


「「よかった」って思った?」

「え!?」

「ふふ。顔にそう書いてあるもん」

「く……」

「あとね、変な誤解は解いておいたから」

「誤解って?」

「七瀬さんに彼氏がいるとかいう話」

「本当に?それで…分かってくれてた?」

「うん。大丈夫だと思うよ」

「そっか…」


 その時、スマホがバイブで振動した。

 見てみると、それは八神くんからのメッセージだった


(あ…八神くんからだ…)


「本当、嬉しそうな顔しちゃって」

「そ、そ、そんことないんだから!」

「それで?なんて?」

「えっと…」


 八神くんは自分が誤解していたことや、私の話を聞く前に、いきなり謝って困らせてしまったと、それらを丁寧に謝ってくれていて、彼の真面目な人となりが見て取れるような内容で、それを読むうちに、私は胸がキュンとなるのが分かってしまう


「本当に、その顔は反則だね」

「え?なにが?」

「女の私が見ても惚れるよ?」

「ちょ、ちょっと、何言ってるのよ…」

「恋する乙女、ってやつだね」

「もう!からかわないでよ!」


 早川さんは「ごめんごめん」と言いながら、でも笑顔で私のことを見てくれてて、


「ほら、返信しなくていいの?」

「わ、分かってるってば…」


 私はまた緊張して『分かりました』とか素っ気ない返信しか出来なかったけど、それでも彼は『ありがとう』と返してくれて、その一言のメッセージだけでも心が穏やかになっていくのが分かるくらいで


「じゃあ、ちゃんと渡してあげるんだよ?」

「…分かってる……」



 そう


 そのために頑張って作ってきたんだから



 私は勇気を振り絞って、メッセージを送る





『今日の放課後、会えませんか?』





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